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メディアグランプリ

世界が半分になる前に


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大久保忠尚(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
平日のお昼過ぎ。
普段であれば仕事をしているであろう時間帯に、白い壁に囲まれ、周りには自分よりもひと回りもふた回りも離れた年配の方達に囲まれてながら、僕はベンチに座りその順番を待っている。
 
目の前の文庫本を除けば、なんとなく文字を読むことはできるものの、少し遠くを見れば普段とは違う世界が目に映る。蛍光灯の明かりは普段であれば一つの白い点でしかないはずなのに、今の僕の視界には、白い点の周りには虹のような光の半円が囲み、その色は虹のように7色で構成されている。光が7色のスペクトルで構成されていることが感じられるとともに、普段自分が見ているものが何なのかと考えさせられ、何が正しいのかが分からなくなってしまった。
 
大学病院の待合室で僕はいま診察を待っている。
定期的に通っている病院から、一度ちゃんと検査をしてみようと言われ、わざわざ有給休暇を使って検診に来たのだ。
 
14時に診察の予約をとっていたはずなのに、少し検査をしてから約3時間が経過していた。大学病院だから仕方ないと思いつつ、視界が普段よりも悪い中で過ごす時間はどこか浮世離れをしている感覚だ。持って来た本もすでに読み終わってしまい、スマホはパケット制限がかかっているため、ほとんど使い物にならない。
 
約3時間が経ったのち、僕は名前を呼ばれ、指定された部屋に向買うと、ある医者と出会うことになった。普段診察してもらっている眼科医からの紹介で僕はここに来ており、一通り検査をされた後、僕は医者からこう言われた。
 
「右目の鼻側、上の部分の視野がもう無いかもしれません。左目の鼻側、下側も感度が低いかも」
要は、右目の4分の1が見えていないかもしれないらしい。
 
ショックや驚きというのはあまりなく、実感が正直なかった。
医者によれば、左目自体は見えているので、両目であれば視野としては補えているらしい。
 
 
若年性緑内障。
そう、医者は僕に告げた。
 
緑内障というのは原因は様々であるが、目の細胞が徐々になくなり、その分視界が狭くなっていく病のようだ。最悪失明してしまうようだが、早く気付くことが出来れば進行は遅らせることができるらしい。
 
数年前から、目の調子がイマイチ良く無いな、とは感じていた。パソコンの見過ぎによる目の疲れや、元々知っていた目の不調が原因かと思っていた。
それが今春。普段通っている眼医者から、一度検査をしてみよう、という一言がきっかけでこの事実を知る事が出来た。
 
どうやら僕は気付かぬ間に、見ている世界が狭くなってしまっていたらしい。
 
はじめに知った時は少しショックだった。放っておけば失明にも繋がってしまう病。遺伝的な特性などもあるものの、今見ている世界が少しずつ消えていってしまう事がとても怖かった。
 
今日見ている世界が明日にはなくなっているかもしれない。
幼い頃の景色を二度と見れなくなってしまうかもしれない。
それがとても怖く、とても悲しかった。
 
しかし、失われた視界を取り戻すことは今の技術では難しいようだった。
今できることは、今以上に視界を無くさないこと、狭くならないような治療をすることだった。
 
いずれ技術が進歩すれば、治療をする事ができるかもしれない。
でも、今は毎日の点眼によって進行を遅らせる事が最善だという事だ。
 
点眼による治療をしていても、少しずつ病状は悪化してしまうかもしれない
日常生活程度は、なんとかなるかもしれない。しかし、どこか違和感や視界の狭さを感じてしまう日がいずれくるのだろうか。
 
世界が半分になってしまったら。
僕は何を想うだろう。
 
世界が半分になる前に。
僕は何をすべきだろう。
 
もっと世界中の素晴らしい景色を見ていたい。
見たこともない大自然。歴史ある建造物。彩に溢れた感じたことのない世界をこの目で見て、この体で感じてみたい。
 
アジアの雄大な自然も。
ヨーロッパの鮮やかな建造物も。
まだ見ぬ世界の大きな景色達も。
 
今感じられるうちに感じて、見る事ができるうちに見ておきたいと、素直に思ったのだ。
 
 
そしてこれは、僕だけの話ではないように思うのだ。
僕の場合は、目によってこのことに気がつく事が出来た。
しかし、人によってはそれが内蔵かもしれないし、足かもしれない。見ることが出来たとしても、動く事が出来ない場合だってあるのだ。
いずれにしても、僕たちは生きている中で、そして自由に活動できる中で自分のやりたいことや、見たいもの、動きたいことを感じて実践しなくてはいけないのだ。
 
大学病院からの帰り道。
近くの神社では毎年恒例の、ツツジ祭りが開催されていた。色とりどりのツツジが咲き誇り、1年に1回の旬を命懸けで彩っている。
その彩りが子供の時以上に素晴らしく鮮やかに見えたのは今の僕にとってきっと気のせいではないはずだ。
 
 
誰しも老いには抗えない。日々の健康管理はもちろん、健康診断などをきっかけに変化に気付くこともできるだろう。新年度を迎えたこの機会に、確認してみても良いと思う。
 
世界が半分になる前に。
あなたは何を見ていたいだろうか。
 
 
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2018-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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