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プロポーズを失敗した、おしどり夫婦のはなし


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:川崎亮(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
「いいお嫁さんもろうたなぁ」
深夜2時頃まで続いた話し合いを経て、僕の口から出た言葉だ。
結婚する覚悟が決まらない僕にしびれを切らし、言葉を尽くして結婚するメリットを語る彼女。3年先に自分が何をしているかもイメージできていないのに、とても結婚なんて無理だ。
漠然とした不安を訴える僕に、ひとつひとつ不安の種を解きほぐして、一緒にその解決策を考えてくれる。
 
 
気づけば僕は、もうこの人を手放してはダメだという実感とともに、プロポーズのつもりでその言葉を呟いた。
「まだお嫁さんじゃないでしょ」
泣きじゃくりながらも冷静にツッコミみを入れると、彼女はふて寝してしまった。
こうして僕のプロポーズはうやむやに終わってしまう結果となった。
 
幼少期から、引っ込み思案な性格だった。
何をするにも自分から積極的に前に出て主張するということがなく、いつも周りの様子を見ながら自分の行動を決める、そんな風に生きてきた。
「君はどうしたいの?」
上司に仕事の相談をする際によくそう聞かれる。心の中では「知らんがな、意思なんかあるかい」と思いつつ、上司の様子を伺いながら無難な答えを探す。
「この仕事はやりたい」とはっきり思ったとしても、うまく意思表示ができず結局あまり気の進まない方の仕事をやるといったこともしばしばだ。
 
そんな自分を変えたい、とは実はあまり思っていない。
どちらかというと、求められる意思決定の責任の大きさや頻度が少なくて済むように、かつ自分がこだわりたい部分には納得のいくまでこだわれる、そんな場に身を置く方法を考えている。職人的な働き方を模索していると言っても良いかもしれない。
 
そうは言ってもさすがにプロポーズはもう少しちゃんとするべきだったんじゃないかなー、と少し前まで思っていた。
「どんな風にプロポーズしたの?」
 
結婚が決まってから、お互いの友人と遊んだりすると決まって同じ質問をされた。微塵の悪気もなく、そう聞かれて気まずくなる新婚カップルがいるとは夢にも思わないような口調で。
僕の周りでも、給料3か月分の婚約指輪を渡してプロポーズをしたという友人もいる。共通の友人を集めたクリスマスパーティでのサプライズプロポーズを手伝ったこともある。彼女の上司は、なんとヘリを手配して上空でプロポーズをした後、100本のバラの花束をプレゼントしたという。
それぞれにドラマがあり、みんなそれを聞きたがっていた。そりゃそうだ。僕だって色んな友達に同じ質問をしている。
 
 
けれど僕たちはというと、そんなドラマチックなエピソードもなく、歯切れ悪くごまかすしかない。その度に彼女に対して申し訳ない思いをしたし、友人と別れて2人きりになった後もなかなか機嫌が治らないということもあった。
 
「女の子にとってプロポーズがどれだけ大切か、わかってなさすぎでしょ」
友人に相談すると、そんな風に言われた。
「小さい頃から色んなアニメとかドラマとか観て、ものすごい妄想を膨らましてるんだから。一生に一度のプロポーズがそんな情けない感じだったら、お前一生嫌味を言われ続けるぞ」
面白半分の脅迫じみた予言を聞きながら、確かにそうかもしれないなと、改めて自分がしでかしたことの重大さを感じていた。
僕と離婚でもしない限り、彼女の人生に2度とプロポーズというイベントは訪れないのだ。
その日がどのようなものだったか、この先何度も思い返す日は来るだろうし、いくつになってもまた誰かに同じ質問をされるに違いない。
すべて僕の考えの浅さと不用意なつぶやきで台無しにしてしまった。
 
でも。結婚して1年半が経って思う。
僕が犯した失敗は、むしろ今の夫婦生活を豊かにしたんじゃないか? と。
 
その日を特別な1日にしてあげられなかった、という後悔は、彼女に対する接し方を改めて考える契機になった。
それからというもの、彼女を女の子として喜ばせてあげられる機会はないか、いつも探している。
結婚式も、最大限彼女の思いに応えられるよう、かなり一生懸命に取り組んだ。
誕生日やクリスマスに限らず、何か欲しそうなものがあればプレゼントしている。大した金額じゃない、少しの我慢で実現してあげられるものだ。
毎日の生活も、僕より早く帰ってくる彼女がほとんどの家事を片付けてしまうなか、何か未着手のものはないかと目を光らせ、またせめて土日だけでも楽をさせてあげようという意識で家事を行なっている。
 
結果、彼女は今日もご機嫌である。
夫としての不満を口に出したこともほとんどないし、彼女がご機嫌だと僕も楽しい。
誰もが羨むような素敵なプロポーズをしてしまっていたら、彼女を女の子として喜ばせることに満足してしまっていたかもしれない。
あぁ、グズグズのプロポーズになってよかったと、そしてもちろん、それを契機に心を入れ替えることができてよかったと思っている。

 
 
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2018-05-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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