天狼院書店の入り口には、罠があるのかもしれない。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:林新太(ライティング・ゼミ日曜コース)
「もう……間に合わない……!」
なんてことだ。天狼院書店のライティングゼミの初回だというのに。このままじゃ遅刻だ。
始めるかどうか悩みに悩んで早2年。ようやく決心ができた矢先に、このざまだ。
だいたい池袋駅がいけないんだ! 改札を出ると地下に放り出されるのだが、ちっとも出口がない。案内標識もどの方向を指してるのかよくわらない。脱出にゆうに20分はかかってしまった。
「そんな通り知らないですけどねぇ……」
「なんでわからないんですか! この近くにあるはずなんですよ! 「東通り」って通りが! 遅れちゃうんですよ! 教えてお願いします!」
駅から脱出する頃には完全に方向感覚を失っていて、近くの交番に天狼院のある「東通り」がどの通りかを尋ねた。「東通り」をまっすぐ行きさえすればつくはずなのに……! なんで交番なのに通りの名前もわからないんだ!
俺が「東通り」とは真逆の出口から出ていたことや、「東通り」が「ひがしどおり」でなく「あずまどおり」であることに気づいたのはさらに10分後の話である。
大学に入って一切運動しなくなった体をひっぱたいて起こして、「東通り」を全力ダッシュする。後5分……。東通りももう終わりというところまで走って、ようやくおしゃれな看板が見えてきた。
息を整えることも忘れて、店への階段を駆け上がる。
もう時計も見ていない。間に合ったか? アウトか? ヘッドスライディングでベースに飛び込むかのように、体から店のドアを開けた。
あれ。
天狼院だと思って飛び込んだ場所には、大きな穴が空いていた。俺は、真っ逆さまにその穴に落ちていった。
天狼院って、穴なんですよ? 知ってました?
いや。正確にはバンジージャンプ。バンジージャンプのバンジー台なんです。天狼院って。知ってましたか……?
「天狼院バンジー」から否応無しに突き落とされながら、思い出した。そうそう、本当のバンジーもこんな感じだったよなぁ……。
「飛ぶしかないしょぉ!」
マザー牧場へ大学のゼミ合宿できていた俺は、突然バンジーを飛ぶと言い出したらしい。ゼミにも入ったばかりで、軽い一発芸のつもりだった。たかだか10メートル強。初体験だったが、余裕だろうと思っていた。
しまった……。
完全に忘れていた。高所恐怖症だったんだ。
下がスケスケの階段を半分登ったところで思い出した。強風、心もとない手すり。四つん這いになって登るしかなかった。
着いたら着いたでちっとも踏ん切りなんかつかない。怖い! 怖すぎる!! ただ高いだけならまだいい。ここから自分で飛び出さなくてはならないのだ。
人が飛ぶのを見ていて想像していたのとの決定的な違いがあった。ヒモの存在が全く感じられないのだ。飛ぶ前の緩みきったヒモは、俺にとってはついているのかどうか、ちっともわからない。
だから正面を見て飛ぶと、感覚的には生身で飛び降りるのとなんら変わらない。怖い! 怖すぎるよ……。
「背中押しましょうか?」
係のお姉さんがひとこと。自分で飛ぶのは震える足的にも、メンタル的にも絶対無理だった。
ピンと伸ばした体が、そっと押される。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
飛んだ後は怖くないとかやないんかい! 落ちてる間中ずっと怖いんかい! 落ち る、落ちる、落ちる……。
「うっ!」
ようやくヒモの抵抗が感じられた。体が再び宙を舞う。
あ、ここになってようやく気持ちいい。しばらく空中での浮遊感を味わって、ボフッとクッションに着陸する。
実に無様。何分待たせてるんだよ、と仲間達は呆れているけれど。係のお姉さんに押してもらっただけなんだけど。なんだか変に誇らしいような、清々しいような気になった。
そうそう。今まさにそんな感じだ。あの時の変な爽快感にそっくりだ。
天狼院のおしゃれな椅子にゆったりと座りながらそんなことを思った。乱れた呼吸も回復しているのに。もちろん天狼院の床に穴なんて空いていないのに、だ。
講師の三浦さんは、俺たちを高い高いバンジー台へと気づかないうちに誘導していたのだ。さぁ、飛びなさい、と言うのだ。いや、正確には、
「さあ書いてみましょう。簡単でしょ?」
と言うのだ。
それはそれは恐ろしい高さだ。ろくな読書感想文もかけたことがない俺に、原稿用紙5枚以上もの文章を書け、と言うのだ。毎週一本。しかも、それをSNSで見てもらえ、と言うのだ。怖い。怖すぎる!!
もともと相談したりするのが苦手な方だ。自分のダメなところ、失敗まで時にさらけ出して、こんなものを世に出してしまっていいのか?? 自分が壊れてしまうんじゃないか? 変な、ダメなやつだとますます周りから思われるんじゃないか?
なかなか飛び出せない。足ではなく、指がすくむ、そんな感じだ。
それでも三浦さんは言う。「まずは、お伝えした通りにABCユニットの基本通り書いてみましょうよ。簡単ですよ」って。
俺は観念して飛び込んだ。最悪、自分からは見えないヒモが切れている可能性だってある。もうしらん! と思った。
「カチッ」
あぁ、投稿しちゃった。書き始めてから投稿するまで、ずっと怖かった。どう思われてしまうんだろう。途中で読んでもらえなくなるんじゃないだろうか。ますます現実の交友関係が狭まるんじゃ……。
「面白かったです!アップしますね!」
添削をしてくださる木村さんから返信がくる。それは天狼院書店のホームページに掲載決定の知らせだった。その瞬間、それまでの不安や怖さは吹き飛んだ。フワフワした、心地いい余韻が自分を包む。
恐ろしいことに天狼院は何度も飛び降りることを、求めてくる。なんせ「16回の投稿チャレンジ権付き」なのだから。
周りからの反応がイマイチだったこと、書くネタがなくなったこと、何度書いても合格がいただけないこと、怖くなること・書きたくなくなることは何度もあった。
その度に、三浦さんが、今回添削をしてくださった木村さんや川代さんが、そっとこう言ってくれた。
「背中、押しましょうか?」と。
何度だって飛び込めた。今でも怖い。不安だ。それでも、少しずつあの終わった後の気持ちよさ、達成感から逃れられなくなっていた。
あんなに来るなと思っていた、毎週の投稿期限が楽しみに変わっていた。ネタを探していたら、毎日の生活が面白い出来事に囲まれていることが見えてきた。
「文章を書く」という、恐ろしい「バンジー」。天狼院のスタッフの皆さんはいつも背中をそっと、しかし力強く押してくれた。
いや、もっと前からだ。飛び込むのが苦手な俺が、天狼院なんていう、ライティングゼミなんていう恐ろしく「意識高い系」の場所にいけたのも実は自分の力じゃない。
川代ノート。2年前からずっと憧れていた。あの文章たちに、川代さんにそっと背中を押してもらっていたんだ。文章は、あんな風に誰かの背中を押せるんだ。
今では、そんなに怖くない。飛び込むことが。そのあとにあんな素敵な感覚が待っているのだから。さて、次はどこに飛び出そうか。何を書こうか。今度は、「自分の足で」飛び込めるだろう。
作りたい。誰かの背中をそっと、そしてやはり力強く押せる、そんな物を。
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