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10歳の女子が10人の男子に一度に恋するワケ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:清水慧(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「私ね、好きな人ができたんだ」
親友の明日香ちゃんが、恋を打ち明けてくれたのは小学校4年生のころだった。
彼女が好きになったのは、面白い話をするのが上手で、笑うと目じりが下がる愛嬌のある男子だ。
「ふぅん、彼が好きなのか。応援しているね!」
「ありがとう。私もいつか応援するから、好きな人ができたら教えてね!」
 
学校からの帰り道、私は歩きながら悩んでいた。
「好きな人じゃなくて、好きな人達ができた場合、どうすればいいのだろう?」
当時の私は、同じクラスだけで10人も好きな人がいた。
彼らはそれぞれに魅力的なポイントがあった。
岩井君は、休憩時間にいつも小説を読んでいて、オススメしてくれる本はどれも面白い。
江藤君は、探偵ものの漫画を愛読していて、日常を事件のようにドラマチックに話せるところがすごい。
中島君は、日に焼けた小麦色の肌と笑顔が爽やかで、サッカーをしている姿がキラキラしている。
こんなかんじで、あと7人も続く。
 
家に帰ってから、借りた漫画に答えがないかと探してみる。
しかし、どの主人公も好きになるのは1人だけ。
たまに、2人のことを好きになるパターンもあるが、物語の最後で1人だけを選んでいる。
周りの友達を思い出しても、複数の人を好きになる話は聞いたことがなかった。
お父さんもお母さんも、お互いが唯一のパートナーで、他に誰かがいるなんて聞いたことがない。
いやいや、いたら大変なことになる気がする。
 
「どうやら、恋愛って、1人の人にだけするものらしいぞ……」
10人を好きになった後に、このことに気づくなんて。
恋愛初心者あるあるなのか?
とにかく、これは誰にも言わずにおいたほうが良さそうだな……。
そんなことを考えながら眠った翌日、名案がひらめいた。
 
「10人がダメなら、1人に絞ればいいじゃない!」
そう、1人を選んでしまえば、秘密にすることもなく、親友と恋の話もできるのだ。万々歳!
安直な考えで、選ばれなかった9人に対して失礼なやり方ではあるが、これしか思いつかない。
かくして、私は1人の男子とだけ恋する為の選定会を始めたのだった。
 
教室の中で、1人1人の挙動をつぶさに観察する。
前方の席の中村君が、隣の席の子に算数を教えている様子が目にとまる。
そうそう、彼は面倒見がよくて、困っている人をほうっておかないんだよね。
愛称が「オヤジ」なのも、つい頷いてしまう。
 
しまった……。
これではいつもと変わらないではないか。
この人こそ! と思えるような ポイントを見つけなければいけない。
いつもと違う視点で彼らを観察する機会がほしい。
 
私は昼休みになって、校庭の鉄棒に足を掛けた。
後方で、クラスの男子がドッジボールで遊んでいる声が聞こえる。
そのまま背中を前に倒し、逆さ吊りの状態になった。
逆転した世界の中で、好きな人達を眺めているのは、なかなか新鮮だ。
これならいつもと違う気づきを得られるはず……しめしめ。
 
「あ! 山本君の靴下、泥で汚れてる。
正直不潔だけど、男の子ならよくあることだよね。
それにしても、足の筋肉、あんなに引き締まってたんだ! 走るの早いな、カッコイイなぁ!」
 
こんな調子で選定会は、彼らの新たな魅力に気付き、ますます好きになるだけだった。
なんてこった!!
頭が重く感じるのは、きっと逆さ吊りのせいだけじゃない。
 
午後になって、教科書を忘れた私は隣の席の鈴木君に一緒に見せてもらうことにした。
「ねぇ、君はこのクラスに好きな子いるの?」
休憩時間に、鈴木君は瞳をキラキラさせながら聞いてきた。
「え……、まぁ、いるけどさ。教えてあげないよ」
「そう言われると気になっちゃうな、当ててみてもいい?」
鈴木君は無邪気に笑い、私は思わず口篭もる。
 
ちなみに鈴木君も好きな男子の1人だったりする。
彼のお兄さんがモデルをやっているらしく、彼自身もスタイルがよく、色白できめの細かい肌をしていて、澄んだ瞳に見つめられると吸い込まれそうだった。
「ん~、江藤君が好き?」
「さーて、誰でしょうね~」
「じゃぁ、森君だ」
「ふふ、どうでしょう」
 
私は鈴木君からの質問をはぐらかしながら、彼が早々にこの話題に飽きてくれますようにと願った。
だが、彼はこのやりとりが楽しいようで、しまいにはクラスの男子全員の名をあげてしまった。
「あれ? もしかして、このクラスじゃなかったの?」
鈴木君は首をひねる。
「まさかとは思うけどさ。もしかして、僕がそうだったのかな……?」
 
さて、どうしようか。
やっぱり秘密だからと言える空気でもないし、本当のことを話す勇気はない。
でも鈴木君が好きなことは本当だ。
彼に好きと伝えることによって、何かが問題になるわけではないはずだ、きっと。
 
私は人生で初めての告白をすることにした。
「うん。私は鈴木君のこと、好きよ」
彼の表情は一瞬だけ固まり、直後に白い頬がうっすらと赤らでいった。
「そう……だったんだ」
緊張した面持ちの彼を横目に、私はやっとこの話題が終わって、やれやれと安堵した。
同時に、告白ってこういうものだっけ? と違和感を覚えた。
少女漫画では、告白した主人公は胸がドキドキして、キューンとして、赤面するらしい。
少なくとも私より隣の鈴木君のほうがドキドキしている様子だった。
 
私はどこかおかしいのだろうか? この違和感はなんだろうか。
今度は私が首をひねり、うーんと唸り始めたころ、次の授業を知らせるチャイム音が聞こえてきた。
 
結局、この違和感の正体がわかるのは、数年後に引っ越しした場所で新しい恋をした時だった。
心臓が破裂しそうなほどドキドキする恋をして、ハッキリとわかった。
私は10人の男子に憧れていたのだ。
自分にはない魅力を持つ彼らを尊敬していた。
まだ、恋も憧れも判別がつかないような歳だったからこそ、10人を一度に好きになったと思いこみ、真剣に悩んでいたのだ。
 
ただ1人だけ、巻き込んでしまった鈴木君がこの記事を読むことがあれば、どうか笑って許してほしい。できれば、あの頃のキラキラした瞳を細めて「まさか、そうだったとはね」と。

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2018-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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