メディアグランプリ

私、空気読めないんじゃなくて読まないんです


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉村心音(ライティング・ゼミ平日コース)

ポーン、コロコロ……
公園のベンチに座っているアラフォー位の素敵な女性の足元に、ボールが飛んできた。

近くにいた私は、「ボール、誰にも当たらなくてよかったな」と思いながら、何の気なしに見ていた。

草野球をしている少年が、ボールを取り損ねたらしく飛んできたようだ。

取りに走ってきた坊主頭の少年が、少し離れたところからその女性の方を向いて手を挙げて立っている。

その人は、ポーンとボールを投げ……返さない。

「あれ? 何で投げ返さないのだろう?」
と私は思った。

少年は突っ立ったまま、キョトンとその人を見ている。
その女性もボールを持ったまま少年を見ている。

私はもう、目が釘付けだ。
「え、何? 何が起こるの?」
そう思っていると、女性が一言。

「ねぇ、何て言う!?」
責める風でもなく、明るく爽やかな一言。

少年は、女性の言葉を理解するのにしばし時間を要し「あ……ボール、取ってください」と小さい声で恥ずかしそうに言った。

すると、女性は「うん! わかったよ!」と優しい声で言って、少年に向かってボールを投げた。

少年は、無言で受け取ってほんの少し首を上下に振って去ろうとした。
会釈でお礼の意味だったのだろうが、その女性は又、「ねぇ、何て言う!?」と言った。

少年は、
「あ……ありがとうございます」
と小さく言って走り去っていった。

私は外野でこのやり取りを見ていたのだが、思わず膝を打ちたくなった。
その女性のことを「素敵な人だな」と思った。

察して忖度するのが良しとされる日本、多分、私を含めて多くの人が、何も言われなくても、察してボールを投げ返してあげるだろう。
察しないと「空気が読めない、KYだ」なんてレッテルを貼られてしまうこともある。

私は女性の爽やかな一言を聞いて、
「察してあげないという手間のかかる関わりを、見ず知らずの子供にやってあげる優しさ」に感動したのだと気付いた。

心地よく生きていくのには、色んな力が必要だ。

親がよく気づき、子供が欲しがるであろうものを察して与えたり、痒い所に手が届くように色々と世話を焼いてあげたりするのは、一見、優しさのように見えるが、実は大事な力を身につけるチャンスを子供から奪っているのだ。

自分が何を欲しているのかを考える力、自分の欲求を言葉にして伝える力、伝わらないもどかしさや受け入れてもらえない不満を感じ何とか欲求をかなえようと工夫する力、それでもダメだった場合に自分の中で折り合いをつける力、言い方によって相手の反応が違うと気付く力。

この力をひっくるめると、起こった出来事に対して、自分で何とか良い方向に持っていこうと行動する力になると思う。

この力が身に付かないと、自分のことを自分で何とかしようとしなくなってしまう。

自分で何とかしないというのは、他力本願で他人のアドバイスを全面的に頼りにしたり、正面から向き合わずにお酒や別のことでごまかして事が過ぎるのを待ったり、自分を省みずに人のせいにしたり、問題は大したことないと自分に言い聞かせてずるずる先送りにして状況が変わってくれるのを待つことだ。

自分で何とかしようと反応する力は、通常2、3歳位から芽生え始める。
オムツを替えてもらって、ミルクを飲ませてもらって、歩けないから移動させてもらっていた時期を経て、少しずつ自分でできるようになっていくこの時期。
何でも自分でやってみたくなるのだ。
この時期に、干渉され過ぎず、見放され過ぎずに関わってもらえた子供は、この力とやる気を伸ばしていくことができる。

こんな例を考えてみてほしい。

小さい子供が「自分で牛乳を注いで飲みたい」と言った。

あるお母さんは「あなたにはまだできない。 絶対こぼすからお母さんがやってあげる」と言って、代わりにお母さんが注いであげる。
自分の欲求を満たす行為を実行する前からできないと決められ、挑戦の機会すら与えてもらえない。失敗して学ぶ機会も与えられない。

別のお母さんは「勝手にしなさい!」と突き放し、子供に牛乳を注がせる。
それでこぼしたら「ほら見なさい。 言った通りでしょう。 早く拭かないと!」と、机を拭いてあげながら失敗を予測していたことを伝える。
お母さんの正しさと子供の無力を証明して見せ、子供が挑戦しようとしたやる気を折り、後始末のやり方を指示する。
挑戦する勇気よりも失敗する怖さを重く捉えるようになり、気軽に挑戦なんてできなくなる。失敗の挽回方法まで指示される。
行動したら減点につながるのだから、やる気が起きなくなる。

また別のお母さんは、「ゆっくり注いでごらん」と、子供に牛乳を注がせる。
子供がこぼしてしまったら、お母さんは急いで拭きたい気持ちをぐっとこらえてそのまま見守る。見張るとは違う。すると子供は、「こぼしたら拭く必要がある」と自分で気付いて、ふきんを持ってきて拭く。子供の拭き方だから、親よりはきれいには拭けない。
が、お母さんは「注げたね。 こぼしちゃったけど自分でちゃんと気付いて拭けたね」と見守っていたことを伝える。
子供は安心して挑戦していいのだと考え、失敗したら挽回できる方法があることを覚える。

察さずに待つという行為には手間も忍耐もいる。面倒なことだと思う。
牛乳なんて、大人が注いだ方が早いしこぼさないからさっさとやってしまいたい。大人なら10秒でできることを子供にやらせたら何倍の時間を要するか、考えると気が遠くなる。
けど、我が子の為を想い忍耐を心がけ見守ろうと努力する。
しかし忙しさに追われてつい待てずに察してやってあげてしまう。
やり終えてから子供の空虚な表情を見て「あぁ、又やってしまった」と反省する。

つい忍耐が足らずにそんな関りを送ってしまう。

だから、私は公園の女性の行動に心を動かされたのだ。
さっさとボールを投げ返さずに、言葉が必要なのだということを優しく教えて待つという手間と忍耐に。

私も敢えて察してあげずに、待つことができる人になりたい。

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2018-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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