女性活躍推進は海賊団のように
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記事:鈴木佳文(ライティング・ゼミ日曜コース)
「え? ここまで来て、何故?」
驚きで一瞬、頭が真っ白になった。
プロジェクトチームのエース、田中さんが会社を辞めると言い出したのだ。
訳が分からない。
「倒産直前の状態から皆で事業を立て直してきて、これから、という時じゃないですか。今年になって完全に黒字化して、色々とやりたいことがあるって言ってましたよね」
たった十人の部品工場。
営業は社長と田中さんだけ。
田中さんが抜けてしまったら、これからの展望が成り立たない。
「何かね、もう俺っていらないのかなって……」
まさか、燃え尽き症候群?
「確かにこれまで超ブラック勤務状態でしたよね。それでも先頭に立って皆をけん引してきた田中さんを凄く尊敬してるんです。そんな一言で片づけられちゃったら寂しいですよ」
経営改善のプロジェクトを立ち上げてから2年。
経営コンサルタントとして、計画の立案と実行の現場に伴走してきた。
信頼関係は構築してきていた筈なのに、田中さんは口を噤んでしまった。
ショックだった。
自分が何か悪いことをしたのだろうか?
井戸の底に沈んでしまったような感覚で、気分が落ち込んだ。
「先生、実は社長が女性活躍推進に取り組むって朝礼で言ったんです」
原因は応援してきた社長の一言だった。
「え?」
「補助金とか出るらしいし、女性の管理職を増やす計画を作るって言ってましたよ」
やられた!
そんな話では社長の真意は伝わらない。
「それ、勘違いだから。僕から社長に話をして、正しく伝わるようにします。皆さんには、いったん社長の言葉は忘れるように言ってください」
真相を伝えてくれた製造リーダーの佐藤さんに、そうお願いすると、
返ってきたのは疑いの眼差しだった。
「田中さん、先生に裏切られたって悩んでましたよ」
そうか、それで話が続かなかったんだ。
社長のたった一言で失われた信頼関係は簡単には元に戻らない。
行動で取り戻していくしかない。
そもそも、社長から話が出たのは問題が起こる1週間前。
採用に関する話をしていた時のこと。
「女性活躍推進法ってのが出来たんだって?」
「そうです。いま、国としても女性活躍推進に力を入れていて、補助金がでたりもするんですが、何よりも採用に力を発揮すると僕は思ってます」
そんな会話があった。
「ここまで皆が死に物狂いで働いて、何とか業績が回復したからね。人手が足らないけれど、採用しようにも人が来ない。社長仲間にも採用に役立つって聞いてたんだ。先生が言うなら間違いないね」
「ただ、ここは男職場ですし、目的を明確にしてちゃんと伝えないと反発が起こる可能性がありますよ」
そういえば、社長は僕の補足を聞き流していたような気がする。
リスクを明確に伝えきれなかった僕の問題だ。
これでは、ここまで頑張ってきた皆が報われない。
「社長、お詫びしないといけないことができました」
驚く社長に経緯を伝える。
「皆にちゃんと伝わるように、社長の思いを形にしましょう」
いきなり田中さんのところへ行こうとする社長を押しとどめた。
今度は間違っちゃいけない。
ワンピースという漫画がある。
海賊王になることを夢見た少年が、癖のある仲間と数々の逆境を跳ねのけながら成長していく物語だ。
人気があるのは、チームの一人一人が自分らしく輝いて役割を果たしていく姿に自分を投影しているからだと僕は思っている。
会社に居場所が無いと感じている人、生きづらさを感じている人、
きっと、海賊団の仲間に活躍する自分の姿を映してスッキリしているに違いない。
サラリーマン時代の僕もそうだった。
冒険に出る海賊船のクルーとして、自分らしく輝いて役割を果たしていきたいのだ。
「こんなんじゃ伝わりません。もっと違う言葉がある筈です」
社長と徹夜でプレゼンを作りながら、支援に入って初めて社長にダメ出しをした。
「なんで、今さらプレゼン何か作る必要があるんだ。言葉で説明すれば良いだろう」
「社長は、商品の取り扱い説明書でワクワクできるんですか? 経営改善計画書を作った時のことを思い出してください。今は、社長の思いを皆に伝えることが絶対に必要です。田中さん、辞めちゃってもいいんですか?」
「……わかった」
田中さんの話をしたら、社長のスイッチが入った。
これまで苦楽を共にしてきた仲間を失いたい筈がない。
翌朝の朝礼でプレゼンをした社長は、かっこ悪かった。
あんなに練習をしたのに、半分くらいは泣いていて言葉が聞き取れない。
それでも、
「皆と一緒に幸せになりたいんだ!」
手法として、女性活躍推進を選ぼうとしただけで真意が違うことは伝わった筈だ。
田中さんは、退職したいと言わなくなり、今度は新しいプロジェクトのリーダーになった。
題して、
「家族を幸せにしちゃうプロジェクト」
残業続きでブラックだった会社。
家族にも寂しい思いをさせてきた。
残業しないで帰って、家族と共に過ごす時間をつくる。
女性が活躍できる会社は男性だって活躍しやすい。
むしろ、親の介護が目前に迫る社員ほど、会社の風土を変える必要がある。
プロジェクトを進める中で、皆がそのことに気付きはじめた。
業績が安定してきたら、改めて女性活躍推進なるものに取り組む予定だ。
社長のプレゼンはカッコ悪かったけれど、最高に輝いていた。
皆が、どうやって幸せになるのかがイメージできた。
海賊団がワンピースを目指すように。
それぞれの会社が、女性活躍推進で実現したいビジョンがある筈だ。
チームをけん引するリーダーは、
「オレは、海賊王になる!」
といった、海賊団の船長のように、
カッコ悪くても良いから、自分の感情に素直になって
「〇〇になる!」
と叫ぶことが重要だと思う。
それぞれの個性を発揮して、皆が役割を担うのだ。
女性活躍推進は海賊団のように。
チームが一丸となって進んでいかなければならない。
次の機会には、社長にちゃんと伝えないといけない。
いろいろあったけれど、事件があった6か月後。
お酒に弱い僕が田中さんと飲みに行って仲直りした。
翌日はとても幸せな二日酔いだった。
(実話に基づいていますが、分からないように人物名などを変えています)
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