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メディアグランプリ

28歳会社員が、若者の街・原宿で手に入れたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:たけしま まりは(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「うわぁ〜めっちゃカワイイですね!! 超似合ってますよ!!」
青い髪のボンバーパーマの店員が、試着を終えたユミコに叫ぶように言った。
ユミコが試着したのは青いギラギラのタンクトップで、胸元にアメリカのお菓子「オレオ」のロゴが入っている。スカートはグッチのロゴが入った茶色のタイトスカートで、かなり「攻めた」コーディネートだ。
ユミコはグラマラスな体型で、タイトスカートとギラギラのタンクトップがよく似合う。ユミコは店員の言葉に照れながらも、嬉々とした表情でタンクトップを買った。
 
原宿で古着屋めぐりをするのは6年ぶりだ。
原宿駅から竹下通りを抜け、明治通りへ。
明治通りの大型ファッションビルを通り過ぎ、スポーツショップの横の道へ入る。
細くて狭い道には、さまざまなジャンルの古着屋がひしめいている。
ああ、あの頃と、ぜんぜん変わっていない。
この道に、たしかこんな店があったはず……。あ、こんな雑貨屋さんもあったなぁ。
あの頃の景色を、目が、身体が覚えていた。
数々の古着屋を眺めながら、わたしは気持ちがどんどん高まってくるのを感じていた。
 
6年ぶりに原宿へ訪れたきっかけは、友人ユミコからの誘いだった。
「最近古着にハマってるんだよね〜。まりはって学生のとき古着系だったよね? 今度古着屋めぐりしよう!」
わたしのファッションの原点は原宿だ。
とあるバンドのファッションに影響されて古着系が好きになった。しかし地元の北海道には古着屋がほとんどなく、ファッション雑誌に映る原宿の街が輝いて見えた。
「東京に住んで原宿で古着屋めぐりをする!!」というのが高校生の頃の目標で、そのために受験勉強に全力を注いだ。
 
無事に東京の大学に進学が決まり、大学生活では念願の「原宿古着屋めぐり」を堪能した。
古着のいいところは、人と被らない服を安く手に入れられるところだ。
古着屋は大まかなジャンルはあれど、デパートに売っている服と違って「こういう服が売っている」という予測ができない。また基本的には一点モノのため、誰かに先に買われてしまう前に見つけないと! というスリル感がある。
気に入ったデザインなのにサイズが合わない……というのは日常茶飯事だ。けれど、そのぶん条件をクリアした「運命の一着」を見つけたときの喜びは格別だ。
カラフルなシャツ、スカート、アクセサリー……わたしは原宿に通い詰め、自分の好きなファッションに没頭した。「その服かわいい! どこで買ったの?」と言われることがなにより快感だった。
 
しかし古着系にはリスクもある。「攻めた」服と「ダサい」服は紙一重なのだ。
試着したときは「ちょっと攻めすぎ……? まあいっか!」と思い、実際に学校に着ていくとなんだか違和感を覚える。まわりからも妙に浮いてしまい、友人に「それ、面白い服だね」と言われる始末。「面白い服」というのはたいてい遠回しに「ダサいね」と言われている証拠で、こういうときはあちゃー、と思う。
けれど古着屋めぐりを辞めようとは思わなかった。「運命の一着」に出会えたときのあの興奮が忘れられず、辞めるに辞められなかったのだ。
 
しかし、いつのまにか古着屋めぐりを辞めてしまった。
就職活動が始まる大学3年生の秋からだっただろうか。髪を黒く染め、リクルートスーツを着た途端にいままで着ていた服が幼く感じ、それから徐々に古着を着なくなった。
そして社会人になるとこれまで以上に古着を着なくなった。会社に着ていくスーツでクローゼットはいっぱいになり「社会人として仕事を全うしなきゃ!」と思うわたしにカジュアルな服を着る余裕はまったくなかった。
それからあっという間に、6年も経ってしまったのだ。
 
久しぶりの古着屋めぐりは新鮮だった。
年を重ねたこともあり、さすがに学生の頃と同じような服装はできないが、バッグやアクセサリーなど28歳のわたしでも身につけられそうなモノを見て回った。
ユミコと「これ、会社に着ていけないよね〜でもかわいい!」「これはどう?」と言い合うのはとても楽しかった。「ちょっと検討します」と言って別の店に行き、1時間後に戻ってきたときには目当ての服が売れていて「もう売れちゃったの!」と原宿のスピード感に驚き合った。
 
わたしは久しぶりの興奮につつまれながら、なんでこんなに古着が好きなんだろう、と思い巡らせていた。
たぶんわたしは「人と違ったことがしたい」とずっと思っていたんだ、と思った。
まわりに居ないファッションに憧れるのは、まわりと違った行動を取れる人に憧れることとおんなじだ。
古着系というよりも、まわりとは違う「自分系」を、わたしは極めたかったのだ。
スーツを着る生活に慣れきってしまい、いつのまにかこんな気持ちを忘れてしまっていた。
「どんな服を着たいか」は「どういう人生を生きたいか」と同じことなのに。
いま、わたしはどういう気持ちで服を選んでいるだろう……?
 
半日かけて原宿を歩き回り、ユミコはタンクトップとアクセサリーをいくつか買ったが、わたしの収穫はゼロだった。
そんなに時間をかけて何も買わないなんてもったいない! と思うかもしれないが、わたしは心地よい疲労感と満足感に包まれていた。
 
ユミコと明治神宮前駅で別れ、電車内で一息つく。
そうだった。わたしは「人と違ったことがしたい」んだった。
わたしのファッションの原点の街は、わたしにすごく大事なことを思い出させてくれた。
 
明日からまた仕事だ。
明日は何を着ようかなぁ。デザインが好きだけどあんまり着ていない黄色のトップスにしようかなぁ。
トップスを「攻める」かわりに、きちんとジャケットは着よう。
そして自分の生き方を思い出せる服を、これから積極的に着ていこう。
 
この日は「運命の一着」には出会えなかったが、得るものは確かにあったのだ。
 
 

***

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2018-04-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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