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メディアグランプリ

思い通りになんて、ならなくても良いか。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:櫻井由美子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ドキドキドキ。
どうなんだ。今日はどうなんだ。
 
娘の前に差し出す。
今日のメニューは親子丼。
 
2歳の娘は、最近食べかたにムラが出てきた。同じメニューでも食べる日もあればまったく手を付けないこともある。
せっかく作ったのだからちゃんと食べて欲しいと願うわたしと、いやなものはいや! と言い張る娘。
緊張の糸が張りつめる。
目の前の親子丼をじーーーっと見て、鶏肉に手をのばす。パクっ。
あっ、食べた。でもまだ油断は出来ない。一度口に入れてもすぐにべぇーと出してしまうこともあるから安心は出来ない。
もぐもぐ。もぐもぐもぐ。
よしっ! 食べてる! ここまでくればもうひと安心。ホッとして自分のぶんの親子丼を用意しに台所へ行った。
親子丼と一緒に娘のところに戻ってみると、鶏肉だけが減っている。タマネギはよける。ふだんなら喜んで食べるタマゴの部分も今日は食べていない。ごはんも減っていない。
「これ、大好きなタマゴだよ? 美味しいよ? お肉だけじゃなくてごはんも一緒に食べよう?」
ごはんを乗せたスプーンを娘の口元に運ぶも、決して口を開こうとしない。イヤだイヤだと首を横にふり、しまいには手でスプーンを押しのける。ごはんとスプーンが床に落ちる。
あぁ、せっかく作ったのにな。
食べて欲しかったな。
そう思いながら、鶏肉だけじゃお腹が満たされないよなと娘の大好物のバナナを持ってくる。あっという間に2本平らげ、もっと食べると言う娘をみながら、あー、報われないなーとなんとも言えない気持ちがこみあげてくる。
 
親子丼だけじゃない。
カレーを作ればカレーは食べない。ふりかけごはんたべるーと言い出す。
着るものだってそう。
お気に入りのキティーちゃんの冬物ワンピースは、季節的にもう合わなくなってきて、着ていると汗だくになってしまうのに「キテーちゃんきるー!」と言い張る。キティーちゃんが好きなのね、と半袖のキティーちゃんTシャツを買い足すも、半袖キティーちゃんには見向きもしない。
ワンピースはもうサイズも小さくなってきて、オムツがまる見えなのに、下にズボンははかないと言う。
昨日は初めての傘を買ってもらったのがよほどうれしかったのか、傘をもって寝るといって譲らない。
 
わたしから見ると「どうして?」と思うようなことばかりだ。
 
いろんな食材をバランスよく食べて欲しい。
せっかく作ったんだから、食べて欲しい。
季節に合った洋服を着て欲しい。
女の子なんだからオムツ丸出しで外に行って欲しくない。
ズボンをはかないで公園に行ったら、転んでヒザをすりむいてケガをするにちがいない。
傘は傘立てに置いていって欲しい。
 
「こうして欲しい」
「こうして欲しくない」
わたしのこういった期待を、ことごとく裏切ってくる。
自分に気持ちの余裕があれば笑えるけれど、正直笑えないこともたくさんある。
 
自分の思い通りにならない。
そのことが、わたしにとってものすごくストレスになっているということに、子育てをしていく中で気がついた。
 
と同時に、わたしはこんなにも自分の思い通りにしたいと思っていたのか、という自分の傲慢さにも気づかされた。
 
自分の作ったごはんを食べて欲しい。
自分の選んだ洋服を着て欲しい。
これは良い、あれはダメ。
良かれと思って、気づけばわたしはわたしの価値観を無意識に娘に押しつけていた。
なんてことをしてしまったんだろう。もともと子育てに自信なんてなかったけれど、取り返しのつかない失敗をしてしまったんじゃないかと不安になる。
 
思い出してみると、わたし自身も「今日は食べたくない」という理不尽な理由で、母の作ったごはんを食べ残したことがあった。ごはんは残したのにお菓子は食べたりもした。嫌いな野菜はひたすらよけて食べなかった時期もあった。
もっとあったかい格好して行きなさいとか、今日はその格好じゃ暑いわよとか言われながら、それでも自分なりにかわいいと思う洋服を選んで出かけた。
スカートで外を走り回って、砂利道で転んで思いっきり膝をすりむいて「だから言ったでしょ!」と母から小言を言われたりもしたし、そのぬいぐるみはちょっと大きすぎるから寝るときはじゃまだから小さいのにすれば? と言われてもお気に入りの70センチ近い犬のぬいぐるみをいつも横に置いて寝ていた。
 
娘だったころのわたしは、母の小言は右から左に聞き流していた。
母の言うことを聞かずに痛い思いをしたこともあったと思うけれど、それはそれで今となっては良い思い出になっている。
人参もなすもピーマンも、全部よけていたけれど今ではどれも食べられる。
 
あれ? 
……ということは、もしかしたら娘もわたしの言うことなんてたいして聞いてないのかも?
わたしの言うことは右から左に聞き流されているのかも?
たとえわたしの思い通りにならなかったとしても、なんにも問題なんてないのかも?
 
そう思ったら、ふっ、と気が抜けた。肩の力が抜けたような気がした。
バナナばっかり食べていても、冬物のキティーちゃんで汗だくになっていても。スカートで転んで膝をすりむいても、傘を抱いて寝ていても、なんにも問題ない。
大きくなった娘に、「あなた小さいころこんなこと言ってたのよ」「こんなことしてたのよ」って伝えられるように、今のうちにメモだけはしておこう。きっと一緒に笑える日が来ると思うから。

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2018-05-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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