メディアグランプリ

私には壊れた電化製品が必要だと思っていた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鈴木よしえ(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
「ああ、もう、どうしたらいいんだよおおお」
もうすぐ日曜日が終わろうとしていた。私はものすごく焦っていた。まともなものが一つもできていなかったからだ。
明日は月曜日。そう、ライティング・ゼミの課題提出日が迫っていた。
 
1週間も時間が与えられているのに、期日に余裕を持って提出できたことがない。何を書こうかと悩みすぎて、電車の窓に映る自分の困った顔のひどさにびっくりしたことも一度や二度ではない。書きたいことがようやく決まったと思ったのに、いざ書き始めると意外と早く手が止まってしまう。
 
あんなに意気込んでゼミに申し込んだのに、すでに未提出になってしまったことも一度だけある。とがめられることはないけれど、「未提出」だったことをふと思い出すと、ものすごく恥ずかしい気持ちになる。「ったく、提出すらできないのかよ。やりたくて始めたんじゃなかったのかよ」と脳内では幾度となく自分へのダメ出しが繰り返される。
 
「なんで書けないんだろう?」
そんなことを考える暇があるなら、手を動かした方がいいことくらい分かってる。
「どうしたら文章が上手くなれるんだろう?」
そのためには、数をこなす必要があることくらい分かってる。客観的に見れば、「分かってるつもりになっているだけで、実際は大したことをやってない」という指摘もあるだろう。それでもなかなかキーボードが軽快に進まない自分に、かなり嫌気がさしていた。
 
こうなったら、神様でも仏様でも地獄のえんま大王でもいい。私に書くネタになるような、なんか面白いハプニングをくれないかなぁ……。あまりに悩みすぎて、そう思ったこともある。
 
じゃあ、実際のところ、私には書く題材になるようなことが、何ひとつ起こっていないのだろうか?
いや、何も起こっていないのではなく、気づけていないのだ。
 
例えば、朝の通勤電車で、いつもは座れないのに運良く座れた、なんてことがあるだろう。ランチで偶然入ったお店が、いつもは行列必至なのに、すんなり席に通されることもあるかもしれない。コンビニで買物をしたら金額が777円なんてことがあったら、その瞬間は何だか嬉しくなったりするはずだ。もちろん、良いことばかりでなく、また同じことが起きたら困るような出来事に遭遇することだって考えられる。
 
私たちは毎日、秒単位でいろんなことが起きていて、その都度何か感じているはずなのだ。でも、意外とすぐに忘れてしまう。その時は嬉しい気持ちや、嫌な気持ちになっても、そのあとの出来事で、本人の知らない間に感情はどんどん上書きされていく。だから、私がこうして課題に取り組んで、「文章が書けない」「なかなか進まない」などと苦しんでいることも、立派な題材になる。
 
ニュースの号外になるようなことは、そう頻繁に自分の身に起こらない。おそらく、何でもない平凡に思えるような出来事のほうが多いはずだ。例えば私が出かける前にドライヤーを問題なく使えるのも、冷蔵庫にあるプリンがちゃんと冷えているのも、当たり前で平凡すぎる出来事だ。
 
いつも使っているドライヤーがいきなり火を噴いた、なんてことがあったら、確実に面白いネタにはなるだろう。お笑いのコントのように、髪が縮れてアフロヘアになったという展開になれば、もう言うことなしだ。でも、そういう珍しいことが起きないと書けない、というのは私が望んでいるライティングとは違う気がする。文章というよりも出来事が面白いから読んでもらえる可能性が高いからだ。
 
私がいいなと思う文章……。例えば、自分の好きなことや夢中になっていること。あまりにも細かすぎて誰にも気づかれないけど、個人的にとても印象に残った出来事。そういうことを、自分の言葉で書ける人を、ものすごく羨ましいと感じている。好きな作家は特にいないけれど、プロでなくても読んでいる人の心をつかめる文章が書ける人。そういう人に、私は憧れている。
 
私を知っている人に文章を読まれるのですら、まだまだ恥ずかしい。やっぱり、自分をよく見せたくて、カッコつけたくなってしまうのだ。それでもいつか、ブログやSNSなどで、私と直接会ったことない誰かが私の書いた文章を読んでくれて、「なんかいいモノを読んだな」と、そんなふうに思ってもらえる文章を書けるようになりたいと思う。
 
壊れた電化製品などに頼らずに、書きたいことを書けるようになるまでには、まだまだ時間はかかるだろう。でも、それに頼らないで、これからも苦しみながら書き続けようと思う。

 
 
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2018-05-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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