プロフェッショナル・ゼミ

「狂」について考えた先に見えた、作り続ける意味《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:小倉 秀子(プロフェッショナル・ゼミ)
 
 
「やっぱり、場違いだったかも……」
 
プロフェッショナル・ゼミの初回授業。私は早くもそんな弱気な気持ちになっていた。
 
「チャンスをみすみす逃すなんてもったいない。どうせ諦めるなら全力を尽くしてダメだったという状態で諦めたい」
 
プロフェッショナル・ゼミの受験を決意した心境をこのように語り、決意表明を記事にまでして意気込んでいたのに。
 
めでたく試験をパスして迎えた、晴れの初日。
渾身の文章を書く方達との新たなステージに、心ときめかせて池袋まで足を運んだはずなのに。
 
プロゼミ初回は「狂」についての講義だった。
参加者が順番に、自らの「狂」について話す機会が与えられた。
 
私は最初から二番目に話す順番だった。
人前で話すと緊張してしまうので、一番目の人が話している最中からそわそわしていた。
それに、私の「狂」が思い当たらない。
 
私の「狂」って何だ?
狂おしいほど考えていることって、何かあるかしら?
今思えば、あの趣味もこの趣味も中途半端だな。これじゃ「狂」として紹介できない。
えーと、えーと……。
 
とっさに思いついたのが、そう、あの、先週書いたばかりの、プロゼミ受験の決意表明の記事。それから、ライティング・ゼミ初回に書いた、「私は想いを形にするのが好きだ」という内容の記事。この2つだった。
 
初回に書いた記事は、文章を書いてこなかった私には2000字書くことがとてつもなく苦しくて、書き上げたときはもうヘトヘトになっていた。でも苦しんだ甲斐あってその記事は掲載された。
 
プロゼミ受験の決意表明の記事では、ハードルは高いけど全力で臨むというような事を書きあげた。この記事は初めて編集部セレクトに選出していただいた。
 
私は障壁を乗り越えようとしているときに、「狂」に入っているのかもしれない。
 
話す順番が来たとき、その通りに話していた。
緊張していたので、話したのはそれだけになってしまった。
あとは、名前を名乗ったことと、三浦さんが話してくださったことに相づちを打っていたことくらいしか覚えていない。
 
そのあとの方々は、それはもう面白く、熱のこもった「狂」を披露してくださった。
話足りないと言わんばかりに、止めるまで楽しそうに思いの丈を述べていた。
 
楽しそうに話す人の話は、やっぱり面白い。
これが文章になったって、やっぱり面白いはずだ。
「狂」を持っていることが、強みなんだな。
 
目の前で繰り広げられている盛り上がりを見て、「狂」の効能を十分理解した。
それと同時に、楽しく語れる「狂」を持っていない私がこの場にきてしまったのは、やっぱり場違いだったかも知れない、と少し疎外感も感じてしまった。
「狂」を持っていないのに、この厳しいプロゼミで3ヶ月間やっていけるのか。
 
 
初回授業が終わって帰宅する電車の中で、はたまた日が変わって日々のふとしたときに、
私にとっての「狂」って何だ?
 
という問いがぐるぐると頭の中を回り続けた。
ぼんやりと考えていても何も思いつかなかったので、ある日の梅雨空の中、とあるカフェのオープンテラスで外界を遮断し、ノートに自らの「狂」について思うことを綴っていった。
 
 
初回授業では、みなさん熱のこもった「狂」を披露してくださった。
でも私には、そのような「狂」がないのではないか?
 
なぜなら、私は飽きっぽいから。
どれも広く浅くたしなむ程度だから。
目の前の楽しそうなことに流されがちだから。
 
趣味はある。
趣味は「狂」なのだろうか?
私は趣味についていくらでも楽しそうに語れるだろうか?
楽しそうに語れるかどうかはわからないが、趣味を仕事にできるまでにはなりたいと願い、実際にそうしてきた。
趣味を続けるのにはお金がかかり、仕事にしないと続けられないからだ。
 
 
私の趣味の一つは、アクセサリーを自らデザインして製作すること。
アクセサリーが好きな母の影響からだ。私も20歳を越えた頃から母のアクセサリーを拝借して身につけるようになっていた。
社会人になって、自分でアクセサリーを購入するようになったけれど、アクセサリーはとても高い。その割には、完全に全てが気にいるアクセサリーにはなかなか出会えず、デザインのどこか一部が私の求めるものと違っていた。
 
