メディアグランプリ

子どもを泣かすジャイアンには、感謝状を。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大山ユキヒデ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
厚手の上質紙をわざわざ買い、金色で描かれた飾り枠のテンプレートをダウンロードして、筆字フォントで書き連ねる。これぞ賞状! という完成度に、思わず笑みがこぼれてしまう。
 
『感謝状、ジャイアン殿。毎度毎度、子どもを泣かせてくれてありがとう』
 
ジャイアンは、ウチから徒歩20秒ほど(近すぎる!)の近所に住む小学5年生の男の子。学年平均身長を20㎝も上回る中学生がランドセルを背負っているような大きな体格をしていて、あり余る体力をまき散らす乱暴者。でも本当は優しくて、少し寂しがり屋。それを隠すためか、町内の子どもたちを集めて威張っている……あの国民的漫画・アニメ『ドラえもん』に出てくるジャイアンそのものといった“お友達”である。
 
「もう嫌だ、もう絶対遊ばない!」
何度この言葉を聞いただろう……
「はい、タオル」
何度ポロポロと溢れる涙を拭っただろう……
 
ジャイアンにやられる子ども達の中で、一番の被害者となるのが私の息子だった。ジャイアンと同じ小学5年生でありながら、学年平均身長を15㎝も下回る(ジャイアンとの身長差は、なんと約35㎝!)圧倒的にチビな息子は、ジャイアンが身体を動かすだけで、その体格差から生じる圧力にやられてしまう。歩く時に無意識に振り上げる肘が、ちょうど同じ高さにある顔面にヒットして、鼻血が出る……といった具合に。
一緒にいるだけで被害を受けるというのに、通学の行き帰り、遊ぶ道路、公園、児童館など、行動範囲が全部一緒で、ジャイアンから逃げられないという境遇が、のび太そのものといった息子である。
 
当然ながら、息子には、ドラえもんも秘密道具もない。親の私からは、涙を拭くタオルを出されるだけで、ずっとやられっぱなし。
「ジャイアンが引っ越ししますように」
正月の初詣で毎年願うほど、息子にとっては超厄介者のジャイアン。
 
「息子を泣かせてくれてありがとう」
 
私は、心底ジャイアンに感謝していた。
たしかに、鼻血を出したり、突き飛ばされて膝をすりむいたり、傘が壊されたりといった暴力沙汰が頻繁だった時は、私もその度に怒り心頭だった。
大事件になった場合に備えて、小鹿のように震えて泣く姿をまめに撮影し、泣かされた状況を事細かに書き留め、それを証拠に慰謝料をふんだくってやろうかと画策していたはずなのに、である。
 
高学年になって、息子が泣かされる原因に変化が起きた……
 
「用事があるから遊べないと言ったんだけど、俺は暇なんだから遊ぼうって言って、腕を掴んで帰してくれない」だとか、
「○○さん(嗚咽で名前が聞き取れない)と一緒に帰ろうとしたら、俺が○○さんと帰るから、あっちへ行けと言われて、○○さんと帰れなかった」だとか、
「とにかく勝手で言うことを聞いてくれないんだーーーーーっ」だとか。
ようは、自己中心的でワガママなジャイアンが、息子の事が好きでまとわりついてくる事でトラブルになっているという具合。
泣くような事ではないと思うが、息子にとっては超厄介者のジャイアンに変わりはなく、息子は事あるごとに涙を流していたのだが……
 
「くそー、失敗した……」
 
ある時、息子が言った。
毎回のように、いい加減聞き飽きた感のある「もう嫌だ、もう絶対遊ばない!」とは言わず、涙を拭いながらそう呟いたのです。
 
ことわざに『可愛い子には旅をさせよ』というものがあるが、私は息子にひとり旅をさせることなんてできない。大げさではなく、炎上覚悟で白状すると、5年生の息子に、一人でバスや電車に乗ってどこかへ行くという事を、させることができない……ことわざでいうと、『転ばぬ先の杖』をついて回ってしまう、親なのです。
普段から甘やかして育てている事は自覚しているが、世の親御さんと同じように子どもには、強い大人に育って欲しいと願っている。
親のひざ元でゆるゆると生活している(させられている)息子に、“試練を与える”のような事を!
 
「優しくお願いしてみた……」けど聞いてくれなかった、「くそー」
「いつもとは違う道を通って帰ってみた……」けど見つかった、「くそー」
「友達にジャイアンと遊ぶように促してみた……」けどうまくいかなかった「くそー」
 
息子は、ジャイアン対策を毎日毎日思案し、挑戦している……
折れることなく、腐ることなく、挑み続けていく……
感謝する以外ないだろう。
 
私がわざわざ作った『泣かせてくれてありがとう』の感謝状は、わが息子に試練を与えてくれているジャイアンへというより、息子よもっともっと泣きなさい、という願いを込めている。親に反抗するようになった子に「思春期キター」と少し茶化すことで、深刻な溝にならないようにする感じ……
 
息子は、この感謝状を自分の部屋に飾った。
息子がジャイアンを越える日は、そう遠くないような気がした。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

http://tenro-in.com/zemi/47691

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事