「学生の頃はよかった」と言う大人にだけはなりたくはなかった
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:菊地功祐(ライティング・ゼミ特講)
「せっかくの人生だから、自分の好きなことを仕事にしたい」
久しぶりにあった高校の同級生がこんなことを口にしていた。
彼とは会うのは二年ぶりだったが、相変わらず俳優となる夢に向かって一直線の人だった。
高校を卒業して数年近くたち、お互いに25歳となった。
いつの間にか自分の人生に後戻りができない年齢になってしまった。
自分が選択できる仕事の幅も極端に狭くなり、いまさら野球選手になろうとしたって無理があるだろう。
自分の夢に向かってアルバイトで生計を立てて、稽古には励んでいる友人が羨ましくあった。
自分にはない情熱があったからだ。
「会社員なんてやりたくないんだ。適当に働いたってみんな同じ給料が支払われる。そんな働き方嫌なんだ。せっかくの人生だから自分が本当に好きだと思えることを仕事にしたいんだ」
熱く夢について語る彼が正直、羨ましかった。
そして、本音でいうと違和感が拭えなかった。
自分は途中で夢を諦めた人だ。
もともと映画監督になりたかった。
映画が大好きで、大学を卒業するとともに映像制作会社に入った。
しかし、あまりにもブラックすぎて体調を崩してしまい、逃げ出してしまった。
好きな仕事なら続けられると思っていた。
就活のときも、マスコミ会社や映画会社を受けて、あたかも自分は特別なんだから、人よりも目立つ職業につきたい。
誰かに「君には才能がある」
そういってくれる人物を待ちわびていた。
だけど、結局は何者にもなれなかった。
大学を卒業して2年以上がたち、25歳になった今でも夢を諦めきれない同級生がやっぱり羨ましかった。
だけど、どうしても違和感が拭えなかった。
自分は社会にはみ出しているのが嫌で会社員になる選択をしたけど、実際にやってみたサラリーマンの世界は想像とだいぶ違っていた。
父親がサラリーマンをやっていたせいか、日本のサラリーマンはみな愚痴をこぼしながら、いやいや会社に出社して、定時すぎまで嫌々残業し、ストレスを飲み会の席で発散するだけの生活だと思っていた。
だけど、実際に社会に出るようになって、親が自分にかけてくれたお金の重みを知ると同時に、普通に社会人をすることがこんなにも大変なことなのかと思ってしまった。
会社の上司は家族を養うため、自分たちの釜の飯を食うため、夜遅くまで残業している。
昭和気質の会社のためか、夜遅くまで働くのが美徳……
そんな考えもあるだろうが、とにかく目の前の仕事に食らいついて、いろんなことを私に教えてくれる。
こんなに社会人をやるということが大変なことだとは正直思わなかった。
自分はサラリーマンなんてダサい。
自分が好きことを仕事にすべきだと友人と同じように思っていた。
だけど、実際に社会に出て仕事をしてみると、世の中の社会人の人たちが、
いかに凄いかがわかるようになった。
皆が懸命に働いてくれているから世の中って回っているんだ。
そんなことを感じるようになったのだ。
だから、昔の自分のように
「社会人なんてダサい。せっかくの人生だから自分の好きなことを仕事にしよう」という友人の言葉にどうしても違和感が拭えなかった。
最近は働き方改革の影響かノマドワーカーやフリーランスの仕事をする人が増えてきたという。
SNSの発展によって自宅にいても仕事ができる時代だ。
わざわざ満員電車に乗って出社しなくてもいいのかもしれない。
ありのままの自分でいよう。
自分の好きなことを仕事にしよう。
それはそれでいい考えだと思う。
だけど、自分が好きな仕事を選んで失敗した経験があるからか、心の奥底では賛同できない自分もいる。
働くことって一体何なのだろうか?
社会に出て、大人になるってどういうことなのか?
大学を卒業して2年近く立つがいまだに答えが出てこない。
社会人なんてダサい。自分が好きなことを仕事にしたい。
そう云う友人の声は正解なのかもしれない。
だけど、そういうことばかりを発する社会にどうしても違和感しかなかった。
社会人って本当にそんなにダサいことなのか?
社会の歯車になって働くって、人生の貴重な時間の無駄なのか?
そう思っている時に、この本を読み返した。
就活をドロップ・アウトし、世の中を彷徨い、ライターというものを書く仕事にありついた自分が尊敬するライターさんが書いた本だ。
SNSで見かけたからずっと気になって、読みふけってしまい、何度も読み直してしまう本だ。
「傷口からの人生」
もう擦り切れるくらいに読み潰してしまっている本だが、毎回本を開くと新しい発見がある。
社会に適合できなかった著者。そんな著者が少しずつ社会の歯車にぎこちないなりにも、はまろうと努力していく姿が泣けてくる。
何度読み直しても、泣けてくるのだ。
その本の最後にはこう書かれてある。
「社会はルビンの壺に似ている」
ルビンの壺は見る人によって壺にも見えるし、カップルの姿にも見える。
社会もそれと同じで、会社で働くのは辛いと思っている人にとって、会社はそういう形に見えるし、社会はこういうものだと思っている人にとって、社会のありかたはそう見えるだけなのだ。
自分も昔は社会人なんてかっこ悪い。
そう思っていた。
だけど、「仕事はそういうものだから仕方ない」と思っている人にとって、仕事はそうあるだけで、世の中は自分が思っている以上に幅広く広がっているのだ。
仕事や社会の形を決めるのはいつも自分自身だとその本では力強く書かれていた。
確かに自分の友人のように社会人は辛く、格好悪いのかもしれない。
だけど、自分は「学生の頃はよかった」という大人にだけはなりたくない。
もっと、仕事って楽しんだぞと胸を張って言える大人になりたい。
この記事を書いているのは日曜日の夜中だ。
きっと朝になって月曜日の通勤ラッシュに巻き込まれてたら、やっぱり会社員は嫌だと思うかもしれない。
だけど、この本の一節を思い出して、私は満員電車の中に乗り込んでいくだろう。
いつだって社会のあり方を決めるのは自分自身なのだから。
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