プロフェッショナル・ゼミ

「ダメな自分」を手放すことが出来たのは《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:べるる(プロフェッショナル・ゼミ)

「こどもの中に自分の嫌な部分を見つけると、たまらなく嫌になるんです」
参加したワークショップで最後に「今の自分の思っていることを吐き出しましょう」と言われたので、私はそう答えた。

私は自分が好きじゃない。1日1回は「自分は本当にダメだ」と思っている。上手く出来ない、努力が足りない、誰かより劣っている……常にそう思っている。
特に、4年前に息子を産んでから始まった育児は、始めての連続であり、責任だって重くて、いつだって上手く出来ないと落ち込んでいる。こどもの気持ちを上手く認めてあげられないし、怒らないで優しく諭したいのに全くもって上手く出来ない。ご飯だってちゃんと作って、家もキレイにしておきたいのに、どれも中途半端。
「十分やっているよ!」といくら誰かに言われたって「そんなのみんなやってるでしょ?」と思う。私よりちゃんと出来てない人なんて、知らない。みんな、もっと頑張っている。

こんな私が子どもを育てると、周りとどうしても比べてしまう。比べたらダメということは嫌というほど分かっている。「ありのままのこどもを受け入れましょう。成長の速度は個性です」って、よく言われているから。でも、私は無意識のうちに比べてしまう。他の子より息子の方が出来ていたら、ほっと安心してしまう。他の子より出来ていなかったら、大丈夫なのかと不安になってしまう。出来ないことがどんどん増えて、ついていけなくなるのではないか、苦労するのではないかと、どんどん悪いことばかり想像してしまう。

息子には、私のように苦労して欲しくない。私みたいに「自分はダメ」だと思いながら生きて欲しくない。

「自分にOKが出せてないんだね。どんな自分もOKだしていいんだよ」
と、ワークショップの先生は言った。今回参加したワークショップは参加者6名の小さなものだった。「自分の本当に好きなものを探そう!」というタイトルで、先生が質問し、参加者が答え、みんなで共有していくというスタイルだった。

どんな自分にもOKを出す。

それは、出来ない自分も出来ている自分も、ダメな自分も素晴らしい自分も、ただ「それでいい」と言ってあげること。
先生の言葉に、私は考えた。どうすれば、自分にOKが出せるのかということを。
どうやって考えたら、どんな自分も認めてあげられるのか。

「34年間生きてこられた自分」にだったら、OKが出せると思った。
34年間、無事に生きてこられただけでの自分。

先生は「素晴らしいですね」と言った。
「34年間、無事に生きてこられた自分は素晴らしいね」と言った。

……はぁ。
私はひとつも納得できなかった。

「素晴らしい」と言えるのは、あなたが素晴らしいからでしょう。
あなたが自分に正直に、毎日精一杯努力して何かを日々積み重ねて、沢山のものを得て生きているから、私にもそう言えるのでしょう。
私がいかに何も出来ていない人間なのか、どんなに私がダメな人間かということを、あなたは知らないでしょう。私には何も誇れるものなどないし、全てが中途半端な人間なのだ。「34年間ただただ生きてきただけの自分」に何の価値があるというのだろう。
そんな自分にOKを出せたとして、どうなるというのだろう。

私はきっと「自己肯定感」というものが低い人間なのだと思う。

自己肯定感とは、自分をありのままに受け止める力をいう。この力が高い人は「自分は愛される人間だ」と思うことが出来、失敗してもめげずにたくましくのびのびと成長していけるという。子育てにおいてもこの「自己肯定感」を高めることがとても重要なものだと、言われている。

そして、幼児期の親子関係がこの力を形成するのに、大事な役割を果たすのだという。
子どもが4歳と2歳の今、まさに私は子どもの「自己肯定感」を育てている時期なのだ。

なのに、私は自分をダメだと思っている。自分はダメだと思う人間が、自分は素晴らしいと思える子どもを育てることが出来るのだろうか? きっと難しいに違いない。
ボールも蹴れないのに、プロのサッカー選手を育てようと思うぐらい無謀だろう。

