プリン店での土俵入り、取り組み後に見えた真実
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:布村さわ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
完敗だった。手も足も出なかった。自分が情けなくて、くやしくて、涙が止まらなかった。
3月に大学を卒業した娘は、就職で東京に行き、会社勤めをしているはずだった。家庭の事情などもあり、3月初旬に内定を辞退し、大きく方向転換した彼女。神戸に残り、雇われだけど、自分で店を切り盛りする事になった娘のためにやれる事は何でもやろうと決意した私。
娘の選んだ道を応援するために自分が出来る事を考える毎日。楽しかった。小さいけど、8席はあるイートインコーナー。プリンをメインに、ケーキや飲み物もある。スイーツで癒しの時間を持ってもらいたいと言っていた娘。そのコンセプトに合うように手作り感を演出。温かみのある空間づくり、店に置く小物にもこだわりたい。気づかぬ間に、自分の中でお店ごっこが始まっていた。
開店してからは、仕事のない日は、店に通った。自分が出来る事を探し、皿洗いやトイレ掃除、気づいた事は何でもしたし、気になる事は何でも伝えた。何とか売り上げに貢献したい! 保存のきくタルトは買って持ち帰り、周囲の人に配った。もちろん、お店の宣伝は忘れない。完璧なサポートだと思っていた。
そして閃いたアイデア。お店にはホームページが必要だ。息子はプログラミングの仕事をしている。WEBデザイナーを紹介してもらおう! 料金は高ければ、私が払ってもいい。これをきっかけに不仲の息子と娘の関係が良くなるかもしれない。さっそく、子供達に連絡を取り、すべてがうまく行くはずだった。
連休最終日。雨の北野坂。1泊2日の帰阪から東京に戻る前に、息子と、2人で店に行く。実は、息子も困っていた。ホームページの事で知人に声をかけたものの、娘からの連絡が滞っていて、何も進まないまま、時が経っていたのだ。
店内。他にお客さんはいない。娘は奥の厨房で作業中。連休最終日。きっとお客さんも多く、大変だったはず。笑顔が少ない娘の様子に何かひっかかるものを感じながらも、応対はしてくれる。何かあったのだろうか? 不安を抱えたまま、ホームページの話を切り出す。
お金をかけ、いいホームページを作れば、集客にもつながり、お店のためだと信じていた。でも、息子の説明で分かったのは、費用をかけ、しっかりしたものをつくれば、その運営のための時間も必要だという事。記事のアップなどに時間が取れないなら、WEBデザイナーへの依頼は不要との事。最終的に、店の経営で忙しく、時間が取れない娘の代わりに息子が簡単なものをつくる事になる。
何てことだ。結局、息子の負担を増やし、声をかけた相手にもキャンセルしてもらわなければならない。その人がフリーなら、そのために予定も立て、収入もあてにしていたはず。他人を巻き込み、迷惑をかけた! おまけに、子供達に関係改善の様子は見られない。
駅までの道、背中に疲れをにじます息子に、迷惑をかけた事を謝る。「業界ではよくある事だから」となぐさめられる私。何と言う無知。相撲で言えば、勝つ気満々で土俵入りし、下手投げをくらった気分。自分から突進していき、なぎ倒される。情けなさで一杯になる。
駅で息子と別れ、店内で言われた娘からの一言を思い出す。「これ、仕事だから」
4月中旬の開店からずっと休みなく働いている彼女。まだ1か月経っていない。慣れない店の経営。午後から夜中の2時まで営業という不規則な生活。4月から越した新しい部屋は、、家具も何もない。寝に帰るだけの所。いろいろな場面が思い浮かぶ。
ここで、ようやく私は気が付いた。娘は私にうんざりしていたのだ。ホームページの事も私の独りよがり。「ある方がいいけれど、開店後の今からつくるのは、効果が限定的。それほど、急ぐ必要もお金をかける必要もないのに急かされる。他にやる事はたくさんあるのに」
そんな娘のセリフを思いだす。
浮かれた様子で、お店ごっこを楽しむ母親の押し付けがましい一挙一動に、彼女は嫌な思いをしていたに違いない。だから、様子が変だったんだ! 今度は、強烈な突き出し。不意をつかれ、土俵の外へ。ここは、大事な私の職場。遊び半分で口出ししないで! 思いつきで、浅はかな行動を繰り返す母に、店内では、きつい事も言えず、我慢するしかなかったんだ。
帰宅後、自分に腹が立ち、悔し涙が止まらない。やれる事は何でもしようと思っていたのに、自分は高みの見物で、娘の足をひっぱり、ストレスの元凶になっていた。小言ばかりで、ねぎらいの言葉一つかけてない。しかも、息子まで巻き込み、迷惑をかけた……。
子供達は自分のふんどしをしっかりしめ、技を磨き、社会という土俵で懸命に戦っている。その土俵にあがれるのは、真剣勝負が出来る人間だけ。今の生活にあぐらをかき、人のふんどしで相撲をとるようなへなちょこ力士はいらない。社会人になった子供達と向き合うには、土俵にあがれるだけの度量が必要。どんな生き方をしていくか、これからの自分が試される。成人した子を持つ意味を、改めて、深くかみしめた連休だった。
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