「人に迷惑をかけるな」は正しい?
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記事:みづき
「こら、人の迷惑になるでしょう」
「人様の迷惑にだけはならないように」
小さい頃からよく母に言われてきた言葉たち。
小学校低学年の時、犬が飼いたいとペットショップの前で泣いて騒いだ私に母は鬼の形相で周りの迷惑を考えなさいと叱ったし、大学進学で家を出て、二人部屋の寮で暮らすことになった時には「寮母さんや、一緒に住む子の迷惑にならないように」と念を押した。
この記事を読んでいるあなたも一度は言われたことがある言葉だろう。
「人に迷惑をかけるな」
これは親からだけではなく、世間からも教わっていくことだ。
有名人が不倫騒動で「皆さまにご迷惑をおかけして誠に申し訳なく思っております」と何度も頭を下げている光景。
電車の中で泣き出す赤ん坊に対する周りの迷惑そうな雰囲気に、お母さんが肩身を狭くする様子。
「人に迷惑をかけないように」
これは幼い頃から私に常識として刻み付けられ、私の頭の中に居座り続けてきた。
大学二年生の春、私は休学をしてあるベンチャー企業にインターンすることに決めた。
その企業は廃寺を再興して、現代のお寺の役割を広げようという理念を持ち、その施策の一部としてある廃寺を改装して宿泊施設にしていた。
私がその企業にインターンを申し込んだ理由は二つある。一つはお寺の再興にもともと興味があったから。もう一つは設立して間もない体制も完璧に整ってない、事業の成立の初期段階に関われると思ったからだ。
そして、私はその宿泊施設となっているお寺に住み込みでインターンをすることになった。
実際にお仕事が始まった。
私が期待したように、職場の体制もまだ整いかけ。予約管理に清掃に、日々の業務でみんな忙しい。決まってないこともたくさんある。
清掃とチェックインなど基本的なことを覚えたあとの一か月はとにかく日々の業務をこなすのに精一杯だった。
二か月目に入ると、自分で裁量を持って、何かをやり遂げたくてここにインターンに来たのに、このままアルバイトとも変わらない業務だけで終わってしまってもいいのかという気持ちが強くなってきた。
でもみんなそれぞれに忙しく、黙っていては、誰も私に責任のある仕事をあてがってはくれない。自分でやりたいことを探して、声をあげないとこのままインターンが終わってしまう。
でも、
こんなにみんな余裕がなくて忙しい時に、たかがインターンで短期間しかいない私が成功するとも分からない企画を提案なんかしたらどうなるだろう。
みんなをまきこんで、ただ迷惑をかけるだけなのではないか。
そう思うと、何もいいだせなかった。
「人に迷惑をかける」恐怖と、このままで終わっていいのかという気持ちが心の中を交互に占領した。
そうやって悶々とする日々が続いた。
そんな時、あるインド人の家族が泊まりに来た。(そのお寺は外国人観光客が多く訪れる地域にあり、毎日様々な国の人が泊まっていくため、これは別に珍しいことではない。)
小さい子を連れており、大きな声をあげることがあったので私がやんわり注意したらお父さんはきちんと謝って子供が騒ぐのをやめさせてくれたが、同時にこんなことも言った。
インドでは、
「他人に迷惑をかけないなんて、あるわけがないのだから、他人の迷惑に寛容であるべきだ」
と考えるのだと。
目から鱗の発想だった。
日本では人に迷惑をかけないことが当たり前とされるから、人からの迷惑に寛容じゃない。
でも、インドでは人に迷惑をかけることが当たり前とされるから、人の迷惑に寛容なのだ。
なるほど、逆にしても筋は通っている。
私は彼のこの言葉を聞いて、迷惑をかけてもいいから自分の企画を上げてみようと覚悟した。
私は自分の企画をもう一度見つめなおしてみた。
覚悟を決めたあとで、見ると私の企画書はとても薄っぺらな内容だった。
あれ?
そこで気づいた。
私は他人に迷惑をかけるのが嫌だという建前に逃げて、自分の企画を詰めていく努力を怠っていたのだと。
私は企画を練り直した。何度も。
そして、チームのみんなに、自分の企画を伝え、説得することができた。
「他人に迷惑をかけないように」
幼い頃から私の心に居座り続けたこの思い。
私はこの思いにとらわれると同時に、それを自分の努力の怠りを隠すのにも使っていた。
あのインドのお父さんが私の思考の枷を外してくれた。そして、私は私の「逃げ」に気づき、立ち向かうことができたのだ。
私は今、彼にとてもお礼が言いたい。ありがとう。
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