プロフェッショナル・ゼミ

マニキュアから絆創膏へ《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:なつき(プロフェッショナル・ゼミ)
 
マニキュアは爪が呼吸してくれなくなるから苦手。最近ジェルネイルは呼吸できるようになったらしいけど、特に塗る必要もないし、試したことはない。爪は切ったら、やすりをかけて切り口を滑らかにしておしまい。そんな私だったが、爪に目を向ける時が訪れた。爪を気遣うことが必要になった。
 
今まで気にしたことがなかった部分なので何があるかもわからない。取り敢えずネットで検索してみる。「爪 補強」と打ち込んでみた。そう、私は爪を補強する必要性が生じていた。きっかけは抗がん剤。抗がん剤は種類によって影響する部分や効能が異なるが、私が使用した薬は、がん細胞に限らず、すべての細胞を攻撃するタイプのものだった。全てを攻撃する、正直話を聞いただけではいまいちわかり辛い。担当医が副作用という名の代表的な症状をつらつらと上げてくれたけど、現実感がない。全員に当てはまるものじゃないし、違うかもしれないと半分どこ吹く風で聞いていた。
 
最初に髪が抜けてきた。数本抜けてくるなんて生ぬるいものじゃない。手で触れた髪が全てごっそり抜ける。抜ける直前は頭皮に引っ張られるような激痛が走ったが、抜ける時は全く痛みもないから不思議だ。撫でると抜けるを繰り返す。髪の量は多い方だったので3日位経ってもあまり見栄えは変わらず大したことないと思っていた。ところがしっかり頭皮が見え始めると、私も典型的な副作用該当者だったんだなと自覚する。
 
次に味覚がおかしくなる。いつも食べている味付けが何だか物足りない。ただ、同時に、口内炎も併発していたので、それのせいで感覚が鈍っているのかな、くらいにしか思っていなかった。たまに食べる、いつもは味付けが濃いと思っているお弁当の濃さがちょうどいい。甘じょっぱさが心地良い。薄味だと味を感じることができない。何だか味のない砂を噛んでいるようなジャリジャリした変な感じ……。そう言えば副作用の説明にそんな表現がされていたな。どうやらこれも典型パターンらしい。見事に当てはまってしまった。
 
さて次に何が来るよ、鈍感な私もさすがに身構え始めた。全身に針を刺す様な痛みとか常に熱があるとか、そんなのは慣れて気にならなくなっていた。私の場合、薬は3週間に一回の点滴。途中で薬が変わった。今度は更に強い薬。この薬は末端まで届くと、手の先や足の先まで影響を及ぼす。つまりは爪へも大ダメージが起きるというのだ。爪のダメージ、想像がつかないが、とにかく点滴中は末端まで薬が浸透しないようにアイスノンでがっちり冷却することになった。
 
保冷されたキャッチャーミットの様な手袋、足はタオルで包んだ保冷剤をしっかり巻きつける。これで1時間。究極に冷たい。「少しなら手を出しても大丈夫よ」と看護士さんから事前に話があったが、爪へのダメージが不安で必死に堪える。この状態ではスマートフォンも操作できなければ、本も読めない。何もできず、冷たいのと闘う時間はとても長く感じる。15分もすると冷たすぎて指の感覚が無くなってくる。仕方なく少しだけ手を手袋から出してまたすぐに戻す。手が温まるまで待つことはできない。血行が良くなれば、今点滴されている強い薬も一緒に血液と末端まで運ばれてしまう怖さがあるから。
 
回を追うごとに、これだけ頑張っていたにも関わらず、この強い薬に手の爪が悲鳴を上げ始めた。爪の厚みが減ってきて、爪に白い筋の様な横線が幾重にも入り始めた。と同時に、ちょっとしたことですぐに亀裂が入り欠ける。爪をできるだけ短くし、やすりもかけ滑らかにしても、洋服の脱ぎ着するだけでも服の繊維に引っ掛かり爪に亀裂が入り爪がささくれの様にギザギザする。綿素材でも引っかかるので表面の滑らかなポリエステル生地の洋服が増えたくらいだ。夜も寝ている間が怖いので手袋をして寝た。
 
困ったのは仕事中。点滴は通院でできるので仕事は続けていた。手袋をしていては効率が落ちる。とはいえ素手で事務作業を行うと、いつ爪が割れるか、割れるだけならまだしもはがれるのではないか、という心配と闘いながらでは疲れるし仕事にならない。そこで今まであまり興味のなかったマニキュアを調べてみたのだった。
 