だからこうやって、ワークショップに参加したリ、ネットで検索したり、本を読んだりしてどうやったら「自分はダメだ」と思わないでいられるのかということを、考えている。

なのに、何をしても、自分にOKが出せない。
自分はこれでいいと思えない。自分はダメだと思っている。

いつだって、私は「否定されること」が怖い。自分は「これでいい」と思うことが怖い。「これでいい」と思って「違う」と否定されることが怖い。

その原因はどこにあるのだろう? と考えていくと、10歳の頃に体験した、世界が180度反転した出来事に思い当たった。

私が10歳の頃、小学校4年生の時のことだった。
私には、クラブも委員会も一緒で、毎日休み時間も一緒に遊んでいたちーちゃんという仲のいい友達がいた。3年生のクラス替えで一緒になってから、ずっと一番の仲良しだった。交換ノートもしていたし、ちーちゃんの好きな人も知っていた。遠足のバスも隣だったし、休みの日に遠くに一緒に出掛ける時も2人だった。

でもある日、クラスの女の子が私のところに来て「ちーちゃんはね、あんたとは遊びたくないんだよ」と言った。「ね、ちーちゃん」と同意を求めるとちーちゃんはうなづきもせず、首を振りもせず、何も言わなかった。ただその子に「行こう」と言われると、その子の後について私から去っていった。

何も分からないまま、私は1人になった。

え? 何で? 昨日まで仲良く遊んでいたよね? いつも一緒だったよね? 不満なんて言われたこと、なかったよね?

今思えば「あっそう」というぐらい小さな出来事だけれど、当時の私にとっては大きな出来事だった。

自分が仲のいい友達だと思っていた子は、実は私のことを友達だと思っていなかった。
そのことに、頭を思いっきり殴られたような衝撃を覚えた。

私はそれまで「愛されて当然」と思って生きてきた。ごく普通の家庭に育ち、それなりに愛情を受けて育ってきたと思う。愛されて当たり前だと、ぬくぬくと育ってきた。だけど、一番仲のいい友達だと思っていた子が、私から離れていった。仲良しだと思っていたのは自分だけで、本当はずっと好かれていなかった。
私って、わがままだったのかな。私って、うざかったのかな。私って、ちーちゃんにどう思われていたんだろう。何が嫌だったのだろう。
今まで自分が信じていたものが、足元から崩れていった。自分の行動の全てが全部間違いなのではないかと、怖くなった。昨日までみたいに振舞っていてはダメなんだ。昨日までの自分は間違っていたんだ。
友達に愛されない自分は、どんなに頑張っても「ダメ」なんじゃないか。どんなに昨日までの自分と違う自分になろうとしても、私は元から「ダメな人間」なんだ。どんなに頑張っても「ダメな人間」は滲み出て、私はきっと誰からも愛されない。

誰にも言えない気持ちを抱え、1人でぐるぐると考え続け、ひたすら「自分はダメだ」と思っていた。毎日体がだるくて、保健室にしょっちゅう行っているのに何の不調もなくて先生には「……また?」とため息をつかれた。夜中に寝ながら叫ぶことが多くて「どこかおかしいんじゃない?」と母に言われ病院で脳波を調べられた。母にも言えなかった。自分が、家以外では愛されない人間だということを知られたくなかった。少しだけ母を責める気持ちもあった。何でこんな風に育てたの? 何で誰からも愛されないような性格の娘に育てたの? と。
自分がこんな性格で誰かも愛されないのは、育て方が悪かったんじゃないの? 
ワガママに育てたんじゃないの? 人の気持ちに鈍い子に育てたんじゃないの? ダメな子に育てたんじゃないの? 

しばらくして別の友達が声を掛けてくれて、仲良くなった。その子は本当にいい子で、誰かが悪口を言っていても「私はそう思わないよ」と言える強い子だった。同じマンガが好きという共通点があり、どんどん仲良くなれた。
だけど、いつだって私は彼女に負い目を感じていた。仲良くしてもらっている。こんな私と仲良くしてくれる、と。
いつか彼女も自分に対して嫌になる日がくるのだと、思っていた。
いつかちーちゃんみたいに私を否定する日がくるのだと。

そんな日は、来なかった。
それなのに、20年以上経った今でも、私はいまだに「いつか否定される」ということを恐れている。いつだって、誰かと話していても「私ってズレてないかな」と不安になる。ちゃんと出来てるかな。浮いてないかな。輪に入っているのかな、と不安で一歩引いてしまっている。

