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メディアグランプリ

冷静とオレオレの間に。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ほしの(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
とにかく、わたしは急いでいた。
4日後にヨガのイベントがある。少しおしゃれで、少し上手な人が集まりそうなイベントだった。
一方でわたしのヨガ歴は3年。初心者に毛が生えたようなレベルだったから、今回は少し背伸びをして申し込みをした。いかにも初心者といういでたちでは、他の参加者になめられると思い、新しいウェアを揃えた。が、肝心なことを忘れていた。わたしのヨガマットは近所のホームセンターで買った1980円の安物だった。お風呂マットのようなふにゃふにゃした素材。こんなの恥ずかしくて持っていけない!
 
「はやく買わなきゃ!」
慌ててAmazonのアプリを開いた。インストラクターレベルの人たちは数万円のマットを使っていたりするけど、ヘタクソなのにプロ並みにいいマットというのも逆に不釣り合いでかっこ悪い。迷いに迷った結果、最近人気のヨガブランドの7800円のマットを買うことにした。数万円と比べれば安いけれど、わたしにとっては7800円もなかなかのいいお値段だ。もう少し安いものはないかと、楽天やら他のネットショップやらを見比べはじめた。
するとあるサイトで色違いが7000円で売っているのを見つけた。残り一点、色が違うのは型落ち品だから。掘り出し物を見つけたと、喜び勇んで注文を入れた。
 
クレジット払いもあったけれど、入力が面倒だったので銀行振り込みで決済をした。注文受付メールが届いた。明後日の午前には届くとのこと。これで間に合う。よかったよかった。
 
しかし、届くはずの午前にヨガマットは届かなかった。宅配便の遅れかなぁと思い待った。午後になり、夜になった。そしてなぜか急に思った。
「あ。詐欺だ……」と。
頭の中が真っ白になり、全身の血がサーっと引いていく。震える手で注文したサイトの履歴を探し出し、クリックした。
《404 Not Found》
ない。注文したはずのサイトがない。注文メールを読み返してみる。
《ご注文にありがとうございます》
ご注文、に、だ。
ちゃんと読み返してみると、てにをはの間違いは他にもあった。
おまけに文字化けのような部分まである。
店主の名前は武田◯◯という日本人の名前。振込先は東京三菱UFJ、でも名義はチャパテ・◯◯。
通販サイト詐欺の見本みたいな状況だった。どこからどう見てもわたしは詐欺にひっかかっていた。
 
眠れない夜を過ごし、朝いちばんに銀行に向かった。事情を説明し振込先の口座番号を伝えると、その口座の残高はすでに0円で、既に凍結されていると聞かされた。被害者はわたしだけじゃなかったようだ。銀行としては被害者への補償はできないという。
続けて警察に行き事情を説明した。「よくある詐欺の手口だ」と言われた。
(はい。知ってますよ……)
そして被害届けを出しても、お金は戻ってこないだろうとも言われた。
カード払いにしなかったことだけは、不幸中の幸いだった。被害は7000円で済んだ。とはいえ、マヌケなわたしの個人情報は詐欺グループに流れてしまった。
 
悔しさと悲しさと恐ろしさを超えて、恥ずかしさの感情でいっぱいだった。
「おばあちゃんかよ!」という自己ツッコミが炸裂した。
自分が詐欺にひっかかったことが信じられなかった。通販サイトの詐欺があることも、その手口もネットやテレビで見て知っていた。自分自身、数年前までネット上に店を出してて、子供服や小物を売っていた。客としてネットショップで買い物することだって、何十年も日常的にやってきたのに、だ。
警察はオレオレ詐欺でも、「自分だけは大丈夫だと思わないでください」としつこいほど注意をしている。そしてわたしも「その通りだよ。気をつけたほうがいいよ」と思って見ていた。
なのに! 
わたしは紛れもなく「自分だけは大丈夫だ」と思っていたということだ。
メールの文章のおかしさも、文字化けも、特に気にも止めなかった。外国人名の振込先もヨガ関連だからそっち方面の人なんだろうと、すべての怪しさを、急いで800円分お得なマットを手に入れたいがあまり、スルーしてしまった。おかしな兆候は確実にそこにあったのに。これは詐欺に限ったことじゃない。
 
たとえば健康診断。芸能人や友達の友達あたりの大病のニュースが飛び込んでくると「怖いなぁ、自分も気をつけなきゃいけないなぁ」と思う。それなのに、忙しさを理由に検診を受けなかった年があった。何事もなかったからよかったけれど、もしその一年で隠れた病巣が手遅れにまで育っていたら、その後悔はヨガマット詐欺の比ではなかったろうと思う。
 
人間は誰だって幸福を望み、不幸を避けたがる。幸福でありたいと願うことは間違っていないだろう。けれど、明るいほうばかりを見て、足元を確かめもせず慌てて走り出せば、落とし穴が待っている。
 
時間に追われると、ひとは冷静さを失ってしまう。そこにお金などの欲があればなおのこと。
欲深さを手放して、時間にもこころにも余裕のある生き方をしなきゃ。
って、待てよ。
わたしはそうなりたくて、そもそもヨガをはじめたはず……。
 
ヨガイベントがはじまった。
1980円のへなちょこヨガマットの上で、自らのへなちょこさを痛感していた。身体も心もまだまだだった。もっと練習がんばろう。
オレオレ詐欺の被害者にならないためにも。

***

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2018-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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