メディアグランプリ

父から教わった、「変人」という処世術


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大国沙織(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私の父は、変人である。
ということに気付いたのは、いつだっただろうか。
とにかくうっかりしていて、調子がよくて、人好きで、酔っ払ってるんじゃないか、と思うぐらい底抜けに陽気な父である。
 
よく物をなくすので、財布や携帯、家や車の鍵などなど、
なくしたら困るもの全てをチェーンで腰のベルトに巻き付けている。
そのせいで歩くだけでジャラジャラとすごい音がするし、
ズボン本体は、何㎏もする重り(普通はトレーニング用に使うあれ)でも付けているのかというぐらい、冗談のようにずっしりと重い。
それをそのままではずり落ちてしまうので、サスペンダーで吊っている。
もはや見慣れてしまったが、その格好はさながらピエロのようだ。
母などは「みっともなくて一緒に歩きたくない」なんてこぼしているが、
本人は「こうしておくと、なくしたり落としたりしないからいいんだよ〜!」と、どこ吹く風である。
 
そして、とんでもなく忘れっぽい。
感激屋ですぐ感動するが、すごいスピードで忘れる。
私がいろいろ考えてあげたプレゼントを、一年も経たないうちに
「なんかいいものがでてきたから、沙織にあげるよ!」
と言って嬉しそうな顔で私に手渡してくる。
しかもこれ、一度や二度ではない。
昔はそれなりに腹も立ったものだが、もはや笑えてくる。
今や父へのプレゼント選びの基準が「自分も欲しいもの」なのは、ここだけの秘密である。
 
知り合いが多く、地元で父と出かけると、高確率で「こんにちは〜」と声をかけられている。
しかし、その相手が誰だか思い出せることは珍しいようだ。
いつも後になって「あれは誰だっけなぁ……」とつぶやいている。
「久しぶりに会った人?」と聞くと、
「いや、週に1、2回は会ってるなぁ」なんて言うものだから、
そんな頻繁に会う相手のことを、どうやったら忘れられるのかと甚だ不思議である。
察しのいい人などは、父の怪訝そうな表情に気づき、
「あ、どこどこでお世話になっている○○です」
と自分から名乗って教えてくれたりする。
そんなこんなで、本人はあまり困っていないようだ。
 
一応内科医なのに、いつもニコニコヘラヘラしているのであまりそんな風には見えない。
一緒に働く研修医か誰かに「先生はヤブ医者ですか?」なんて聞かれてしまい、
咄嗟に「なんでわかったの? 隠してたのになぁ〜」と返したらしい。
情けなく思ってもおかしくない場面だと思うのだが、
私たち家族にそのエピソードを面白おかしく語ったあと、
「いや〜我ながらあの返しはよかった! そう思うだろ?」なんて喜々としていた。
 
そして実は、いま通っている、天狼院書店のライティングゼミ。
こんなすごそうな講座があるから行こうかな〜と私がその案内を見せたところ、
「え、なになに面白そう、俺も行く!」
と言い始め、ろくに要項も読まずに参加申し込みをしていた。
父娘で同じ講座に通うというのは人からすると珍しいらしく、
「え、親子なんですか! 一緒に参加なんて仲がいいですね〜」
なんて、ほかの参加者の方にはよく驚かれる。
 
父はなぜか、謎に私をライバル視している。
私の書いた文章が褒められていたりすると、
「悔しい……! 俺もいい記事が書けるように頑張るぞ!」と、本当に悔しそうな顔をしている。
父にそう言われると、私も負けてられないと、やる気も湧いてくるものだ。
毎週の課題提出の記事は、「これまでの人生のとっておきネタ」が自然と多くなる。
若いころの珍エピソードなど、これまで娘の私が知らなかったような一面を知れたりするので、
父の記事を読むのは、毎週の小さな楽しみでもある。
講座に通うごとに、お互い書くことの面白さに目覚めていった。
帰りの高速バスの中では、「どんなこともネタになると思うと、世界の見え方が変わるよね!」なんて話したりしている。
「書くことの喜び」を共有できる相手が身近にいるのも、なかなかいいものだ。
 
困ったことに、私は父とよく似ているらしい。
しかも、見た目ではなく中身がである。
私としては、ちょっと不本意でもあるが、他人からもよく指摘されるので、もう認めざるをえない。
 
振り返ってみると、私も結構うっかりしている。
先日も、ブラウスを裏返しに着たまま外出してしまい、人に指摘されるまで数時間気付かなかった。
普通に気を付けているつもりだが、この類いのミスは割とやってしまいがちである。
(ほら、裏地とかが付いてない限り、服の表と裏ってそっくりじゃないですか。着心地もそんなに変わらないし……)
 
それだけではない。
父に負けず劣らず、私も人の顔や名前を覚えるのが苦手である。
何度も繰り返し会わないと、なかなか記憶が定着しないのだ。
会社で働いていたころなど、あろうことかお世話になっている取引先相手に
「どこかでお会いしましたっけ?」と言ってしまい、上司に怒られたりした。
以来、「相手が誰だか分からなくても、ポーカーフェイスをキープする技」は身に付けたけれど、
いっそ父のように、わからないことを顔に出してしまった方が逆にスムーズかも、と思ったりしている。
 
加えて、時間を守るのも苦手だ。
小学校から遅刻魔だったが、直さないとなぁと思いつつ、社会人になってもあまり改善されていない。
どうしても間に合わないとまずいときは、待ち合わせの場所に何時間も前に着くようにしているが、
それを父に言ったところ、「それ、俺と全く同じだよ……。そんなところまで似てしまったのか……」と、流石の父も申し訳なさそうにしていた。
 
私はいつの間にか、自分のダメなところも笑いに変えてしまうサービス精神を身に付けていたけれど、
それはほかでもない父から、自然と学んだ処世術かもしれない。
私と父の共通点はたぶん、うっかりしていてどうしようもない自分でも、どうにかなると信じきっていることだ。
そして実際、どうにかなってしまっている。
もう認めてしまおう、父が変人なら、娘も変人になるのは自然なことだ。
もしかしたら生きていく上で一番大切かもしれない、
「変人でもこの世をうまいこと渡っていく方法」を教えてくれた父に、こっそり感謝したいなと思う。
やっぱり少し不本意だけれど!

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2018-05-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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