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メディアグランプリ

変態的な「人」研究者は許されるのか問題。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田裕嗣(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「”外科”と”内科”の違いがあるけど、俺たちは人を研究対象としか見てないってことだね」
 
似た者同士であることは、お互いになんとなく気付いていた。
ただ、何気ない会話から、はっきりと浮かび上がってしまった2人の共通点は、「残念な結論」でもあり、深く納得できるものでもあった。
 
その人とは、5年ほど前、あるプロジェクトで一緒になったことで知り合った。
同年代で、歩んできた仕事のキャリアも近い。
そのせいか、仕事に対する問題意識や大切にする価値観が似ていて、仕事以外でも飲みに行くような仲の良い友人関係になった。
 
彼は、面倒見が良く、兄貴肌。
困っている後輩が居ると「余計なお世話」に見えるくらいのサポートをしてあげる、せずにはいれらない。
仕事の中では厳しいことも平気で言う。
それでも、一緒に飲みに行っては、バカ話もたくさんしつつ、後輩の悩んでいることにも真摯に向き合う。
そんな豪快でも繊細でもある役回りを好んで引き受けるので、会社の中では「困ったらこの人に相談したくなる」ような、頼れる存在。
 
そんな彼が、ふと、珍しいことを言い出した。
 
「俺さ、そんなに人に興味が無いんだって、気付いちゃったんだよね……」
 
おそらく、普段の面倒見のよい彼をよく知っている人からすれば、とても意外な発言なんだろう。
ただ、このセリフを聞いた瞬間、私は、彼と自分の共通点がはっきりと分かってしまった。
彼と私は、根っこにある「動機」が、恐ろしく似ている。
 
よくよく話を聞いてみると、彼は人と関わるときに、プレパラートに乗せて、顕微鏡で覗き込むかのように振る舞っているらしい。
「こんなフォローをしてみると、この人は改善するかな?」
「このタイプの人なら、これくらい強い言葉を使っても、立ち直れるかな?」
 
「実験対象」に色んな刺激を与えて、その反応を見るように、様々なパターンで目の前の人と関わっていく。
相手の限界をきちんと見極めて、相手が受け入れられるところまでで必ず留める。
それが彼の優しさであり、「研究者」としての熟達の表れでもある。
 
私が人に関わるときも、それとほとんど変わらない。
1つだけ違うのは、彼が「外」から刺激を与えて知ろうとすることを、私は相手の「内」から探し出そうとする。
「この人が言っている”辛かった経験”は、私のあのときの経験と近いのか?」
「私だったらこうやって考えるだろうけど、そう思っていないのはなぜだろう?」
 
自分の中にある経験や感情と比べることで、相手の内面をより深く知ろうとする。
相手のことをより深く理解できれば、支援の仕方も、アドバイスも、より的確になっていく。
「相手を深く知ることは、相手を支援するためである」と、長いこと、自分自身に言い聞かせてきた。
 
ただ、私もふと、気付いてしまった瞬間がある。
彼が「人に興味がない」と気付いた、と言ったのと、まさに同じように。
 
私は、相手の内面を掘り下げ、理解するための質問をしているようで、実は、相手を「研究対象」にしながら、自分自身のことをより深く理解しようとしていた。
「仕事」としても「お節介」としても、相手を深く知れたからには、それを「せっかくだから役立てよう」とは思う。
ただ、私が本当に喜びを感じるのは、感じてしまうのは、自分自身を知ろうとすることのできる、その瞬間の方である。
 
彼も、全く同じ結論を出していた。
「色んな人の反応を見て、その結果を集めて、色んな考え方を集めていきたいんだよね」
「引き出しの中に色んなコレクションが合ったら嬉しくなる、そんな感じだよ」
彼の「動機」は、人のパターンを集めること、その一点にあった。
 
二人とも、今でも「人」や「組織」に関わる仕事をすることが多い。
目の前の患者を治そうとするように、目の前の「人」や「組織」がより良くなるためには、どう関わればいいのか。
それを考えることが仕事でもあり、また好きでもある。
 
ただ、心の奥底で言えば、二人とも治療を通じて「研究」をしている。その結果を集めたいと思っている。
 
「ただの変態だね、うちら」
 
二人とも、認めざるを得ない。
残念ながらその通り。
 
さて、果たして、そんな変態的な人の研究をしていることは、許されるのだろうか?
 
「為さぬ善より為す偽善」
とまで言うと大げさだが、二人とも、根本の動機がなんであれ、目の前の患者を治そうとしていることに変わりはない。
少なくとも彼は、今も色んな人から慕われ続けているし、ひっきりなしに大小様々な相談が飛んできている。
 
「誰かの役に立とうとする」、そこから外れないこと。
あとは、研究を通じて得られた成果を、ちゃんと世の中に還元し続けること。
それさえやっていれば、少なくとも、許してもらえるんじゃないか。
 
お互いに納得させるように出した結論は、あまりに当たり前で、そしてこの上なく自分たちらしい。
 
 
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2018-04-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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