「自分は素晴らしい」と思ってもいつかまた否定されて、世界が反転することが、たまらなく怖い。

ダメな自分と思いたくない。だけど、ダメな自分と思っていない自分になることは、もっと怖い。

ダメな自分でいたら、これ以上誰かの言葉で傷つくことはない。世界が反転するような出来事にも、出会うことはない。自分で自分を責めていたら、誰かの言葉でそれ以上責められることはないのだから。
私は「ダメな自分」と自分を責めることで、自分を守っているのだ。

この矛盾した気持ちは、どうしたら解消できるのだろう。どうしたら、自分を責めることなく、いられるのだろう。
私は変わりたかった。子どものために、自分のために。怖くても「ダメな自分」を手放したかった。

「ただ『傷ついていたんだね』と今からでも労えばいい」

そう書いてある本との出会いは偶然だった。ネットで見つけて、あまり期待しないまま注文した。だけど、読み始めてすぐにこの本に引き込まれた。
「自己肯定感、持っていますか?」というタイトルのこの本は、今まで私が目にしてきた方法と全く違うアプローチで、自己肯定感を増やしていこうという本だった。

読み進めていくうちに、心の中に暖かな海が広がっていくみたいな穏やかな波が訪れた。穏やかで温かくなっていく。

「本来は『傷ついてかわいそうに』と言うべきところを『自分はダメだ』と思いながら生きてきたというのは、本当に大変なことだったでしょう。そんな自分を『よく頑張ってきた』と認めると同時に、今からでも『傷ついて大変だったね』と労わってあげてください」

……気が付いたら、私は泣いていた。

あの時「私は傷ついていたんだ」ということに、初めて気が付いた。
否定された自分はダメだとばかり思っていたけれど、本当は傷ついていたんだと。

「傷ついていたんだね」
ただそう思うことで、未だに私の中で震えている10歳の私は、暖かな気持ちに吸収されて、溶けていった。

ただ、傷ついたんだねと言ってあげること。

ただそれだけで、10歳の私は満ち足りた。震えいてた10歳の私は、ただそう言ってほしいだけだった。「傷ついていたんだね」と。

そんな簡単なことが、20年以上も分からなかった。

ダメな人間とダメじゃない人間がいるわけじゃない。ちーちゃんが去って行ったからって、私がダメなわけではない。
ただ、ちーちゃんが私といることを選ばなかっただけ。ただ、それだけだ。
ちーちゃんが一緒にいなくても、私には価値がある。ワガママだと思ったのなら直せるように努力したらいいし「何で今まで言ってくれなかったの?」と思えば、そう聞いたらいい。

「自分はダメだ」と自分を責めながら、傷つかないようになんて生きなくてもいい。また傷つく出来事があったら「傷ついたんだね」と、傷ついた自分を認めたらいい。否定されたら、ダメになるんじゃない。ただ、傷つくだけなんだ。

認めるべき自分は、素晴らしい自分でも、何かを手にした自分でも、何でも出来る完璧な自分でもなかった。

「傷ついて震えている自分」だったんだ。

沢山泣いてすっきりしたら、「こどもに、自分のようになってほしくない」という思いも、手放すことが出来た。
子どもが傷つかないように育てるんじゃない。傷ついたときに「傷ついたんだね」とただ言える場所になれたら、それでいいんだと思えるようになった。

生きていく以上、きっと沢山傷つくことがあるだろう。私みたいに悩む事だってあるだろう。失敗だってするだろう。でも「傷ついたんだね」と言えるのなら、きっと大丈夫だろうと思えた。こどもは子どもで学んで成長することが出来るだろう。起き上がることが出来るだろう。

そして、こどもの中に自分の嫌なところを見ても「そんなところもあるよね。私もそうだった」と思うだけになった。出来なくて大変だったこともある。でも、苦労してもいつか出来るようになるから大丈夫……。

「ダメな自分」を手放すことは、怖いことではなかった。むしろ、穏やかで暖かい気持ちで自分が満たされ、心の奥から温かい涙が溢れてくるようなものだった。

私はようやく「34年間、ただ一生懸命生きてきた自分」を受け入れることが、出来た。

こどもの気持ちを上手く認めてあげられない自分も、怒らないで優しく諭したいのに上手く出来ない自分も、家事も適当で中途半端な自分も、それでいいと思える。それでも1mmでももっとよくしたいと、考えて行動して、一生懸命な自分がいる。

私はこれからも、傷つきながらも自分を労い、ただ一生懸命に生きていくだろう。

「自己肯定感、持っていますか?」/ 水島広子 著

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