そんなとき、本屋という意外な場所で、アクセサリーとの素敵な、運命的な出逢いがあった。
 
何気なく通りかかった趣味の本が置かれているコーナーで、ある一冊の本が目に留まった。
色とりどり、様々なかたち……何種類もの天然石が惜しみなく使われた、ゴージャスなネックレス。今までに見たこともないようなデザインのそのネックレスに釘付けになった。
すぐさまその本を手に取り、食い入るように全てのページを立ち読みした。(いや、写真だったから、立ち見だ)
ネックレス、ブレスレット、イヤリング……どのページのアクセサリーも、今まで見たことがなかった。これまで私が身につけていたアクセサリーは、デパートで目にしていたものは何だったの?と言うくらい、異次元のものだった。
さらに驚いたことには、これらが全て自分で作れるということだった。レシピが載っているではないか!
もっと驚いたことには、この著者の先生のお店が、私の家から電車で1時間もかからないところにあるということだった!!
もう何も迷うことはなかった。その書籍を購入していちもくさんに家へ帰り、すぐにお店に電話してワークショップを申し込んだ。ここから、私のアクセサリー作りが始まった。
基礎クラス、応用クラス、クリエイティブクラス……なんだか今の天狼院書店での私みたいだが、この時もそんな風にステップアップしていって、1年かけて全ての技術を学んだ。
このときはとにかく、好きな石で好きなデザインのアクセサリーが作れるという、夢にまで見たことを実現できる嬉しさ、実現できる術を学べる嬉しさで、毎日充実し過ぎているほどだった。材料費はもちろんのこと、受講費もバカにならなかったけれど、それを支払う価値が十分にあった。会社員時代に貯めた貯金を惜しげも無く……と言い切りたいところだけど、私には結構な出費だったので底をつかないか少しは心配しながら、技術を習得することに費やしていった。
 
一通りのことを学び終えたところで、
 
「これで自分でなんでも作れる。作り続けるためには、趣味のままではお金が続かないし、上手くもならない。よし、プロデビューしよう!」
 
こう思い立ってから、アクセサリーでお金をいただけるようになるまでにはそう時間がかからなかった。
学んだことを手に覚えさせ、実際にデザインして試行錯誤した期間が大体1年間、その後、さらにネットで商品を売るにはどうしたら良いか、サイトを作って立ち上げるにはどうしたら良いかを書籍で学び、作品を作り、サイトを作り、トータルで2年間くらいで、本当に自分の作品を発表して売るサイトをオープンした。
 
誰にも相談せず、一人黙々と水面下で進めていきなりお披露目したので、当時の反応は予想以上だった。親しい友人からも、久しぶりに会う人からも、
 
「Facebookの告知見たよ。ビックリしたよー! あのアクセサリー、全部ヒデコが作ったの?」
「ヒデコって、アクセサリー作れるの? 手先起用だったっけ?」
「いつの間に、あんなサイト作ってたの? ていうか、デザイナーになったの?」
 
関心を持ってもらえていた。
と同時に、サイトでお披露目していた、アクセサリーの何点かも、大切にしてくれる人の元へお嫁に行ってくれた。
 
それからというもの、できるだけ時間を費やし、夜を徹して新作を作り、それを紹介するページを作ってお披露目し、関心を持ってくださった方を自宅にお招きして実物を試着していただき、気に入ってくださった方にお譲りしていった。
 
最初は勢いもあって予想以上の反響があったものの、次第にその勢いはなだらかなものになり、平常になっていった。つまり、勢いに頼らず、作品自身の持つ力と、それを人々に伝える力で勝負しなければ奇跡で売れることはないフェーズになっていった。
 
決して儲かりたかったわけではない。私が石を選び、デザインし、制作した作品を世に送りたい、多くの人に見て欲しい、そして認めて欲しかった。私だけが作れるものを、オンリーワンを目指したかった。なので、作品を買っていただくようになってからは、いくつも同じものを量産するのではなく、お客様のご要望を一から聞き、デザインや使いたい天然石やパーツなどを一緒に決め、最終的に仕上がるまで納得いくまで試作していき完成させる、オーダーメイド作品をお作りするスタイルとなっていった。
 