補強コート、トップコート、ベースコート。検索したもののレビューを読んでも、かなり緊急性を帯びたものに効いた! というものに出会えない。それなら自分で試そうと薬局をのぞく。数種類あったが、アスリートも使っているとか、乾きが早くて割れにくくなるとかの表示がされているもの3本を買ってみた。1日つけてみて確認したが、わかったのは私の現状に即した物ではなかった。わかったのは、ある程度健常な爪の時なら予防としてとても優秀だということだった。残念ながら、点滴薬でもろくなった爪には適さなかったが、爪が健常になったら、亀裂の予防として使えることがわかったのは3本試しての収穫だった。
 
でも今ではない。そんな時、夫が薬局で液体絆創膏を見つけて買ってきた。初めて聞いたネーミングだった。色んな絆創膏が売っているが今は液体タイプもあるのか。箱に入っていて商品自体は見えないが、すぐ乾き水に強いと表示されていた。水に強いのはありがたい。箱を開けてみる。細い筒状の蓋付きの入れ物が出てきた。蓋を回して開けると刷毛が現れたとともに接着剤の様な匂いがした。仕組みはマニキュアと同じだ。蓋の裏側に刷毛がついており、手を汚さずに液体を塗る事が出来る。蓋を閉めると刷毛も一緒に液体に浸かる仕組みだ。刷毛で一塗りしてみると、透明の液体でたいして目立たない。そして乾くのも早い。塗る量にもよるが、1分~5分位で乾いた。
 
既に魔の手は、手の爪だけでなく、足の爪にも及んでいた。筋が幾重にも入り、医師からも「このままだと半年もすればはがれるね」とさらりと言われていた。そんな身も蓋もないことをあっさりと。色々副作用を経験したがこれが一番恐怖だった。この乾きの早さと、補強のために外でも薄地で心もとないストッキングでなく、靴下を履くようにしていたが、靴下の内側でも更に安心感が増すのは嬉しかった。
 
手と足の亀裂やささくれの様な部分に塗って1日使ってみた。うたい文句通り、確かに水に強かった。補強力が抜群だった。そして、乾きが早いのでちょっとはげても塗り直しが簡単で隙間時間で使えるのもいい。数日使ってみたが、手の爪はちょっとした時間や仕事中の塗り直しでも支障が無いし、足の爪は1日持つのでお風呂上りに塗るのが恒例になった。
 
また別の情報が薬局に行った時に入ってきた。爪の成長を根元から促進させダメージを補修する商品が発売されたと言う。少し高めの商品だった。今までの私なら無駄遣いと思って躊躇するが、前にマニキュア3本買ってみたことで、結果的にその時は使わなかったとしても次の機会に役立てることに気づいたので買ってみることにした。箱を開けるとこれもマニキュアの仕組みと同じで刷毛が液体に浸かっているタイプだった。効果が出るまでは、個人差はあるが一か月と説明書きにあった。一か月はとても長く緊急性には向かないと思ったが、既に液体絆創膏という鎧があったためか使い続けることができた。数か月使い続けているがまだ白い筋は入ったまま。効果があったのかはわからないが、極端に薄くなっていたいた爪が厚みを帯びて色も元気を取り戻したようには感じ取れる。これだけでも効果はあったのだと思える。気休めだろうがなんだろうが、安心感が得られるのはこんなにも精神的に強くしてくれるのかと思った。
 
今まで興味のなかったマニキュアだったが、この商品が開発されたおかげで手を汚さずに液体薬を塗る事ができる商品に繋がった。そして、足の爪がはがれるよ宣言をされてから半年以上経ったが、はがれることなく健在である。ただ白い筋は前よりも増して、爪の端もささくれの状況は続いているので、継続して使い続け、爪を大事に守っていきたいと思う。
 
自分が興味がなかったものでも、いつどこで自分が必要となる商品に繋がるきっかけになるかわからないと感じた。この商品が今開発されたからこそ、強い薬によって当たり前にはがれていた爪が、はがれるのを食い止められるようになった。興味が無いから、全部使えるかわからないからで躊躇するのではなく、使ってみてその時の自分に合っているか判断したいと思った。使ったことで結果的にその時は使わないと思ったものでも、将来何かあった時の判断材料が増えるから。
 
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