殺される前に、褒めたなら
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記事:コバヤシミズキ(チーム天狼院)
“褒める”って、最強の必殺技だな、と。
目の前の人が、私のことをべた褒めするのを横目に考えた。
褒められれば、くすぐったい。
持ち上げられれば、ドキドキする。
私のこの心境は、きっと間違いじゃ無いはず。
そう思っていたのに。
「なんでそんな不安そうな顔してんの」
褒められれば、周りの視線が刺さるようで。
持ち上げられれば、突き落とされそうで。
「褒め殺しなんてよく出来た言葉、誰が作ったんだ」
褒められるたび、私は殺されそうになる。
根本的に、褒められ慣れてないんだと思う。
“褒めて伸ばす”なんて教育法があるらしいけど、思えばあまり縁が無かった。
……音楽に身を捧げた8年間、先生の顔はいつだって厳しい目をしていた。
「もっと重心下げて!」
「口は縦に!」
ガンガン飛んでくる指導に、いつだってビクビクしていたのだ。
例え、自分に向けられたものじゃなくても、必ず聞くようにしていた。
こんなこと、当たり前かもしれないけれど。
「だって、明日は我が身だ」
そんなもんだから、“叱られて伸びる”のが当たり前になっていたのだ。
叱られて、死ぬ気で修正。今度は叱られませんようにと祈る。その繰り返し。
それでも、確実に実力がついていくのだから、皮肉なもんだと思う。
しかし、そんな人間が、急に褒められたらどうなる?
「あ、はい、どうも」
例のごとく、びっくりして言葉が出ないのだ。
どれだけ普段饒舌に喋っていても、褒められた途端ドーモマシーンに成り下がってしまう。
なんかもう、伸びる伸びないどころの話じゃない。
褒められると、どうしたら良いか分からなくなってしまうのだ。
「今、私が答えることの出来る最適解は? どうすれば嫌われない?」
そんなことばかりウロウロ考えて、やっと出てきた答えは、誰も傷つくことのない言葉だった。
「いや、全然。はい、もっと頑張ります」
向上心が見えて大変よろしい! これぞまさしくベストアンサー!
それなのに、いつもなぜか嬉しくない。気持ちよくない。
それどころか、口ばかりの向上心に反比例して、やる気がどんどん沈んでゆく。
「このままじゃ、マズい。マズいぞ」
さすがに良くないと気づいた。このままじゃ何も続かない!
……もちろん何もしなかったわけじゃ無いのだ。
“褒め”の矛先を他の人に向けさせたり、褒められそうになったらスッとその場を抜けたり。
全部、無駄な抵抗だったけど。
そして、結局ここに帰結するのだ。
「もっと頑張りますね!」
向上心を口にするたび、やる気のある自分が死んでいく。
なかなか私は、ファイナルアンサーにたどり着けないでいた。
そもそも、褒め言葉なんて信じられない。
……語弊があった。自分が褒められるのが信じられないのだ。
だって、自分のやってることが本当に正しいのか不安で仕方ない。
「本当にこれでいいのか」
“言われて直す”が当たり前になっていたから、“自主的にやった”ことが信じられない。
そりゃそうだ、今まで私は考えることを放棄していたから。
言われたことが全て正しいと、自分に言い聞かせてきたから。
「何度言わせれば気が済むの!」
……だから、身につかなかったのかも。
“とりあえず、やる”ばかり実行してきたから、いつだってその場しのぎだった。
叱られて、死ぬ気で修正。今度は叱られませんようにと祈る。その繰り返し。
「叱られて伸びる、なんて嘘っぱちだ」
今、上手に歌えと言われたら、私はうまく歌えるだろうか?
きっと、歌より先に口から出るのは、自主的に何度も練習したセリフだろう。
「頑張ってみるよ」
さて、“褒め”に過剰防衛してきた私だが、そろそろ規制の網に引っかかり始めたらしい。
「なんでそんな不安そうな顔してんの」
とうとうバレたか、と素直に思った。
別に悪いことなんて一つもしていないのに、なぜか罪悪感。
「いや、別に。こんなん出来る人、世の中にたくさんいるでしょ」
……そうだ。そうなのだ。私は特別じゃ無い。
褒められる権利なんてありゃしないのだ。
目の前の彼女は、まだ他の大勢を知らない。私よりすごい人なんていくらでも居る。
私なんか、褒めるに足りない存在なのだ。
「無理。だって、あたし、あなたのことしか知らないもん」
「は?」
何言ってるんだ、こいつは。
そんな私の怪訝な顔を見て、満足げに彼女は笑った。
「あたしの中で一番すごいのは、あなたなの。だから、それを否定されたらすごく悲しい」
……驚いた。驚いて声も出なかった。
つまり、私が今までベストアンサーだと、誰も傷つけないと思っていたのは間違いだったのか。
知らないうちに、私は彼女を傷つけていたのか。
「褒められるたび殺されてたのは、私じゃなかった」
恐ろしいことに気づいてしまった。でも、不思議と悪くない。
ちょっと軽くなった心と一緒に、どうやら口も軽くなったようで。
「すごいね、名言じゃん」
ぽろっと口をついて出た褒め言葉に、彼女は照れたように笑った。
「ありがとう。嬉しくて死んじゃいそう」
私がやっと、必殺技に成功した瞬間だった。
「出たよ! 急に褒めるやつ!」
タイミングってもんがあるでしょ、と友達がツッコんでくる。
「目についたから。鮮度大事でしょ」
だって、先に褒めなきゃもったいない。
せっかく覚えた必殺技を、使いたくてたまらないのだ。
「褒められると、死んじゃう」
だったら、先に褒めれば良い。
厚い皮膚より早い足! どうせなら、褒め殺しの達人でも目指そうか。
だから、そのためにも。
「殺される前に、褒めたなら」
先手必勝と行きたいよね!
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