イヤホンを選ぶような気軽さで「フリーランス」になるという選択《プロフェッショナル・ゼミ》
*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:中村 英里(プロフェッショナル・ゼミ)
「どうして、フリーランスになったんですか?」
この質問をされると、いつもどう答えようかと、少し戸惑ってしまう。
なぜなら、きっかけは体調不良だったから。
去年の4月に、私は転職をした。
そして、今年の4月に、その会社を辞めた。
転職先は、プログラミングスクールの広報の仕事だった。
今後の仕事について悩んでいるときに、相談しようと知人のもとをたずねたところ「ウチで働かない?」と誘われたのだ。
当時、そのスクールはまだできて一年くらいだった。
学校を複数運営している会社に勤める知人が、社内ベンチャーのようなかたちで立ち上げた学校で、社員4人で仕事をまわしている状況だった。
めちゃくちゃ忙しいんだろうな、というのは容易に想像できた。
それまでも何度か転職を経験していたが、いつも数千人規模の大手ばかりを選んで働いてきた。
大手=安心・ブランド、なんて意識があったから。
でも、昔から「個人で仕事をしていきたい」という気持ちはあって、そこまでの道のりとして、少人数のスタートアップ系の会社でがっつり仕事をする経験を積みたい、という気持ちもあった。
「ウチで働かない?」と言われた段階で、即返事はしなかったが、もう心の中では転職しようと決めていた。
そして、怒涛の日々が始まった。
まずは仕事を覚えましょう、という慣らし期間なんてものは存在しなかった。
入社翌日にはすでに会食が入っていたし、仕事に使うツールの使い方を教えてもらえる、ということもない。
社員は、私も含めて5人。みんな自分の仕事に手一杯だった。
さらに言うと、「広報」という役割の人はもともといなかったので、前任からの引き継ぎもない。
プレスリリースを出すとか、最低限のことだけをやってきた中で、もっと社外広報に力を入れたいということで人を探していたところに、渡りに船状態で私がやってきた、というわけだ。
だから、すでにある膨大な仕事をこなすことに加えて、さらに新しい仕事をつくりだすことも求められた。
あの時は、起きている時間は全部仕事のことを考えていたし、平日も休日もなく、本当にずっと働いていた。
入社してから体調を崩すまでの7ヶ月間、丸一日休む日は数えるほどしかなかったと思う。
そしてだんだん、体に異常が起きてきた。
夜眠れないくらいの頭痛が度々おこる。
胃痛でごはんが食べられない。
常に頭がぼーっとしている状態で、たまに思考停止状態になったりもする。
そのときは、疲れが溜まっているのかな、くらいだったが、あとから振り返ると、全部ストレスからくる体調不良だった。
友達が同じような状態だったら「すぐ休んだ方がいい!」と言うと思うが、自分のことだと、意外とわからないのだ。
よく「朝起きても身体が動かなくなっていて、それで休職した」なんて話を聞くが、自分は普通に動けるからまだ大丈夫だと思っていた。
そして、身体からのSOSを無視し続けていた。
だが、体調不良が続くようになり、ある日打ち合わせ中に、相手がしゃべっている声はしっかり聞き取れるのに、内容が理解できないという状態になった。
そして「このままだと本格的に体調を崩してしまう」と思い、翌日から一ヶ月ほど、会社を休んだ。
その後、別の部署に異動して復職したが、色々と考えた結果、フリーランスになろうと思い、現在に至る。
さて、こう書くと「忙しさで体調を崩した」と思われるかと思うが、厳密に言うと、体調を崩した根本的な原因は、忙しさ、つまり「働く時間が長かったこと」ではない。
その証拠に、休職後に異動した先の部署では、毎日定時で帰宅できていたが、体調不良は治らなかった。
最初に答えを言ってしまうと「やりたいことと、現実の仕事に差があることに気づいてしまったことによるストレス」だ。
自分の中には、仕事にしたいような「やりたいこと」なんてないと思っていた。
だから、仕事の中にやりたいことを探して、やりがいを見出そうとしていた。
でも、本当は見て見ぬふりをしていただけで、「やりたいこと」はあったのだ。
そこから目をそらし続けていたのが、根本的な原因だった。
そのやりたいこととは、「文章を書くこと」。
さかのぼれば、小学校の作文のころから、文章を書くことは好きだった。
大人になってから始めたブログも5年ほど書いているし、知人に頼まれてイベントレポートを書いたりだとか、仕事ではないが細々と書くことを続けてきた。
しかし、書く仕事一本で生計を立てられるのなんて、才能のある限られた人だけなんじゃないか? という気持ちがどこかにあったので、チャレンジすることもなく諦めて、その気持ちをないものとしてきた。
見ないふりを続けると、本当に見えなくなるもので、「今の仕事はやりたいことじゃない気がする。でも、何がやりたいのかわからない」という、なんだかわからないけどストレスが溜まっている、という状態になるのだ。
そのストレスは、休職した会社で働くもっと前の段階からあった。
じゃあなぜそれまでは体調を崩さなかったのかというと、おそらく転職先での仕事の忙しさにより体力的にも余裕がなくなったことで、ずっと抱えていたストレスに拍車がかかって、本格的に体調を崩してしまったのではないかと、考えている。
会社を辞めて、3ヶ月ほどになる。
会社員をやっていたときは、「今後フリーランスとして仕事をしていく際に、休職したのがばれたらマイナスの印象になるのでは」なんて気にしていた。
だが実際フリーランスになり、まわりの同年代のフリーランスを見渡してみると、「体調を崩したことが原因でフリーになりました」という人が、かなり多いことに気づいた。
しかもその多くは、「ストレス」が原因と思われる体調不良だった。
そしてそんな人たちも、休職した過去を公言しながらも、普通にバリバリ仕事をしているのだ。
なーんだ、けっこう同じような人がいるんだ、と妙に安心をすると同時に、ふと考える。
体調不良がきっかけでフリーランスになった人がこれだけいるってことは、いま会社員の人も、違和感を抱えながら、無理して仕事を続けている人はけっこういるんじゃないの?
