メディアグランプリ

裸夫なポーズに日が暮れて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:木戸 古音(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「木戸さん、ちょっとお話し、してきたら」
個展会場の画廊の女主人が僕をうながす。
何んと会場に隠れるようにそっと展示していたはずの「裸夫なポーズ」に
若いネクタイ族の青年たちが4人群がっていた。僕は意表をつかれた。
 
 
さて、その絵のことを先に話しておきたい。
その絵は23歳の知人が全裸でさり気なく突っ立て居る姿だ。
僕の知り合いの歌人が自身の連れ合いを
「どうぞモデルに」
と協力してくれている。
連れ合いと言っても男同士の同姓愛。
ちょうど前日に当のモデル君が職場の同僚と名乗る若い女性と、モデル君の連れ合いの50代の男性と計3人で個展に来てくれたばかりだった。
モデル君はもっと秘密裏に来るのかと僕は思っていた。
モデル君は自身が描かれた作品に真っ先に近づいた。
その振る舞いには、まるで他の個展の大作の群には関心なしといったありさま。
自身の作品の下半身を職場の彼女に指差している。
その自慢げの様子に、描いた僕の方が度肝を抜かれた。
その時点で僕は居直った。
彼等の輪に加わる。
モデル君は心の病のため他人の意思疎通に悩んでいた。
そんなこともあって彼の連れ合いが僕にモデルとして紹介してくれたのだが。
ぼくはモデル君にあらたまって尋ねた。
「どうや、モデルおもしろいか」
「はい、画家と一対一。話をしなくてもコミュニケーションが取れるから、
モデルしてるときは自然のままの自分で居られるから」
僕はふととなりの同僚の女の子が気になった。
話題に対する抵抗も無さそうで、いやに納得げにやり取りを
聞いている。
「モデルは楽しい」
「しぜんな自分を取り戻せるよな」
モデル君と僕の真剣で実にたわいない会話を聞き入っているようだ。
 
「ちょっとこれを渡すわ」
と僕は芳名帳の横に置いている名刺大の黄色のカードを彼女に差し出した。
「モデル君と2人組みポーズでモデルやってみないか」
僕としては7割は本気で、3割はあわよくばの心境で、でも真剣に話しかけた。
「やーだ、出来ないわよ」
残念ながら予期した答えが返ってきた。
ところがその後に、意外な発言があった。
「画家さんとわたしのふたりっきりなら、やってもいいですが」
 
僕は「これを読んでおいて」
と先に渡した黄色カードをさらにうながす。
カードにはざっと以下のことが印刷してある。
「作者からのお願い
美術モデル募集します
中高年の男女、国籍不問。
秘密厳守。僕の携帯の留守録音に連絡先を入れてください。
追って連絡いたします」
 
彼女は中高年ではないが、その場でぼくの留守電に連絡し始めたので
僕はあわてて制して、
「いまは当事者が眼の前にいるのだから直接話そうよ」
 
 
4人の若いネクタイ族が見入っていたのは
その絵だった。
今回大型の作品が数点あり、小さな会場のため、所狭しと並びかねなかった。
ものが所狭しと山盛り陳列される「八百屋の店先」状態を避けたかった。
なんとしてもスマートに整然と作品を並べたかった。
小品がことごとく犠牲者になってラインナップからはずされた。
「犠牲者」は小作品群となった。
 
僕はここぞとばかり見入るかれら4人に近づき語り始まる。
「最近アトリエに来てもらっている知り合いの23歳の男性ですね」
さらに
「男性とか女性とかに限らず、モデルとして見つめられると元気になちゃうんですよ」
僕はたたずんでいる男性モデルの下半身あたりに話をもっていった。
すこし調子にのっていたかもしれない。
彼らが帰った後画廊の女将さんがポツリと言った。
「木戸さんね、今の4人若いけどみんな裁判官なのよ」
「なんだそれをさきにいってくれなかったのか」
と思わずぼくはのけぞった。
この画廊は大阪の地方裁判所西に隣接している。
いわゆる法曹街という言い方があるのか無いのか。
ちなみに画廊の斜め前の建物はかつてオウム真理教の顧問弁護士として有名になった京大での某弁護士の事務所のあったところ。
画廊に出入りする客筋は弁護士、裁判所職員、裁判官、各種書士、建築事務所、はては原告被告もまじっているかも。近くにはアメリカ領事館もあって平時でも警備の警官でものものしいかぎり。
女性弁護士も頻繁に出入りするがいわれるまでは僕にはただの長屋のおばちゃん、女弁護士さんとも思えない。そんな土地柄である。
「ちょっとした失敗やな」
下手したら扇情的なその絵ゆえに
「略式起訴になるとこやったな」と女将に言うと
慣れたものとばかり、女将は「ニヤリ」と動じない。

***

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2018-05-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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