自分を貫くことはなぜ難しいのか
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:吉野樹理(ライティング・ゼミ日曜コース)
「人生は選択の連続だ」とハムレットは言っている。その言葉の通り、私たちは毎日何かを選択して過ごしている。そこで、私は問いたい。「その選択は本当に自分自身で考えたことですか?」
去年の3月、私は地下鉄御堂筋線の、とある駅に1人降り立った。まだ肌寒い夜だった。早くホテルに帰ろうと改札口を出た時に、耳をつんざく音が聞こえ、オレンジ色の光が点滅しているのが見えた。胸がざわついた。
「火事です、火事です」「速やかに避難してください」
緊急避難警報だ!
「大変だ! 速く逃げなくては!」と焦って走り出そうとした私の目に映ったのは地下道を笑いながら楽しそうに歩く人々だった。ものすごい違和感。避難警報が鳴り響いているのに、誰も避難しようとしないのだ。
「あれ? 誤報?」「避難しなくて大丈夫なの?」私は咄嗟に改札口に立っている駅員さんの姿を探した。警報が鳴り響く中、駅員さんは何も言わずに平然と切符を切っていた。「おい、駅員、何か対応しなよ」と心の中で毒づきながら「しょっちゅう誤報が鳴るのかな?」と半分ほっとして「いや、誤報でなかったら大変なことだ」と半分緊張する。目の前で繰り広げられるギャップに「もしかしたら、私にしか見えてないのか? それとも夢?」とさえ思えた。
みんなが避難しないのだったら大丈夫かと一瞬思ったが、念のため私は速歩きで一番近い地上行きの階段を上がることを決めた。少し緊張しながら近くの階段を探し、降りてくる人波を避けながら長い階段を上がった。地下に降りてくる人に「火事の避難警報が出ていますよ」とも言えずただ、ただ上がった。
あと少しで地上に出るという地点で、どこかで「避難警報が鳴ってる! 階段降りたら危ない!」という女の人の声が聞こえた。その声を聞いて、私はやっと駆け足で階段を上がった。でも、群衆は少しも動じずに地下に降りていくのだった。
結果は誤報だった。インターネットで確認してみると度々誤報があるらしい。駅員さんと人々の態度にも納得した。でも、これが誤報じゃなかったら?間違いなく甚大な被害が生じただろう。
この出来事を振り返ってみて気づいたことがある。私は自分の命がかかっているにも関わらず、全ての選択を他人に依存していたのだ。恐ろしい。
まず私は駅員さんの動向を確認した。駅員さんが「火事です! 避難してください!」と叫んでいれば何も迷わずに避難できるからだ。私は一体何に迷ったのだろう? 考えてみて、1つの結論が出た。それは、「大多数の流れに逆行する」ことに迷ったということだ。警報に慣れて気にせず歩く群衆の流れに逆らい、1人必死の形相で走って避難することは笑われるような間違っているような行動に思えたのだ。大多数が正しいように感じてしまったのだ。
そんな中、1人、「危ない!」と声を上げた女性はすごい。私に本気で逃げるスイッチを押してくれた。もしかしたら、後で誤報だと気づいて恥ずかしい思いをしたかもしれないし、そんなこと気にも留めない人かもしれない。でも、大多数が彼女の警告を無視する中、流れに逆行し、行動に移した彼女の勇気は素晴らしいと思う。
今まで自分の人生は、大多数の流れにどれだけ飲み込まれて選択してきたのだろう。自分の意思で選択したと思っていたことも実は無意識に流れに乗っていたのかもしれないのだ。それが一番恐ろしかった。
そう言えば、こんなこともあった。電車に乗ったとき、旅行中らしき東南アジア系の女性が2人座っていた。ふと気づいたとき、2人は駅で降りる際中だったのだが、座席にマフラーが落ちていた。その女性の1人がそのマフラーを膝に置いていたのを見ていたので、「今、追いかければ渡せる!」と思ったのだが、「私の思い違いだったら恥ずかしいし」「誰も何も言わないし」とグルグル考えている間に電車は発車してしまった。何が正しかったかは一目瞭然だ。でもそこでも私は大多数に飲まれてしまったのだ。その真っ白のマフラーは椅子1つ分のスペースを確保しながら終点まで乗っていたのだろう。持ち主の元に帰れたのだろうか。
大多数の人間がとっている行動や考えていることに流されずに自分の頭で考えて、それを行動に移すことは鮭の川の遡上のようだ。わざわざ激流を逆行して、体に傷を作って、上流に到達したと思ったら捕獲されてしまう。とてもとても困難なことだ。だから流れに身を任せたほうが楽だ。傷つくことが少なくて安全だし。でも自分の人生、自分の意志に反して流れに身を任せ続けていくのは違うと思う。
人生は選択の連続だ。どんな選択をするかは自分次第。自分の考えを貫き、正しいように思える大多数の流れに対して、勇気を出して逆行する選択をするのは思った以上に大変だ。でも大変な分、誰かを救ったり喜んでもらえたりして、人生は彩られていくのかもしれない。
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