そんな風に思っていた矢先に、「どうして、フリーランスになったんですか?」という質問をされて、いろいろと考え込んでしまった。
この質問は、メディア関連のセミナーに行ったときに、知り合いの年下のライターさんにされた質問。
23歳のフリーライターの女の子で、ライター歴は2年ほど。
会社員は経験したことがないそう。
そこには、もうひとり知り合いのライターさんがいた。
その子は19歳で、先ほどの子と同じく、最初からフリーランスでライターをやっているようだった。
ちょうど先日、国内外の働き方に関する研究をしている人に取材をした時に、「いまは10代で起業をするような子もいて、東京だとそれが珍しいことでもない。会社員という選択肢をそもそも考えていない子も多い」ということをおっしゃっていた。
昭和生まれのアラサーの私からしたらちょっとした衝撃だったのだが、実際に19歳・23歳で「最初からフリーランスです」という子達を目の当たりにして、あぁ本当なんだ、と思った。
私と同世代以上の多くの方にとっては、フリーランスって、なんとなく「リスクが高い」イメージがないだろうか?
でも10代〜20代前半の子達にとっては、フリーランスも会社員と同じ、働く選択肢のひとつに過ぎない。
それに私自身、実際になってみると、「なんであんなに不安がっていたんだろう」という感じだ。
自分で仕事を取って、1日のスケジュールを決めて、好きな場所で働く、というのが合っていたのだろう。
まだ数ヶ月なので、収入は安定しないが、そのことを差し引いても、めちゃくちゃ快適なことには変わりはない。
もっと早くフリーになっとけばよかったな、とすら思う。
あれ、でも待って。
この感覚、何かに似ている……?
何だろう、と考えてようやく思い出した。
そう、AirPodsを使い始めたときの感覚だ。
AirPodsを知らない方のために説明すると、街中や電車の中で、耳からうどんみたいな白いものを垂らしている人を、最近よく見かけないだろうか?
そのうどんは、Apple社の、ワイヤレスイヤホンである。
出始めた当初は、Apple製品のファンとか、ガジェット好きな人とか、一部の人がつけていただけだったので、街中で見かけると「あ、AirPodsだ」と目に留まる感じがあった。
しかし今は、中学生くらいの男の子や、若いOL風の女性、サラリーマンなど、多くの人が付けているのを目にするようになった。
街中で見かけても、もう気にはならない。
私も持っているのだが、つけてみるまでは、「ぽろっと落ちてなくしたりしそう」と少し不安はあった。
実際につけてみると、意外としっかりはまる。
激しいヘッドバンギングでもしない限りは、落ちることはなさそうだった。
マイク付きなのでフリーハンドで電話もできるし、料理しながらPodcastを聞くこともできるし、音楽を聴きながら踊ったりもできる。
めちゃくちゃ快適なのである。
なくしそう、と不安がって買うのをためらってないで、もっと早く買えばよかったと思っている。
今のフリーランスは、少し前のAirPodsのような存在だ。
会社員という存在はなくならないだろう。
AirPodsが珍しくなくなった今も、有線のイヤホンを使う人のほうが多いのと同じように。
でも、フリーランスが今後増えていって、珍しいものではなくなることは、おそらく間違いない。
今はまだ数が少ないから、珍しがられるし、その道を選ぶのもためらってしまう人は多いだろう。
でもAirPods と同じように、選ぶときにためらうこともなく、「そういえば、最近増えたよね」くらいの扱いになる日も、そう遠くはないんじゃないだろうか。
私がフリーランスになったのは、ある種、逃げでもある。
やってみたら違った、これやりたいことじゃなかった、つらい、じゃあ逃げてしまおう。そんな気持ちがあった。
ちゃんと自分のやりたいことを見極めた上で、仕事を選ぶことをしていれば、急に休職して職場に迷惑をかけることもなかった。
この点は完全に自分に責任がある。
でも私は、つらかったら逃げるのもアリだと思っている。
仕事を選んだのは自分なんだから、最後まできちんとやらないと。
そう思ってストレスを無視して働き続けていたら、それこそ体が動かなくて外にも出られないような、いわゆるうつ状態になってしまっていたかもしれない。
同じようにストレスを抱えながらも、行動を起こせない人たちにも、選択肢のひとつとして「フリーランス」がもっと広まったらいいなと思っている。
会社員を辞めて失うものは、思っているほど多くはない。
多くの人が選んでいるものが、自分にとっての正解とは限らない。
イヤホンが絡まるのがいやだなぁと思ったら、ワイヤレスのAirPodsに変えればいい。
そのくらいの軽やかさで、働き方も自由に選べるようになったらいいなと思っている。
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