自分の言葉で書きたいときは
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:草戸 コウ(ライティング・ゼミ平日コース)
まだ肌寒い季節のこと。こたつに入って最高に面白いビジネス書を読み終わった僕は自分が嫌になった。
読み終わったというのにその“最高”な感じを表現しようと思うと、
「すごかった!」「おもしろかった!」「やばかった!」
どうにもそういう表現ばかりを繰り返してしまう。
ライティングゼミで2000字のコンテンツを生み出すことを目指しているわけなのだが、数える程しかないいわゆる“良い素材”であれば、うまく表現ができなくとも、起きた事実を並べ立てていれば、自分なりに納得する2000字ができあがっていた。良い素材だ、と自分で思っていたものはWeb天狼院書店に掲載してもらえた。逆にそうでないもので書いてみると、まったくもって辛口の評価を食らわされる。素材に頼らねばならない自分をどうにかせねば! と思うが、日々の出来事の切れ端、自分が読ませたいと思う話題、を思い浮かべては言葉を貼り付けていくのだが、どれもどこかで聞いたことのある感じがして、うんざりするのだ。
この煮え切らない感覚がいつも付きまとい、課題の投稿も滞りはじめていた。
……滞り始めていたのだけれど、つい先日ちょっとしたきっかけで、小さなコツを見つけたのだ。
5月の大型連休に3泊4日で北海道へ出かけたときのことである。美瑛(びえい)という、十勝連峰と夕張山の間に位置する大自然に囲まれた小さな町のロッジで1泊し、僕は夜明けと同時に起きて外を散歩することにした。するとそこに広がっていた光景が、僕の煮え切らない状態を一気に冷ましてくれたのだ。
なんのことはない、僕はその光景をみたその瞬間、それを表現する言葉が一切思い浮かばなかったのだ。いやむしろ、思い浮かばないと思い込んでいた、というほうが正確かもしれない。
そのときの僕は必死だった。
「こんなすごい景色を表現できなきゃコンテンツなんて書けないじゃないか! ああ! また僕は“すごい”しか出てこないのかよ!」
表現しなきゃ、表現しなきゃ! と思うたびに“すごい”という言葉に頭の中が埋め尽くされそうになってしまったので、とにかく自分は何を感じているのか落ち着いて考えることにした。今思えばこれがよかったのかもしれない。
ええっと、自分はどこから“すごい”と感じたんだっけか……
そうやって思い返していくと、いろんな言葉が頭のなかにあふれてきた。
泊まっていたロッジの入り口から外に出たそのとき、いつもと何かが違うのだ。人工の音が全くしないのである。車のエンジン音、タイヤがアルファルトを嘗める音、換気扇の音、自動ドアの開閉音、工事現場の機械音、雑踏の音、そんなものが何もないのだ。大阪の街中で暮らす僕にとってそれをなんと表現していいのかわからないのだが、とにかく静かなのだ。“静かだ”と感じているにも関わらず無音ではない。名前も知らない数々の野鳥の声がするのだ。それぞれが特徴的な鳴き声で数種類の鳥たちが共にこの美瑛の森の中で生きている。そのことが僕の耳から直接伝わってくるのだ。それだけではない、小刻みに木の幹を打つ音が聞こえてくる。そちらへ足を運んでいくと、クチバシをしきりに打ちつける小さな鳥がいた。
「あっ!」と思わずあげた僕の声にその鳥は逃げてしまった。人生で初めてキツツキを見つけて我を忘れてしまっていた。
森に目をこらしていたところから陽の光が照らすほうへ目をやると、僕はまたなんと表現してよいか分からない光景に遭遇した。まだ頂から麓にかけて雪を残した十勝連峰が目の前に広がっていたのだ。もうすごすぎるよ! でかい! 白い! なんでこんな綺麗なんだ!
ああ、よし。もういっかい落ち着こう……。
そんなふうに目に入ってきたものを感じたままの言葉で描いていくと、書き記した自分がその光景をありありと思い出せることに気がついた。
自分の体験を言葉に置き換えていく作業をしていると、自分の言葉で表現する、ということが理解できたような気がしたのだ。これまで自分が見たもの、耳にしたものを描いているつもりでいたのだが、そうではなかった。美瑛の森林や十勝連峰に出会って、自分の表現とは、自分が何を感じたか、つまり、自分の中身を描いているのだと思うようになった。
もちろん、これは、読書よりも外に出かけることが大事だということが言いたいのではない。本を読んだ時、そのときに感じた自分の中身を描き出すことで、きっと自分の表現が生まれてくる、と思うのだ。買い物をしているときに見つけたもの、友人から掛けられた言葉、誰かを好きになったとき。その出来事を描くには、自分が感じていることをじっくり見つめることが大切なのだと思う。
もう一度、最高に面白かったビジネス書を開いてみようと思った。今度はそれを面白いと感じた自分と向き合うようにしたい。言葉はいつも自分のなかにあるのだから。
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