プロフェッショナル・ゼミ

「量産型女子」になりたくないから、刈り上げてみた。《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:よめぞう(プロフェッショナル・ゼミ)

「女子力」という言葉が、世の中に出てからどのくらいが経っただろう。

美容院できちんと手入れされた、ツヤツヤの髪。
指の先までぬかりない、綺麗なデザインのネイル。
流行を抑えつつ、異性にもウケが良いファッション。

福岡の繁華街、天神を歩けばそこら中に「女子力の高い美女」がウジャウジャいる。思わず「モデルさんですか?」と尋ねたくなるような美女が、福岡では一般人として生活していることも少なくない。そんな「美女県フクオカ」に生まれて30年ずっと住み着いている私は、たまに自分自身が嫌で嫌で仕方がなくなるときがあった。

だって、勝てんもん。どうやっても勝てんもん。

自分の周りの「美人」な友人や、街中を行く「美人」を見るたびに「ああ、私はこの人たちと同じ高みには行けない」ということを思い知らされてきた。自分で言うのもなんだけど、私自身とてつもなく「ブサイク」というわけじゃない。ただ、目には見えない「女性カースト」の階級があるとするならば、私と「美人な友人」とでは、所属する階級が違うように感じた。それに気づいたのは中学生になった頃だった。同じ制服を着ているにも関わらず、私と「美人枠」の友人たちは何かが違う。そう、感じるようになった。私が中学生の頃といえば、ルーズソックスが流行っていた時代だ。だから、イケイケな子達はごく自然にセーラー服にルーズソックスを着こなしていた。いいなあ、私も履いてみたいな……。ルーズソックス、私も履いたら「イケイケ系」の子たちと、もっと仲良くなれるかな? ひょっとしたら、私にも「彼氏」なんてできるかな? 妄想がどんどん膨らんでいくにつれて、ルーズソックスを履いてみたい欲もどんどん大きくなっていった。そして私は両親に頼み込んで、ルーズソックスを買ってもらった。目の前に憧れのルーズソックスがある。あの「イケイケ系」や「美人枠」の友人たちと、これでようやく肩を並べることができる。そう考えただけでも、嬉しくて笑いが止まらなかった。ただ、学校でいきなりルーズソックスを履くには勇気が必要だった。私は吹奏楽部だったが、女子の「スクールカースト」では同じ部活動とはいえど、やはり「体育会系」の部活動が階級は上だった。底辺に近い私が、上階にいる人たちと同じことをするのは決して簡単なことではなかった。体裁もあるし、やはり「もし、何か言われたらどうしよう……」という不安があった。それなので、せっかく買ってもらったルーズソックスをなかなか履けずにいた。悶々としながらひと月ほど経った頃、ようやく私は「ルーズソックスを履こう!」
と決意した。さすがにダブダブ感がある、長めのルーズソックスを履けるほどメンタルは強くなかったので、あまり目立ちにくい短い長さのルーズソックスを履くことにした。
私の足元に、白い、たわみのある布がついた。ただ、いつもと違う靴下を履いただけなのに、不思議と力が湧いてきた。私、これイケるんじゃね? と自信がついた。いつもみている平凡な景色が、この日だけは違って見えた。登下校の風景、教室の雰囲気、モノクロに写っていたものが、私の目には鮮やかに写った。そうか、イケてるあの子らはこんな風に自信をつけていたんだ。靴下を変えるだけで、まるでセーラームーンになったみたいに「イケてる」人になれる、私はそう信じていた。
だけど、それはもろくも一瞬で崩れ去ってしまった。
幸せな気持ちで、下校している時だった。

「ねえ、あれルーズソックス履いてない?」

「え、ウソ? ほんとやん」

私の背後でこんな声が聞こえた。
声の主はすぐにわかった。彼女たちはルーズソックスを自然に履きこなす「イケイケ系」の子だった。彼女たちの声を聞いて、背筋が凍った。本能的に、これは後ろを向いてはいけないと悟った。あくまでも気づいてないフリをしながら、私はスタスタと歩くスピードを速めた。

