メディアグランプリ

都合のいい相手。


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記事:8☆(ライティングゼミ・平日コース)

 
 
だましだまし続けてきた関係も、ついに壊れてしまった。
 
2018年2月。
彼女は、僕の前から消え去っていった。
「またね」と言ったっきり、戻ってくることはなかった。
 
僕は彼女にとって、「どうでもいい相手」になってしまった。
 
 
 
 
それまでのことを、少し振り返らせてほしい。
 
 
彼女とは、3年ほど一緒に暮らしていた。
 
2015年4月。
彼女の一人暮らしの狭いスペースに僕はもぐりこんだ。
 
「今までで、一番いい相手!」
「見てみて、ここがカッコいいのー! あとね……」
彼女はそんな風に家族にも紹介してくれた。
恥ずかしげもなく、いやそれどころか自慢げに。
 
思ったことを、そのままに口にできる彼女が好きだった。
 
好かれていた、と思う。
頼られていた、とも思う。
 
 
でも。
 
彼女から愛されていたのか?
 
とたずねられたら。僕は自信を持ってうなずくことができない。彼女からの愛情には灰色の疑念が、ぼんやりと心の隅の方に立ち込めてる。
 
 
僕たちの関係がかげり始めたのは、去年のことだ。
 
2017年1月。
彼女の希望の職場で採用募集が始まった。今までにすでに3度も応募して、毎回不採用通知にため息をついていた仕事だ。でも彼女は「また募集が出た!」と子どもみたいに目を輝かせて、4度目の応募。
 
 
2017年2月。
採用通知が届いた時の彼女の喜びようといったら。
「3月末まで、今の仕事やりきるんだ!」と意欲的に働く姿も、やる気が空回ってへとへとになる姿も、僕はずっと見守ってきた。
 
出会ってから2年間、彼女の前進を僕はずっと支えてきた。
 
 
2017年4月。
彼女は新しい会社で働きはじめた。毎朝はりきって出社し、笑顔で帰ってきた。
「あー今日も仕事が面白かった!」
「天職って英語でcallingって言うんだって。
 今まさに天職につけた、4回目にしてやっと呼ばれたんだ!」
 
 
こうして、彼女は仕事に没頭していった。
 
 
そして、僕のことを見向きもしなくなっていった。
 
はじめは、これまでの2年間は嘘だったのか、と思うくらいの彼女の変わり様に、僕はひどく傷ついた。
 
でも、一人の時間が増えたことで振り返ってみると、一緒に並んで進んでいた日々、いつも方向を決めていたのは彼女だった。始めの一歩を踏み出すのも彼女だった。
僕は、それをただ後押しするだけだった。彼女についていくだけだった。
 
悲しみとか寂しさとか虚無感とか、いろんなネガティブな感情が入り混ってどん底まで落ちていく。もう、いなくなってしまいたかった。そうだ、いなくなろう。
 
そんな思いが胸にたまりこんできたタイミングでいつも、彼女は僕に甘えてきた。ニコニコッと笑顔で。
そんな笑顔につられない……そう思いながらも、結局は彼女に付き合ってしまうのだった。
 
 
彼女を2年間も支えてきた「いい相手」は、ただの「都合のいい相手」へとなりさがっていった。
 
 
いや、毎日一緒に過ごした時だって、僕は、彼女の都合にあわせていたにすぎなかったんだよな、と思う。でも、一緒にいると楽しい。
 
それでいい。そう思ってた。
 
そう思っていたんだけど。
 
 
 
2018年2月。
彼女は、僕の前から消え去っていった。
 
 
どうせ、すぐまた、何事もなかったかのようにニコって現れるに決まってる。
はじめの1週間はそう思っていた。
2週間が過ぎても、淡い期待を抱いていた。
3週間が過ぎると、もう全部忘れよう、と決めた。
 
彼女のことなんて考えない、考えない…そうして、1ケ月が過ぎ、彼女がいないことが日常になった頃、ばったりと彼女は現れた。
 
「うそ? こんなところにいたの? いつから?」
彼女は僕にかけよってきた。
 
「やっばい、見なかったことにしたい」
こんな時でも、思ったことをそのままに口にし、あーーー、うーーー、と苦悶の様子を見せる彼女。
 
「ごめん、お世話になったのに大切にできなくってごめん」
 
今さら何言ってんだよ。そういうの、もういよ。
 
「一緒に帰ろう、ちょっと待っててね」
 
いや、お前、新しい奴見つけた方がいいって。おい。おい!!!
 
 
彼女は、18,600円を払って僕を取り戻したのだった。
 
 
&Nbsp;
僕は、自転車。
2年間、彼女のチャリ通を支えた。
転職後は月1,2度の買い物、遠出に付き合う程度になって、今年の2月はまさかの駐輪場置いてきぼり事件発生。
駅前屋根つきの駐輪代は、6時間100円ほどかかり、46日間も僕を放置した彼女は、18,600円を払うか一瞬躊躇し(もう放置しちゃって、新しい自転車買った方が……)、でも結局すぱっとお支払して、僕を連れて帰ったのだった。
 
「本当にごめん。でもこの痛みは忘れない。一緒に乗り越えたことも忘れない。これからは大事にするからね!」
 
ったっく彼女はまた都合の良いことを言ってる。

 
 
***

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2018-05-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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