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メディアグランプリ

ある悲しい出来事を通して考えた数学の役割


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:蔵本貴文(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
2018年3月18日夜、悲しい事故が起きた。
 
場所はアメリカのアリゾナ州テンピの公道。
49歳の女性が自転車を押しながら、道路を横断しようとした。
そこに運悪く車が通りがかり、彼女は車にはねられた。
すぐに病院に運ばれたが、死亡が確認された。
 
 
交通事故で亡くなる方は、一年に日本で3694人(2017年)、世界中では120万人にも及ぶらしい。一件一件は非常に悲惨な出来事だ。しかし、残念ながら世の中にとっては日常茶飯事のことである。
このアリゾナ州で起きた悲劇もある特殊事情がなければ、日本にいる我々は存在さえ知らないまま終わっていたに違いない。
 
特殊事情とは、はねた車にある。実はこの車は自動運転車であったのだ。彼女は自動運転車が起こした最初の死亡事故の被害者として、世界中の注目を浴びることになった。
 
 
事故は非常に残念なことではあるが、自動運転は人類にとって必要な技術である。
今後、事故の原因が徹底的に検証された後、実験が再開されることであろう。現代の便利な技術もそうやって開発されてきたのだ。
 
とはいえ、人間にはどうしてもわだかまりが残ってしまう。
「普通」の事故と技術が起こした事故だと、どうしても後者の方を重く見てしまうのだ。何か事故が起きたとき、原因が自分のミスである場合、天候など自然現象の場合、他人が原因の場合、テクノロジーが原因の場合を比べたとする。この場合後になるほど、心に大きなわだかまりが残るものなのだ。福島の原発事故のやりきれない悔しさにも、こんな効果が影響しているのかもしれない。
 
テクノロジーは人間の生活を豊かにしてくれる手段である。しかし、人はしばしばそれを脅威としてみる。これは人間のDNAに刻まれているものなのかもしれない。旧約聖書のバベルの塔の話のように、自らの技術を過信した人間に天罰が下る物語は、世界中にあふれている。
 
今回の事故の話は別にしても、自動運転の技術はタクシードライバーやトラックドライバーの仕事を奪ってしまうものとして、敵意を持つ人もたくさんいる。
ロボットやAI(人工知能)が発達すると、人間の仕事が奪われて貧乏になってしまうといった議論もよく聞かれる。
 
しかし、この認識は根本的に間違えていると思う。
コンピュータと敵対してはいけない。コンピュータはこれから、人間の道具から、同僚として進化していくと思う。単なる道具にはとどまらない。
 
 
そんな世界を先取りしている業界がある。それはプロの将棋の世界だ。
2017年に現役の名人がポナンザという将棋ソフトに破れ、これが名実ともにコンピュータが人間を超えた証明となった。
 
ただ、その後プロ将棋が衰退しただろうか?
むしろ、コンピュータ対局に注目が集まり、業界の注目度は上がった。
そして、藤井聡太六段(すぐに昇段してしまうだろうが……)の活躍もあって、業界は大いに盛り上がっている。
確かに将棋界で、コンピュータは人間を越えてしまった。でも、それが人間の世界の衰退を意味するわけではない。
 
個人的にはこの藤井聡太六段がこれからの世界がどのようになるかを暗示しているような気がする。
彼は愛知県瀬戸市出身で、現在も名古屋近辺に在住している。これが何を意味するかというと、上位者との対局の機会にそれほど恵まれていないということだ。
 
だから、彼は昔からコンピュータとの対局で成長してきた。人間よりもコンピュータと競い、腕を上げてきたわけだ。一昔前までは、コンピュータ将棋なんてプロ棋士にとっては子供のおもちゃのようなものだったから、彼はコンピュータ将棋でプロになった最初の世代といえるだろう。
 
彼の対局にはその影響は強く現れていて、解説のプロ棋士が予測できなかった彼の次の一手を、コンピュータソフトが正しく予測したという話もあるらしい。
彼の強さの秘密の一つは、コンピュータから学んだことであることは疑いないだろう。
 
このコンピュータから学ぶ能力、コンピュータを知る能力というものがこれから求められる能力でないかと思う。今まではコンピュータは単なる道具であった。それが同僚、部下、上司のような存在になっていくのだ。
 
人間とうまく仕事をしていくコツは、コミュニケーションである。意思疎通をしっかりして、相手の状態、向き不向き、感情、判断の背景などを確かめながら仕事をしていくことが重要である。
それは、コンピュータ相手の場合でも変わらない。コンピュータがツールから、同僚に昇格した時、彼らの向き不向きや判断の背景を正しく理解しながら、つまりコミュニケーションを密に取りながら仕事を進めていく必要がある。
おそらく藤井六段は、このコンピュータとのコミュニケーション能力が人並み外れて優れているに違いないと思う。
 
 
そして、そのコミュニケーション能力の要が数学である。
人間は頭の中で言語を回しながら思考している。だから、言語能力を磨くことが重要である。一方、コンピュータの中で回っているのは数字である。どんなに高度な計算を行うコンピュータであっても、その根は0と1の2つの数字なのである。だからコンピュータとコミュニケーションを取るためには数学が必須であるのだ。
 
今まで数学は単なるパズルであるとか、あるいは科学者や技術者の道具としてしか認識されていなかった。しかし、今後は我々の同僚であるコンピュータと十分なコミュニケーションをとる目的、つまり外国人とコミュニケーションを取るための英語のような役割を担うことになると考えている。
 
 
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2018-04-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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