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お金に困らないために妻が長女にさせたこと《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中野 篤史(プロフェッショナル・ゼミ)

「じゃあ、あなたはスマホケースを買うより留学の方が価値が上だと思っているわけね」と、妻が言った。
「……」そうだ。と言い返そうと思ったが、言葉に詰まってしまった。

「私は、彼女に我慢をして欲しくないと思っているの。なぜなら……」
普段温厚な彼女には珍しく、訴えかけるように話した。

ことの発端は、長女のスマホのことだった。長女は今年から高校へ進学したが、これまで我が家では子どもにスマホを持たせていなかった。理由は友人同士のコミュニケーションで問題を起こしやすいからだ。ちょっとしメッセージのやり取りで感情的になり、相手を傷つけてしまったり、傷つけられてしまうことがある。大人のグループですらイジメや、トラブルを引き起こすことがあるのだ。未成年の彼らにそれをさせて上手くコミュニケーションできると思う方が間違いだ。実際、娘も中学生のときに大変な目に遭っているから、本人が一番わかっている。だからLINEなどのSNSはやっていない。ガラケーは持たせているが、それは外出している時に連絡をとるため。これまでは、それで十分ことが足りていた。状況が変わったのは、高校の授業が始まってからだった。どうやら英語や、社会など、いくつかの授業では連絡をSNSでおこなうらしい。つまり、スマホ所有の前提で授業を進めているのだ。それ自体は別にいいとして、だったら入学式の前に説明をするとか、そもそも入試前の学校説明会でも話をするとか、先に説明があって然るべきだと思う。だけど、そのような配慮は全くなかった。
「今の時代は、もうそれが当たり前の前提になっているのよ、きっと」と妻は言った。いやいやいや、ちょっと待っておくんなさいと。だったら中学校はなんなんだと。中学校は学校へスマホ自体持っていってはいけないルールだったじゃないか。私からすると、全く腑に落ちない。本当に学校ってところは……。

授業でスマホを使うのなら仕方がない。だったらスマホを買おう。しかし、そこで一悶着起きることになる。昨日の夜のことだった。会社から帰宅した私は、長女に持たせても安心なスマホを探した。「持たせても安心」とはどういう意味かというと、それは丈夫という意味だ。彼女はとにかくモノを壊す。オッチョコチョイなのだ。私が大事にしていたコーヒーカップ。叔母からもらった腕時計。誕生日にプレゼントした電子手帳。自転車……。しまいには怪我まで。だから、スマホを持たせたら、画面を割るか、水没させるか、すぐ壊してしまう可能性が非常に高い。iphone を買うなんて恐ろしすぎてできない。auの中では比較的丈夫だという、キョーセラ製のスマホがいいと思った。構造も丈夫に設計され、水洗いもできるからだ。しかも、iphoneの約半額で買える。

長女を部屋に呼んで、パソコンの画面を見せながら聞いた「このスマホがいいんじゃない。丈夫そうだし」
「あ、うん」なんとなく、釈然としない様子の長女。
「アンドロイドって、バグがあるって話を聞くから」と長女がいった。
バグ? 一体なんの話をしているんだ?
「バグって、どういうこと?」
「時々、動かなくなっちゃうとか」
「ああ、そのことね。それならiphoneだってなるよ」と説明しながら、まさかこの子はiphoneが欲しいなんて言い出すのではと警戒する私。iphoneがいくらすると思っているのだ。授業の連絡に必要なだけで、そんな高価なものは必要ないだろ。ただ、頭ごなしに否定をするのがいいとは思わないので、まずは様子を見よう。
「iphoneじゃダメなの」と聞いてきた長女。やっぱりきたか。
「なんで、iphoneがいいの?」
「欲しいスマホケースがあって、それがiphone用しかないの」マジかー。余計にiphoneを買う理由がないのである。ここは一応妻の意見も聞いておこう。民主的に決めようではないか。
「そうか、でも授業でスマホを使う必要が出てきただけだよね? スマホが10万円で、こっちが4万5千円。iphoneが必要だとは思わないんだ。でもお母さんの意見も聞いて見よう」。妻に部屋にきてもらって状況を説明した。妻もiphoneの値段には驚いたようだ。
「それで、アンドロイドのスマホでも授業には使えるの?」と、私に説明を求める妻。
「ああ、もちろん。アンドロイドだって使える」。そのやりとりを聞いている長女の顔は曇っている。気持ちはわかるが、こっちにも大人の事情がある。いや、経済的な事情だ。申し訳ないが、ここは我慢をしてくれと思う。それに、iphpneを買うくらい、屁でもない収入があったとしても、はいはいそうですかと、買ってあげようとは思わないだろう。
「まあ、そのスマホケースのためにiphoneを買うのも、ちょっとねー。こっちのアンドロイドにしとけば。」と妻が言った。長女の反応は渋かった。全く納得していない表情で彼女は言った。
「じゃあ、それでいいよ」そう言葉を残し、ややふて腐れた様子で部屋を出ていく。その様子を見ていた妻が後を追って出いった。

