身代わりになった犬
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記事:駒井美代(ライティング・ゼミ日曜コース)
言い古された感じもするが、犬は家族である。
いやそれ以上の存在かもしれない、なぜかって?
退職した父が突然犬を飼うと言い出した。
感情を表さない理系の父が、子育ても母にまかせっきりだった父が犬を飼う?
突拍子もない父の声が神様に届いたのか、ある日突然子犬が我が家にやってきた。
ころころ飛び跳ねるボールの様で、マリと名付けた。
ブリーダさんが、譲渡予定者とけんかして、急に優先順位が我が家に廻ってきたのだ、思えば叶う不思議な縁だった。
さて退職した父は時間を持て余し、ゴロゴロと家に居るので、家族はうんざりしていた。
そこに子犬がやってきて、あの餌が良いこの散歩コースにしようと、家族に楽しい会話が戻ってきた。
また弟は跡継ぎでありながら、一人娘さんと結婚すると言い出せず、父と弟の間には寒い風が吹いていた。
マリをきっかけの会話で、父と弟の関係も良好となり、結婚も祝福されてめでたしとなった。
一方潔癖な母は、掃除大変だから犬を家の中で飼っている人の気持ちがわからないと言っていたが、すぐに家の外で飼うなんて可愛そうで論外と言い出し、毎日マリのブラッシングをして室内飼いすることになった。
さて私は昔、弟ばかり可愛がりと思っていたが、マリをこれだけ大切にするなら、幼少の記憶が残ってないだけで私たち子供も大切にされたのだろう、と思えてきた。
弟も似た用なことを思ってじんときたらしい。
弟は嫁さんの実家近くに住んでいるが、何かとマリの顔を見に我が家に来る。
母が主にマリの世話をして餌をやっているが、父が飼うことの言い出しっぺであることを知っているかのように、どういうわけかマリは父の側を離れない。
トイレに行く時もドアの前、風呂に入るときも更衣室の中で待っている。
妻子さえそんなことはしない。
血圧が高くなっている父を見守ってくれているようで、私たち家族も安心だ。
そんな月日があっという間に過ぎ去り、十二年。
父も年齢に勝てず、心臓を悪くして入院そして集中治療室送りとなった。
そんな朝母から、マリが息をしていないと、泣きながら電話がかかってきた。
心臓まひによる突然死。
葬儀の人も、老衰や病死の犬と違い、マリの毛並みが良いので不思議がられていた。
もう一つ不思議なことに父は回復し、集中治療室から出ることができた。
奇しくも亡くなったのは母の誕生日、父の身代わりとなったのか、犬の寿命として十二才は短かった。
私は、死病の師匠の代わりに病気になった弟子が、不動明王に救われた伝説を思い出した。
身代わり不動として今でも信仰の対象になっている。
本当に不思議な犬だった。
父にマリの死のことは言えなかったが、父もマリのことを聞こうとしなくなった。
薄々気づいていたのだろうか。
我が家に来て思い出を残したのも、父を助け去ったのも、神様がいるとしたら思し召しだったのでは、と思う不思議な縁だった。
犬は家族である、いやそれ以上の絆と思い出を残して去って行った。
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