メディアグランプリ

「めんどうくさいことが大事なんだ」っていうことに、なんで気づいちゃったんだろう……


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:一条かよ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「それでは、PTA役員の選出に入りたいと思います。立候補なさる方は、挙手をお願いいたします」
学校の年度始めの懇談会は、どこの学校もここから始まることが多いではないだろうか。PTA役員。子どもたちの通う小学校では、子ども一人につき1回、というのが暗黙のルールとなっている。私は、率先してする役員をするタイプでもないが、率先して逃げるタイプでもない。3人の子どもを持つ私の役目としては、残すところあと一回となっている。
 
学校行事に参加するのは、正直面倒なのだが、実はやってしまえば大したことはないことがほとんど。むしろ、授業参観の時間よりも、学校の様子や、先生、子どもたちの普段のやりとりを見ることができる、いい機会でもある。
 
このPTA役員、一番頻繁なのは小学校で、中学になるとだいぶ落ち着く。働く親が増えることもその理由だろう。高校になるとなおさらで、参観にも行かなくなるから、「学校のことなんて、ほとんどわからないわよ」と先輩ママからは聞いていた。みんなそう言っていた。
 
なのに……。
 
今年の春から、長男が高校生になった。入学式にはもちろん私も参加。同じ日に保護者会もあるようで、式の直後には全体保護者会、お昼を挟んでクラス保護者会があるという。結構丁寧にやるのね、その程度にしか思っていなかった私は、その後に面倒なことが待ち受けてることなど、想像すらしていなかった。
 
「PTA組織というのはありません」
保護者会での説明。そこまではよかった。
「ただ、保護者が有志で、役員のようなものはあります。連絡係に名簿係、それから……」
 
だいたいが、「ただ……」から始まることに、ろくなことはない。役員、のようなものがある? 私はイヤ~な予感がした。
役員をやるのはいいのだ。おもしろそうな高校だったし、いずれやるつもりでいた。が、今年ではない、やるのは来年なのだ。残り一回の小学校、そして高校(サイアク中学校とのトリプル)の役員は同じ一年に集中して、済ませる計画だった。それには今年は厳しいので、それで来年にという決意表明を自分の中でしていたのだった。
 
実際に“自主的役員”を決める、クラス保護者会が始まった。その時、あの「決意表明」は、覆されるかもしれない、ちょこっとだけ、そんな予感も走った。
 
正式に発表された役は、5種類以上も。小学校でも3種類しかないのに、だ。しかも人数制限はあるようでなく、“何人でもウエルカム”だと。あの「予感」が、だんだん色濃くなっていった。
 
「自主性を重んじるのですが、これだけはクラスから必ず出していただかないとならないのです」
お堅そうな役どころのことだった。「選挙管理委員会」。
どうにも決まらない雰囲気で、けん制し合っている思いばかりが飛び交う。担任の先生もゴリ押しするタイプではなく、困り顔。こういうのは、決まらない時は本当に決まらないのだ。
 
かと思うと、こういう時にはたらいてしまう、妙な「勘」や「ご縁」がある。数時間後には、何十年来の親友か、という関係になる人がたまたま隣に座っていて、そちらの方から「どうにかした方がいいよね」というオーラが伝わってきた。なんでこういう時に、分かりあってしまうのだろう。ここぞ、という時“以外“で発揮される自分の能力が恨めしい。
 
「やるか?」
言葉になるともならないとも、という合図で、一緒に手を挙げることにした。
やっとこの空気を断ち切ってくれたか! 爽やかな空気が一気に流れた。後悔はない。やるからには楽しんでやるのだ。
 
それから一か月経った頃、高校の授業参観があった。夕方にはクラス懇親会がある。午前中の参観から、夕方までをどう過ごすのだろう? そのことに気付いたのは、当日学校に着いて、予定表をちゃんと見た時。我ながら、計画性のなさに驚いたが、懇親会がなぜに夕方開催だったのか、その理由もここでやっと分かったのだ。
 
ある意味で「圧巻」だったのだが、その日のスケジュールは、一日びっちりだった。午前中は参観、その後すぐに“全体”保護者会、つまり学校全員の保護会だ。それから昼食をはさんで“学年”保護者会があり、その後にやっと“クラス”懇談会がある。人生の中で、懇談会のはしごを経験するとは思ってもみなかった。しかも三軒も。一体何をそんなに話すことがあるのか、いやないだろう、と疑問と疑念がわいていた。
 
しかし、毎回不思議なのだが、話しが始まると、そんな気持ちをすっかり忘れて、聞き入ってしまうことが多い。二番目の学年保護者会では、学年全員の先生の自己紹介に始まり、入学直後のオリエンテーションで生徒たちに話したことを、親にもシェアしてくれる。「わざわざそんなことを?」ということでもある。
しかしそのわざわざわざを、この高校は大事に、大事にしている。なぜそんなに大事にするのか? そのわけが、この長い一日をかけて、私の中でやっと分かったような気がした。
 
『信頼関係を築きましょう。自分のことばかりを考えるのではなく、相手のことも考えましょう。風通しのよい環境を作りましょう。』
こういったことは、どこでもいわれることで、誰もが分かっているといえば分かっていることだ。
しかし。実際にそれができているだろうか?
 
信頼関係とはなにか? 信頼関係を築くにはどうしたらいいのか? 風通しのよい環境にするにはどうしたらいいのか?
その質問に「答える」ことができる人は多いかもしれない。しかしこと「実践」レベルで考えた時には、本当にその答え通りに「できている」と自信を持って言える人は、どれくらいるだろう?
 
信頼関係を築くには、時間がかかる。相手のことを知る必要があるし、自分のことを知ってもらう必要もある。自分のことを知ってもらうには、自分を出す必要がある。自分を出すのにだって、時間はかかるものだ。人をおもんぱかることも、信頼関係のない人に対しては、ある人に対してするよりも難しいものだし、風通しのよい関係づくりだって、信頼関係があるからこそできることだ。
 
結局のところ、何をするにも、「信頼関係」という基盤ができてからでないと、何事もうまくはいかない、ということともいえる。ということは言い換えると、信頼関係さえ築いてしまえば、あとのことは、ある程度はおのずとうまくいくということだ。
 
だから、彼らは時間をかけて、手間をかけて、「そこまでして」と思われても、自分たちのことを知ってもらいたくて、それはつまりは信頼関係を作りたくて、その「めんどう」に見えることを、実践しているのではないだろうか。
 
私はその長い一日を過ごして、なんとなくではあるが、わざわざ「めんどう」なことをなぜするのか、そのことに対して、自然と受け入れつつある自分に気づいた。
最後の懇親会では、自分の生徒の妹や弟たちとまで、汗水たらして一生懸命に遊ぶ担任の姿があった。それを見て、さらに強く感じていた。
 
そして同時に思ったのだ。
「こんなめんどうなことが大事だと気付いちゃったら、協力したくなっちゃうじゃないか……」と。
 
自主的役員が、強制的なPTA役員ではないことがわかってしまって、うれしいようなかなしいような。でも心のどこかで「次はなにをやろうか?」とウキウキもしている自分がいる。

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2018-05-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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