「てか、全然似合ってないけど」

キャハハ、と笑う声が何本もの矢になって、私の心臓を撃ち抜いた。
平常心を保つことが出来なくなって、私は大急ぎで走り始めた。ほんの少しでも「自分、イケるんじゃね?」なんて思った自分が恥ずかしくなった。ルーズソックスを履くだけで、私もスクールカーストの上位にいけると思った。「美人枠」や「イケイケ系」になれると本気で思った。そしたら、私なんかでもモテるんじゃないかな? なんて期待もしてた。それは、大きな勘違いだった。みんながみんな、同じことをして輝くというわけではなかった。たまたま、イケイケだった彼女たちにルーズソックスが似合っていただけだった。校則通りの格好で、足下だけルーズソックスはバランスがとても悪かった。靴下を変えただけでは何も変わらない。「人と全く同じことをしても、個性として輝けない」と言うことを、私は思春期真っ只中に思い知らされてしまったのだった。
それから15年程経った今、当時の苦い教訓を胸に秘めたまま、私は良い歳した大人になった。あいもかわらず「一般美女ピープル」が颯爽と天神地下街を歩いている。けれども、この頃街中を歩く女性たちの姿にどうも違和感を感じる。系統の違いはあるけれど、どこをどう見ても「同じ顔」の女性が多いのだ。もちろん、まじまじと顔をみれば他人だし、異なる顔の作りをしている。けれども、似たような髪型、似たような化粧の人がとにかく多い。特に、近年は「オルチャンメイク」と呼ばれる、真っ白な肌に太眉で目元はアイラインで強調していて、さらに口元は真っ赤なグラデーションのリップをつけた顔が「量産」されている。
「量産」されすぎたせいか、中にはどう見ても「バブリー」を通り越して、もはや「オバQ」じゃないかと言いたくなるような人もいる。私はそんな彼女たちを見るたびに、どうしても不憫でならない。誰か、天神の中心で「それ、似合ってないですよ!」と叫んではくれないだろうかと切に願っている。誰か、彼女たちの身近な人はぜひ、全力で「そのメイクやめたほうがいいよ」と止めてあげていただけないだろうか。15年近くの歳月で、女の子のオシャレの仕方は多様になったと思う。それなのに、大多数は雑誌などのメディアに感化されて「イマドキの量産型」になろうとしている。「女性の晩婚化」の原因に「草食系男子」と言うワードが上がることがある。しかし、男子が「草食化」する原因を作っているのは、実は私たち「女子」の方かもしれない。どこを見ても「同じような女」しかいないんだったら、別に誰だって良いのだ。「これを逃したら、こんな女はいない!」と、思わず「追いかけたくなる女子」が少なくなっているのは間違いないだろう。
もし「私ね、彼氏欲しいんだけどさー」なんて思っている人がいるならば、身近な友達に「私の格好ってどうかな?」と、ぜひ尋ねて欲しい。尋ねるのが恥ずかしいなら、一度全身をしっかり鏡で見て欲しい。

「私のこれ、本当に似合ってる?」

流行りの格好=私もイケてる! とは限らないのだ。ルーズソックスが全く似合わなかった私のように、やはり「似合う、似合わない」というのは誰にでもある。私のことを知っている人は、私が「CanCam」に載っているような、ゆるふわの巻き髪や、膝丈のフレアスカートなんて履いてたら間違いなく爆笑する。私には「可愛い女子」というジャンルは当てはまらない。だから、私は髪を刈り上げることにした。襟足はバリカンで綺麗に刈りそろえられ、サイドの毛も量感を減らすために刈っている。いわゆる「ツーブロック女子」なのだが、不思議とこちらの方が評判が良い。あんまりにも短いので「髪切った?」じゃなくて「髪刈った?」と言われるようになった。「可愛いね」というよりは「カッコ良いね」と言われるのは、一応女性なので複雑ではある。けれど「似合わない」と言われるよりはずっと嬉しい。多少回り道したけれど、自分にとって「本当に似合うのは何か」が分かってからは、オシャレが楽しくなってきた。だから、いっそゆるふわな「量産型女子」になるくらいなら、思い切って髪を刈り上げるのも面白いと思う。

ただ、どうも異性ウケは良くないらしい……オシャレとは難しいもんだ。

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