「不安」だと思っていることの多くは「不安」ではない
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記事:諏訪太郎(ライティング・ゼミ平日コース)
「周りの人に嫌われていないか……」とか、「定年後の生活がどうなるか……」など、日々の生活や将来に対して不安を感じている人は多い。
実は不安の正体を知っていると、不安と上手に付き合えるようになる。
この不安の正体とは、どんなものなのだろうか?
「仕事をするのが不安で……」
入社半年の鈴木さんの一言に、私は驚いた。
なぜなら、鈴木さんから不安と言う言葉を聞くとは思っていなかったからだ。
いつも元気で笑顔の鈴木さん。
新しく教えた仕事も進んでやってくれていた。
「鈴木さんみたいな素敵な人が来てくれて良かった!」
みんなで話していた。
鈴木さんが不安に感じていることは、何なのだろうか?
鈴木さんが不安に感じていることが気になり聞いてみた。
「鈴木さん、どんなことが不安なのですか?」
「えーと、仕事全般です……」
鈴木さんは、漠然と仕事全体に不安を感じていたのだった。
入社して3か月が過ぎると、仕事内容や職場の雰囲気にも慣れてくる。
私の職場では、このタイミングで教えることを増やすようにしている。
鈴木さんも入社3か月は接客をメインに仕事をしてもらっていた。
それは接客業にとって、接客こそが仕事の基本だからだ。
明るい性格の鈴木さんは、すぐに接客で力を発揮してくれた。
お客様から「いい人が入ってきたね」と、お褒めの言葉をもらうこともあった。
そんなことから、私は鈴木さんには次のステージに進んでもらいたかった。
それなので、責任のある事務的な仕事を教え始めたところだった。
このように3か月を過ぎたことから、新しい責任のある仕事を増やすことで、戸惑う人も出てくる。
それを私は「3か月病」と呼んでいた。
この3か月病には、1つの大きな特徴があった。
鈴木さんのように、漠然と不安を感じていることだ。
それなので「3か月病」の症状が出てきたら、不安の内容を詳しく聞いてみるとよい。
そこで、鈴木さんに質問をしてみた。
「どんなことに不安を感じていますか?」
鈴木さんはこの質問をされると、困ったような顔をした。
面白いことに、あれだけ不安に感じていたのに、不安の原因を聞かれても答えられないのだ。
「どんな些細な事でもいいから、不安だと感じること、上手くできていないことを話してもらえますか?」
私の方で不安について質問をしていくと、「うーん」とか、「えーと」とか言いながら、不安について話してくれた。
A4の無地の紙を一枚用意して、鈴木さんが話したことを紙に書き出していく。
10分ぐらい話していくと、鈴木さんは不安に感じていることを出し尽くしたようだった。
最終的に鈴木さんが不安に感じていることは、4つだけだった。
その数の少なさに、鈴木さん自身が一番驚いているようだった。
そして、たった4つのことで、こんなに悩んでいたのかと言う顔をしていた。
不安の正体が分かれば、後は不安を解消するために何が出来るかを考えればいい。
私は鈴木さんに、私が書き出した4つの不安の下に、どうしたら不安を解消できるかを書き出してもらった。
不安について話した10分間で、鈴木さんの頭の中は大分整理されていたに違いない。
鈴木さんは、不安を出してもらう時とは打って変わって、やることを次々に書いていった。
5分もしないうちに、A4の紙は鈴木さんがやるべきことで埋め尽くされた。
そして、やることを書き出し終えた鈴木さんの横顔からは、自身が溢れ出ていたのだった。
人は「分からないもの」に恐怖を感じる。
例えば、「おばけ」と「ライオン」だったら、どちらが怖いと感じるだろうか?
多くの人は「おばけ」と答えるだろう。
なぜ、「おばけ」と答えるのか。
それは、「おばけ」が未知のものだからだ。
もちろんライオンも怖い。
ライオンに襲われたら、ひとたまりもないだろう。
しかし、私たちはライオンについて多くの事を知っているので、事前に対策を取ることが出来る。
火を使ってもいいだろう。
銃を使ってもいいだろう。
ライオンと出会っても助かる道はいくらでも考えられる。
それに対して、「おばけ」はどうだろう。
「おばけ」は言ってみれば未知の存在だ。
私たちは、「おばけ」について何も知らない。
だから、襲われたときにどうしたらいいか分からない。
だから、不安を感じるし、怖いと感じる。
不安とは、言い換えれば「分からない」ことだ。
人は不安を感じると、「分からない」ことに目を向けずに、不安にばかり目を向ける。
不安な事ばかり考えるから、不安が不安を呼び大きな事だと勘違いしてしまう。
だから、不安を感じたときこそ「分からない」ことに目を向けて、何が分からないのか具体的に考えてみる必要がある。
具体的に考えていくと、不思議なことに不安の多くは無くなってしまうのだ。
人に話しているうちに不安が解消することがある。
それは、人に話しているうちに、不安の内容が具体的になり、不安が消えてしまう典型的な例なのだ。
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