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19歳、はやい反抗期がやってきた!


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記事:コバヤシミズキ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
遅めの反抗期がやってきた。
気づいた時には私は母を無視し、部屋の扉を荒々しく閉めた後だった。
腹立つ。無理。大人げない。
色々な言葉が頭の中を逡巡するけど、一番多く流れてきたのはこれだった。
「ヤバい」
ヤバい、ヤバすぎる。この歳で今更反抗期とか恥ずかしすぎる。
「小林瑞季、満19歳」
就活関連の提出書類に何度も書いた“19歳”が、こんなに恨めしい日が来るなんて。
「早く大人になりたいなあ」
子供にも大人にもなれない私は、とりあえず母への謝罪を考えることにした。
 
思えば、私は今まで反抗期ってやつにならなかった。
そもそも反抗期って、中学生から高校生にかけて起きるらしい。確かに当時、周囲の友人たちも「くそババア」的なことを言っていたような気がする。そのときはどうでも良かったが、なるほど、あれは反抗期だったのか。
「興味が無いにもほどがありすぎでしょ」
周囲からも、そして自分自身でもマイペースだと思う。でも、マイペースもここまで来ると害悪だ。現に実害が、今ここに。そう、事件は現場で起こっている。
「反抗期、ねえ」
もちろん、第一次反抗期である『イヤイヤ期』はあったらしい。その証拠に、頑なに歯磨きを拒んでいたという話は、今でも親戚間で酒の肴になっているのだ。正直、やめてほしい。
しかし、第二次反抗期は全くと言って良いほど私に訪れなかった。恐ろしいほど穏やかに、家の中で私の心は凪いでいたのだ。
それなのに、私の心の平穏はぶち壊されてしまった。
「……親が親なら、子も子ってね」
どうやら私の反抗期は、私とよく似てマイペースらしい。
 
反抗期が来ること自体には、別に文句はない。
恥ずかしいし、情けない。でも、悪いものでもないし、世間的にも認められているものだし、良いのかなって思う。
「ただ、時期が悪い」
スケジュール帳を見ながら、深くため息をつく。今週も来週も予定は真っ黒。さよなら三月、また来て四月。気づけば四月ももうすぐ終わろうとしている。
「就活がこんなに忙しいとか、知らなかった」
知識として知っているのとは訳が違う。実際この身に降りかかると、本当に忙しい。先週他県で第一次選考を終えたばかりだというのに、明後日から一日おきに二社。来週、恐らくもう一社受けることになるだろう。
……たくさん恋人を持つ女の人ってこんな感じなんだろうか。とりあえずキープ。給料を見て、良ければ条件を見て、そして結婚。ほら、就活とそっくり。
「まるで浮気じゃないか」
そんな修羅場に、反抗期はのこのことやってきた。一体どの面下げてやってきたんだか。
「ほんと、時期が悪すぎる」
 
こうやってみると反抗期って、空気読めないやつなんじゃないか。
かつて周囲の友人たちには、中学校から高校にかけて反抗期が訪れた。一方私は、19歳という今更感が否めない時期。一見、私と彼らの反抗期は違うものに見えるだろう。だって、時期が違うから。15歳と19歳。4年の差をつけてやってきた反抗期。4年も煮詰めた19歳の反抗期は、きっとスレて汚い色をしている。
……でも、タイミングはバッチリ。
「ほらね、やっぱり空気読めないじゃん」
中学3年生の彼らと、短大2年の私。高校受験に、就活。人生の転機、一大イベント。
それなのに。そうだというのに、反抗期は空気も読まずに横やりを入れてくるのだ。
 
……そう考えると、遅めの反抗期も納得というかなんというか。
高校受験も大学受験も、推薦で通ってきた私。もちろん、それなりに努力はしてきた。だけど、切羽詰まっていたかと言われると、素直に肯定できない。
「推薦で落ちても大丈夫! ワンチャンあるっしょ!」
正直、余裕だった。受かる自信があったし、実際合格しているし。ただ、今思うとあまりにも楽観的だったなと思う。これはもう性格の問題だろう。ちょっとマイペースと呼んで良いのか怪しいが。
しかし、とうとうマイペースが乱されるときが来てしまったのだ。
「早く大人になりたいなあ」
就活に“ワンチャン”はない。一社を何度も受けることはほぼ不可能だ。チャンスは一度きり。
「……早く、早く大人にならないと」
焦りが私の余裕を、マイペースをせっつかせる。だって、大人にも子供にもなれない19歳。いつまで“マイペース”が許されるのか、まるで見当もつかないのだ。
 
分からないのは、怖い。
だから、強がって他人に当たってしまうのだろう。
……母がうるさく言うのも、先生が会うたびに就活状況をきいてくるのも。きっと、優しいから。
うん、分かってる。大丈夫、大丈夫だから。
「私のことは放っといて!」
無理矢理扉を閉めた私を、母はどんな顔で見ていたんだろう。分からない。分からないから怖い。
だって、知らない。こんな気持ち知らない。
反抗期なんて知らない!
「ごめん、本当にごめん」
扉越しに謝る声が、聞こえないことは分かってる。
素直に謝れないのが憎たらしい。反抗期が憎たらしい。心の中がぐちゃぐちゃで、涙が出そうだった。
 
「遅めの反抗期、自立の証拠だね」
だから、扉越しに聞こえた声にめちゃくちゃ驚いた。まさか、聞こえてた? しかし、母はそれだけ言って去ってしまった。
「……自立か」
母は確かにそういった。いつものおどけた言い方じゃなくて、聞いたことないくらい優しい声で言ったのだ。
「もしかして、聞こえてないって思ってるのかな」
それなら、ちょっと面白い。だって、お互い聞こえてないと思っているのだ。まるで、何かの漫才じゃないか。アホすぎて、笑ってしまう。
でも、少し余裕が出来た。そうすると、母の言葉がすんなり入ってくる。
「そっか、私、自立したかったのか」
反抗期が自立欲に変わった途端、私はドアノブに手をかけていた。
 
遅めの反抗期が終わった。
嵐のようにやってきて、思いのほかあっさりと帰って行った。
代わりに今は、自立欲が私の中でそわそわしている。
「大人になるのは、もうちょっと待とう」
心変わりが早すぎる? だって、19歳。目をつぶって欲しい。
扉を開けても、母には謝らない。謝罪の言葉より言うべきことがあるからだ。
自立への第一歩、伝えるべきは謝罪じゃない。
だから、大人になる前に感謝の気持ちを伝えたい。
「母さん、あのね」
扉の先の母は、確かに笑っていた。
私はその顔を一生忘れないだろう。
そして、19歳の反抗期もきっと忘れることはない。
だって、こんなの覚えておくしかないじゃないか!
「ずいぶん速い反抗期だこと!」
「ほんとそれ!」

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2018-04-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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