開け放たれたドアから、隣の長女の部屋で話す妻の声が聞こえてくる。
「あのね、本当にそれが欲しいんだったら、簡単に諦めちゃだめなんだよ」
「もう、いいよ」
「いい? 本当に欲しいものがあるんだったら我慢しないで、どうやったらそれを手に入れられるか、ちゃんと考えるの」
「どうせ、スマホケースのことだからいいよ」
「あのね、それを人がどう思うかなんて関係ないの。人から見てどうでもいいものでも、あなたにとって価値があるものなら、諦めないの!」
その後も、妻と長女の話は続いていたが、彼女はアンドロイドでいいと意地を通していたようだ。そして、とりあえず一晩考えることになった。ただ私の意見は、そもそも必要がなく長女も困っていなかったのだから、我慢をさせた方がいいと考えていた。

翌朝、長女が学校へ出た後、妻と2人で話をする。私は妻と意見が違う。気が進まないが、彼女と議論する必要がありそうだ。リビングのテーブルに向き合って話を始める。
「あのさ、俺はやっぱりiphoneは必要ないと思うんだよ。今まで本人だって、無い方がいいって言ってたくらいだし。それが、授業で必要になった途端iphoneが欲しいだなんて。授業で必要なだけなんだから、iphoneである必要性がない。我慢してもらおうよ」。それに対して妻が応える。

「確かにそうかもしれない。でも彼女は普段あまり欲しがらない子なの。どちらかといえば、家のことにも気を使って我慢をしていることの方が多い。だから、今回は我慢して欲しくないと思ってるの」
「それなら、もっと役に立つことへお金を回せばいいじゃないか。絵の学校とか短期留学とか、彼女がやりたいと思っていることは他にもあるんじゃない? スマホケースのために高いお金を出す必要はないと思うよ。」

「じゃあ、あなたはスマホケースを買うより留学の方が価値が上だと思っているわけね」と、妻が言った。
「……」そうだ。と言い返そうと思ったが、言葉に詰まってしまった。彼女が言いたいことがわかった。

「私は、彼女に我慢をして欲しくないと思ってるの。なぜなら、あの子はどちらかと言うと普段我慢をする方だから。欲しいものがあるなら諦めて欲しくない。それが、たとえ他人からみて価値がないものであっても。そういう意味では次女の方が自由かもしれない。コレっと思ったものは躊躇せず買うから。だから、彼女に諦める癖をつけてもらいたくないの」
「そうか……」妻の話も一理あるような気がしてきた。

妻はこれまで、たくさんの人間と接してきた。彼女には人の悩み事を解決するという稀有な才能が備わっている。だから、若い頃から相談にやってくる人が絶えない。企業の経営者もやってくる。そんな彼女が話す。

「自分が倹約をしていると、お金持ちの人のお金の使い方が我慢できないのよ。お金持ちの人って理にかなったお金の使い方をしないから。ええー、そんなことにってところに、一見無駄に見える使い方をすることもあるの」そんな意図はなく彼女が話しているのはわかるが、なんだか自分のことを言われているようで耳が痛い。彼女は続けた。

「せっかく、お金持ちと知り合いになっても、普通の人はそういう使い方に我慢ができないから、あの人達とは合わないっていって、庶民的なお金の使い方に戻ってしまうの」ますます、耳が痛い私である。
「倹約をしている人を沢山見てきたけど豊かじゃないのよ。殆どの人は。お金は、巡るものだから使えば入ってくるの」確かに、それを妻が言うと説得力がある。彼女は、値札を見ずにものを買う。私にはとても怖くてできない。それから、妻は人にもよく贈り物やお礼を贈る。でも、不思議とお金に困ることはないのだ。むしろ、どんどん巡っている。でも、一方でそうならない人がいるのは事実だ。

「でも、一方では使いすぎて破産する人達も多くいるよね。それって何が違うんだろう?」疑問をそのままぶつけてみた。
「わからない。私には確かなことはわからないけど、多分そう言う人たちには、お金に対する恐れがあるんだと思うの。だから倹約をしたり、逆に反対側に振れて無理してお金を使っちゃうのだと思う」
「ああ、なるほど」それからしばらく話を続けた。

「オッケー、じゃあiphoneの件は君の意見にのっかるよ。あの子が帰ってきたら、俺はお母さんの意見にのったって言っておいて」。結局スマホの件はiphoneを買うことで一件落着した。しかし、これには後日談がある。

それから、数日が経った。私はそろそろiphone6から8plusへ買い換えようと考えていた。ガラスにもヒビが入ってしまったし。そレからライティング用に持ち運びが便利なMacbookの一番軽いやつも買おうかとも。仕事から帰ると妻から相談があった。長女が学校から夏休みの短期留学の案内をもらってきたと言う。そして、本人はどうしてもそれに参加したいのだと言う。さらに、申し込みの期限が明日だと。マジかー。3人で少し話しあった。結論はでた。「わかった、申し込もう」。

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2018-04-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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