そのスタイルで作品を仕上げていくことは、決して容易ではなかったが、私を選んでくれたお客様と一緒にひとつのものを作り上げていく時間は、本当に楽しくいつもワクワクしていた。
最終的に完成して、お客様にお渡しするとき、身につけていただいたとき、それをなんども目にするとき、私も心から満たされた。これが作れてよかった、喜んでいただけてよかったと。
 
こんなに嬉しいことだったのに……なのにだ。
情熱はいつしか薄れていってしまった。
最初の熱狂の時がすぎて、平常の時期も努力を続け、その努力も実って作品はお嫁に行ってくれていたのに……。
努力が継続しなかった。
困難を乗り越えてまでやろうという気になれなくなってしまった。
あんなにワクワクしていたのに、どうして……?
自分でも以前からの変わり様に困惑したが、作品を作る手が止まってしまったという事実は変わらなかった。
そうこうしているうちに、子供たちの受験が連続であり、作品作りに心を砕く余裕もなくなってきてしまったため、子供の受験が終わるまではと、思い切って2年間の休業を決意した。
2年後に晴れて子供たちも手が離れ、今よりずっと余裕ができ時間も割けるようになったら、また再開できる。デザインも考えられるし、手だって動くだろう、そう思っていた。
 
その2年後は、もうとっくに来ている。今春に二人の受験は終わった。自分のために使える時間ははるかに増えた。なのに、いっこうに手が動かない。
そんな戸惑いを覚えているときに、Facebookの天狼院書店の宣伝が目に留まり、今こうして記事を書いている次第だ。完全に目の前の楽しそうなことに流されてしまっている……。
 
どうしてあれほどワクワクして出来ていたことが、こんな風に全く手付かずになってしまったのだろう……。
 
私なりに考えて、でた答えはこうだ。
きっと、想いを作品に込めたはいいが、その想いを、自分だけで完結してしまっていたから。
 
オーダーメイドで一緒に作り上げた時、または私のデザインを気に入って買ってくださった時、確かに喜んでくださっていた。それがどれだけありがたいことか、思い込めて届けたはずの私自身がよくわかっていなかった。
または、「友達だから買ってくれたのかもしれない」などという、そもそも信じていない、大変失礼極まりない見方を私が勝手にしているから、だから作ることを自分勝手に中断していられるのではないか。
 
お客様がどんな気持ちになって作品を自分の元に呼んでくださったのか、作品に気持ちが動かされたその事実を、作り手である私自身がしっかりと受け止め切れていなかったのではないか。
ひとりでも本心で素敵と思ってくれる人がいたら、その事実をちゃんと私が受け止めることができたなら、その気持ちに応えたいと思って作りつづけるものではないだろうか。
 
 
そんなに信じられないなら、そんなに自信がないのなら、
「この作品だったら、必ず認めてもらえる」
と思えるくらいに突き抜けろ!!
この作品であなたとコミュニケーションを取りたいんです、くらいのメッセージを込めるのだ。
 
 
そう、今だって、記事を書けば
 
「リーダビリティが弱いですね」
「書くことはサービスです」
 
と叱咤激励され、
 
「面白かったです!一気に読みました」
「今週の編集部セレクトに選出しますね」
 
と褒められる。
 
読んでくださる方が、川代さんが、木村さんが返事をしてくれるから、あれほど避けて通って来た文章を必死に書いているではないか。
これを書いたら、初めて三浦さんが目を通してくれる。恥ずかしいものは書けないし、貴重な時間を無駄にしたくない、私という人間を知ってほしいという一心で、生まれて初めての5000字の記事を書き上げようとしているではないか。
 
そもそも書き始めたのが深夜だけれど、気づけばもう背後が明るい。
何時間もかかったけれど、休憩もせず一気にここまで書き上げた。
やっぱり高い壁を乗り越えるのが好きだ。
 
 
プロゼミでは、Facebookで目標を宣言するのが恒例らしい。
私は、「修了証取得」を宣言した。
それは、天狼院書店が手がける「Reading Life」の公認ライターになること、つまり、「文章を書くプロになること」を意味する。
 
 
乗り越えられない壁はないと信じて、
「本当に認めてもらえているだろうか」と疑心暗鬼にならなくていいくらいに突き抜けた、メッセージを込めたストーリーを作れるクリエイターになりたい。
 
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