なんにもないは、なんでもある
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:テラダサオリ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「あいにくその日は満席を頂戴しておりまして……」
受話器越しに、丁寧な口調で対応するその女性の声を聞きながら、私は内心焦っていた。思わず、心の声が漏れそうになった。
「ああ、またやってしまった……」
先日、久しぶりに会う会社の先輩と、休日ランチの約束をしたときのことだった。実家の父母が子どもを預かってくれるというので、その言葉に甘えることにした。
久しぶりに一人で行く東京。ふだん、子連れではなかなか行けないようなお店にも今回は制限なく行けるとあって、張り切って行きたいお店に目星をつけていた。しかし、都心の週末を侮ってはいけない……どのお店にしようか迷いに迷っているうちに、どんどん予約で埋まってしまったのである。
自分の優柔不断さに辟易しながらも、チェックしていたレストランのうち、ラスト1件で、何とか予約が取れた。NYセレブ御用達・日本初進出とうたっているイタリアンのお店だった。
楽しみにしていたランチ当日。その日は週末メニューで、パニーニかエッグ・ベネディクトのコースのみだった。シンプルなサラダ・1ドリンク・プチデザート付で2,500円。ランチで2,500円……独身やDINKS時代ならまだしも、何かとお金のかかる子育て中で、我ながら久しぶりに奮発したと思っていたし、期待値が高かった分、少しだけがっかりした。
開放的でおしゃれな店の雰囲気も、行き届いたサービスも何も問題はなかった。価格だって、東京の相場ならこんなものなのだろう。
問題があったのは、むしろ私のほうで、田舎生活がすっかり板についてしまっていたのだ。
ひょんなことから地元にUターンして、早1年になる。
家の目の前には田園風景が広がり、今日も、目前に迫った田植えのために田んぼを耕す機械の音が響いているし、朝は目覚まし代わりにホトトギスが鳴いていた。
おしゃれなセレクトショップも、海外からやってきて日本初出店のドーナツ屋なんてひとつもないし、最寄りのスーパーやコンビニでさえ、車で15分ほど走らなければない。その代わり、県内屈指の野菜・肉・魚の産地で、スーパーで旬ものはとにかく安い。そして、何を取ってもみずみずしくておいしい。家族でよく行く焼肉店なんかは、「これで1人前!?」と目を疑うほど量で、いつも驚かされる。
昔はあんなに、「この田舎では、就きたいと思う職業では生きていけない。早く都会で働きたい。ショッピングもしたい。映画だってライブだって、時間を気にせず、心ゆくまで見てみたい」と願っていたのに。
人は変わるものだ。
10年ぶりに自分の生まれ故郷に戻ってきてみて、やっと気がついたのだった。「なんにもない」と思っていた町には「なんでもある」ことに。
そして、私は、こんな田舎町から天狼院のライティング・ゼミを通信で受講している。もともと書くことが好きだったことと、「いつか」本気で書くことと向き合いたいと思っていたが、先延ばしになっていた、その「いつか」を実現させたいという思いで、受講しはじめ、早4ヶ月が経とうとしている。
毎週、毎週、迫ってくる「2,000字」という課題。
ゼミを受講しはじめて2ヶ月が過ぎたころだろうか。
本当に、私は困って、困り果てていた。書くネタが思い浮かばないのだ。
人に話せる程度の、人生で起こった劇的な話は、だいたい書いた。お察しの通り、平凡なサラリーマン家庭で育った田舎女子(今日だけは女子と言わせてほしい)に起こること、書けるネタなんて限られている。人並みに勉強し,社会人も経験しているところだが、しょせん、人並みなのである。
奈落の底までどーんと落ちるようなこともなければ、飛び上がるほど嬉しいことも同様に、である。はっきり言って、平凡な日常なのである。
しかし、そんな私でも、このライティング・ゼミの終盤になった今になって、書きたいネタがぽんぽん……とまでは言わずとも、少しずつ、湧き出てくるようになったのである。あんなに書くネタがなくて四苦八苦していたのに……不思議な話である。
ああ、そうか。
私たちの日常は、その日常自体が、書くためのネタの宝庫なのだ。
日々の営みのなかで起きたこと、そのとき揺れ動いた自分の感情、相手の気持ち、そのすべてが、である。大きな成功や華々しい経歴がなくとも、日々、考え、選択し、生きることを積み重ねている。何でもない、そのひとつひとつとゆっくり向き合ったり掘り起こしたりしていくことで、まだ知らない誰かの、感情を揺り動かしたり、行動へと繋がるきっかけになるのかもしれない。
なんにもないと思っていたが、書くためのネタは、すでに、手の中にいっぱい持っていたのだった。
このライティング・ゼミに出会い、書き続けることで、そう気づくことができた。それだけで、このゼミに参加した価値はあったと、私は思う。
しかし、仕事にしろ、息子の保育園や小学校の連絡帳にしろ、遠くの誰かへの手紙でも、ライティング、つまり書くことは、生きている限りついてまわる。
だから、少しずつ、たとえ亀の歩みでも、書き続けようと思う。
それに、このライティング・ゼミで、素人・玄人関係なく、書くことに本気で向き合っている人たちに出会えたから、私は、この先も歩みを止めないだろう。
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