「病気に感謝」ができたなら。
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記事:西岡妙子(ライティング・ゼミ日曜コース)
小さいころからアトピー性皮膚炎に悩まされてきた。肘裏、ひざ裏、手指の先。大人になるにつれて、落ち着いてきた、と思ったら、出産とともに再発した。乳幼児との生活は、水仕事を増やす。おむつ換え、授乳など、頻繁に手を洗うようになって、水ですら荒れるようになった。産後の精神的・肉体的疲労が、拍車をかけたようだ。
同じ作業をしていても、なんともない人が多い。「かさついて嫌よね」と笑うママ友たちの全然大したことない美しい手と、私の血だらけ湿疹だらけの惨憺たる手を比べ、生まれつき皮膚が弱い体質を呪っていた。
アトピーに限らず、日常生活はなんとか送れるのだけど、地味な不調に悩まされている人が、現代の日本ではほとんどだろう。腰痛や、ぜんそく、頭痛もよく聞く。ひざの痛み、肩凝りなどもそうだし、視力、聴力の低下、鼻炎も、花粉症も不快だ。みんな何かに悩まされている。みんな「弱いところ」を持っていて、どうにかしたいと思っているか、もしくはうんざりして、諦めている。
「病気に感謝すれば、症状は緩和する」なんて話も聞くけれど、そんなきれいごと! 憎みこそすれ、感謝なんて、ほど遠い。こんなに荒れて、苦労させられている手を、愛せるわけがない。
と、ある話を聞くまでは、そう思っていた。
「これは本当に、簡単なことなのだけれど」と、その医者は話し始めた。
「仮に、あなたがある会社の社長だとして。あなたの会社は、今、順調に仕事が廻っていて、それなりに忙しい。働き者の社員もいれば、のんびり屋もいる。いろんな人がそれぞれの持ち場を守っています。そんなときに、トラブル発生の予兆があったとします。そのトラブルに気付く社員はどんな社員でしょう」
簡単だ。「勘が働いて、頭の回転が速くて、有能なタイプですね」
「それを聞いて、そのトラブル回避を、誰かにやらせなければいけない。通常業務を越えているのだから、誰かに残業してもらわなければならない。社長のあなたは、さあ、誰に仕事を振りますか? 暇そうな、仕事のできない人? それとも、有能な人に頼み込みますか?」
私は当然「そりゃあ、仕事のできる人に、頼みます」と答えた。
医者は「そういうことです」と言った。「仕事に気付くのは、有能な人。仕事をたくさんこなすのは、仕事ができる人、なのですよ」
ハッとした。ああ、私の皮膚のことだ。私の皮膚は、身体の異変に気付き、通常では出し切れないものを、出していてくれたのではないか。日々のストレス、平常運転で排出しきれる量でない何かをため込んだ時に、皮膚が真っ先に第一線で仕事をし、シグナルを出し続けて、肝臓や腎臓が処理しきれない仕事、汗や尿、呼気では出し切れない仕事を、皮膚が通常業務以外で働いてくれていたのではないか。
「皮膚が弱い」なんて、とんでもない思い違いだった。長い間、社長である私に「お前はダメ社員だ」と罵られながら、淡々と仕事をし続けていた私の皮膚。「これまで気付かなくてごめんね、ありがとう」という思いが、おのずと私を満たした。私の皮膚は賢く、強く、率先して仕事を引き受け、残業してくれる働き者だったのだ。
「忌々しい!」と手荒に塗りつけていたハンドクリームも、「お疲れさま。ありがとう」と、労りと慈しみに自然と変わり、セルフエステのような幸せな時間になった。今まで冷遇していた分、もう一度やり直したい。結果的に、こまめにケアするようになった。また、皮膚だけが頑張らなくていいように、内臓の中でも解毒を担当するという肝臓と腎臓を温めるなどの手当てをした。
それから間もなく、症状は緩和され、寛解に至った。というよりも、まずアトピーのことが気にならなくなって、気付いたころには、治っていたのだった。どうして治ったのか……薬のおかげだけではないと感じている。
「病気に感謝すれば、症状は緩和する」というのは、納得いかないまま無理やり「ありがとう」と思いこむことではない。思いこみで現実を呑み込むのには、尋常でない精神力が必要だ。
私がそうであったように、不快な症状がある人は、憎しみや悩みという思いを抱え、そしてそれに囚われてしまう。「○○が弱い」という自分の体質を、受け入れきれない。症状への日常のケアも、「なければいいのに」「早く治れ」と毒づきながら行う手間でしかない。そんな状態で、「感謝しなければ」と念じて、ありがとうを唱えても、現実に変化は起きにくい。行動が変わらないからだ。
自然に湧いてくる感謝には、行動を変える力がある。行動が変われば、心身の症状にも、変化が訪れる。同時に、症状への執心が減り、ストレスから解き放たれることも、サポートになるだろう。
悩みがある人は、ダメもとで、やってみてほしい。不調な部分へのフォーカスをはずし、身体をゆったりと眺めてみるだけだ。そうすれば、それが全体を助けている働き者に見えてくるかもしれない。
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