メディアグランプリ

「黒ラベル」が私を自由にしてくれた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:飯沼かおり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
瓶ビール。
茶色っぽく透けている瓶に、銘柄のラベルが貼られている。
「サッポロビール」のラベルが貼ってあれば、サッポロビールだと思って扱うし、「キリンビール」のものが貼ってあればキリンビールとして扱うものだ。
では、仮に瓶に「ノンアルコールビール」のラベルが貼ってあるのに、栓を抜いてみたら中に「サッポロ黒ラベル(アルコール度5%)」が入っていたら、人はどう反応するだろうか。
驚き、怒り、お店にクレームを入れるだろうか。
 
あの人は「優しい人」「コワい人」「明るい人」「おとなしい人」「まじめな人」など。
 
私自身も、他人に何らかのラベルを勝手に貼り、他人からも貼られている。
実は、人は自分に貼られているラベルがどんなものであるか、案外はっきりと認識しているものだ。脳の機能らしいのだが、人間というのは、期待された自分を無意識に演じてしまう生き物なのだそうだ。
 
私自身のラベルは、高校時代から「おとなしそう」「やさしそう」「素直そう」というものが多かった様な気がする。
そのラベルを気に入っているかどうかというと、そうでもない。
なぜかというと、自分の認識ではおとなしくもなければ、たいして優しくもない。
そしてちょっと頑固なところもある。
それが相手に見えてしまうと、必要以上に嫌われてしまうからだ。
よく、不倫したタレントさんなども、元のイメージのクリーン度合によって叩かれ方が全然違うものだ。
なんて損なラベルなんだろうと思うが、仕方ない。このイメージのラベルの自分に住み慣れてしまった感じである。これが無意識に演じている内に「貼られたラベル=自分」になってしまったということなのだろうか。
 
ところが10年程前、「真っ黒なラベル」を貼られるという経験をした。
私の勤務先の中で「極悪社員」というラベルだ。
ある店舗に異動になった初日。その店舗の女性店長Aに、「問題社員の」とでも言わんばかりに、「“例の”Kさん(私の名前)ね。私が徹底的にしごいて根性を叩き直してあげるから、覚悟していて下さいね!」という信じられないほど威圧的な挨拶をされた。
そして、他のスタッフからも「ついに噂の人物がこの店舗に来てしまった~」とでも言いたげな顔で「“例の”Kさん(私の名前)ですね~。宜しくお願いします~」と挨拶された。
今までこういう挨拶をされたことがなかった為、なかなか自分に起きていることとして受け入れることができなかった。
 
ある日、スタッフから言われたことでようやく事態が飲み込めた。
「実は、この店舗にKさんっていう“すっごい社員”が異動してくるって噂になってたんだけど、会ってみたら全然普通だし、仕事もできるし、どうしてそんなに悪く言われちゃってるのか全然わからない」と言ってくれた。
知らないところでそんなに悪く言われていたということを知ってショックを受けたが、きっとこのスタッフは私の黒ラベルをはがして私自身のことを見てくれたのだろう。
異動してからずっと、宗教や言葉の違う国に迷い込んでしまった様な、自分が自分でいられなくなる様な扱いを受けてきた為、その時は涙が出るほど嬉しかった。
 
そもそも私に黒ラベルが貼られた原因はだいたい分かっていた。
それは私が異動前に所属していた店舗の店長Bに嫌われたからだ。
その店長Bは、実績もあり、カリスマ性もあり、影響力も強かった。何かあった時に社長に直接報告できるホットラインも持っていた。
どうやらその店長Bがどこかで私の仕事ぶりを見て、私の「おとなしそう」「素直そう」のラベルを気に入り、自分の店舗へと引き抜いたのだった。
しかし、一緒の店舗で勤務することになると、せまいお店の中で毎日7、8時間を一緒に過ごすことになる。そうすると、だんだんお互いの本性が見えて来るのも当然のことだと思う。
 
そうだ。私はそんなにおとなしくもなければ、大して素直でもないのだ。
店長Bは私に対して貼っていたラベルとのギャップが日毎に許せなくなっていったのだった。
まさに、「ノンアルコールビールを開けたら黒ラベルだった!」時の驚き、怒りで半狂乱だった様に思える。自分の思い通りにならない人間が許せなかったのだろう。
 
店長Bが社長に、私のことをどの様に報告したのかは分からないが、私を他の店舗に異動させるということで、ことは落ち着いたのだった。
そして社長から移動先店舗の店長Aへの私についての引継ぎ事項が、「問題社員」「徹底的にしごいて矯正してくれ」といった「黒ラベル」だったことは間違いないだろう。
このことはあまりにも理不尽な出来事で、しばらく冷静に捉えることができなかった。
 
しかし私は、スタッフ達がラベルのない私を理解してくれたことで気持ちが晴れ、
「わかってくれる人はわかってくれるんだ」と実感し、自信がついた。
その為、私に黒ラベルを貼ってくる人には徹底的に黒ラベルの私を演じ、ありのままの私を見てくれる人にはありのままの私で付き合った。
女優の様に黒ラベルの悪役の自分を演じることを楽しんでみようと思ったのだ。
意図的にラベルを貼り変えられるとわかったら、自由になった。
「クリーンラベルの私でいなければいけない」そんな思い込みからも解放されたのだ。
この感覚は本当に新しく、爽快だった。
 
もし、誰かに貼られたラベルを演じているかもしれないなと感じたら、是非“意図的に”「黒ラベル」「白ラベル」などラベルを貼り替えたり、はがしたりして自由な自分を楽しんで欲しいと思う。

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2018-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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