ありがとうは魔法の言葉《プロフェッショナル・ゼミ》
*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事: 大國義弘(プロフェッショナル・ゼミ)
長いこと医者として、病気は医師が患者を導き、治療を目指すものと思ってきました。
治療の主役は、薬や手術。
それが医療の原型であり、ほとんど全てと思っていたところ、あるとき、一人の男性と一人の女性から、「ありがとうございます」と唱えるだけで病気がよくなると聞きました。
何と寝ぼけたことを言う人達なのか。
そう思ったこの二人のうちの女性は患者で、男性は医師、それも私みたいなサラリーマン医者ではなくバリバリの経営者で病院長、ということは、私みたく幻想、妄想、錯覚、勘違いで生きている夢みる夢男くんではなく、現実を冷静に見据えて生きているはずの人でした。
しかも、二人とも論理や理屈ではなく、体験に基づいて語ってくれたのです。
二人とも私に夢物語、嘘八百をならべる理由は見当たらず、話には、現実しか語っていないと思えるような自然さ、臨場感、具体性がありました。
きっと二人が言うのは本当だ。
そう思えると、引き寄せの法則、類は友を呼ぶ、の原則が働くせいか、似たような情報が次々とはいるようになり、ありがとうございます、という言葉の力について、多くの人が書いたり、語ったりしているのを知りました。
そして遂には、私自身も体験出来るようになりました。
そのうちの一人、痰に血が混じる、血痰が出るということで外来においでになった40代の営業マンEさんを紹介します。
Eさんは、血痰が二年も続いている、それが最近ひどくなった、とのことで私の外来は彼にとって三カ所目でした。
Eさんは、九日前に禁煙を始めたばかりの直近までの喫煙者。
喫煙者の痰に血が混じる、となると、医者が、もしかしたら患者さんも、一番気にするのは肺癌です。
しかし問診やレントゲン写真やコンピューター断層撮影(CT)などでは、肺癌や血痰を来すことが特徴の気管支拡張症や結核は無さそうでした。
他に血痰を呈するような病気の徴候も無く、精神的なストレスによる気管支炎を疑いました。
Eさんは、仕事をバリバリこなすタイプの、昔の言葉で言えばモーレツ社員の典型のようでした。
そこでもし血痰がストレスのせいなら、そのストレスは会社のせいかと思ってお尋ねしたら、案の定、怒鳴る上司がいる、とのことでした。
入社当初、仕事に慣れない初めの頃は、直属の上司が防波堤になってくれました。
けれど、仕事に慣れて間もない頃、守ってくれていた上司が他部署に異動。
怒鳴る上司からの圧力を、もろに受けることになったと言います。
それでも一年ないし二年くらいは堪えられたようで、血痰は週に一回程度だったのが、ストレスが増してきたらしく、血痰が毎日となって来院されたのでした。
連日の血痰は、上司に対するガマンが限界を超えたためと思われました。
そこでEさんにお願いしました。
「血痰はストレスによる気管支炎のせいかも知れません。よくなるため、その怒鳴る上司に向かって、心の中で、ありがとう、という言葉をひたすら言い続けて下さい。相手に面と向かって言わなくていいですし、感謝の気持ちも持たなくていいです。口先だけでいいですから、毎日、何百回、何千回、南無阿弥陀仏とか、南無妙法蓮華経などのお題目を、浄土宗や日蓮宗の信者の皆さんが、朝から晩まで、ひたすら唱えるように、暇さえあれば、ひたすら唱えて下さい」
Eさんは分かったと言って帰宅なさいました。
しかし三日後に来てもらい様子を聞いたところ、相変わらず、血痰が続いているというので、念のため、気管支鏡の検査を受けて頂くことにしました。
呼吸器内科の医者の間では、喫煙+血痰=気管支鏡という公式があります。
気管支鏡とは、胃に対する胃カメラのように肺の中を覗くカメラのこと。
我が国は胃癌が多い国ゆえ、検診では胃カメラは定番ですが、気管支鏡は検診に採り入れられてはいません。
胃癌が、胃カメラのように比較的容易に、かつ高頻度で見つかるのに比べて、気管支鏡を仮に喫煙者に限ってやっても肺癌が胃癌ほど見つかるわけではないからです。
しかし喫煙者で、しかも血痰が出た、となると話は別で、気管支鏡で肺癌が見つかる可能性は高くなります。
それが喫煙者+血痰=気管支鏡の公式の意味で、喫煙者が血痰を訴えたなら、気管支鏡を検討せよ、というわけです。
痰に血が混じった時、最も多い理由は気管支炎です。
レントゲン写真やCTで癌が見つからないと、それなら血痰は気管支炎のせいか、と思いがちですが、肺癌はこれらの検査では小さすぎて見えないのかも知れません。
そこで念のためEさんに気管支鏡をやって頂きましたが、幸い肺癌はありませんでした。
結核も調べ、こちらも証拠は見つかりませんでした。
そこで再度、お願いしました。
「検査の結果、癌も結核もありませんでした。血痰は肺からではなく、肺まで空気が通過する気管支の炎症による血管からの出血のせいでしょう。炎症が起きると血管は拡張します。怒りのせいで、拡張した血管がぶち切れて血痰が出たのかどうかは分かりませんが、よくなるためには怒りを収める必要があるかも知れません。でも怒りは抑えようとすればするほど増えるそうです。なので、怒ったままで全く構いません。口先だけでいいですから、繰り返し、心の中で、ありがとうございます、と上司の方に言って下さい。誰もいないところなら、声に出して言って下さい。回数が大事です」
了解してくれたEさんは、気管支鏡検査の最中に、腫瘍とかポリープとか医者達が言う声が聞こえたそうです。
そのため自分は癌なのかと勘違いされ、ヤケになってタバコを再開したのだとか。
しかし検査の結果、癌はなかったと知り、癌でないなら禁煙しようと思い直し、Eさんは禁煙を再開されました。
2回続けて、同じお願いをした甲斐があり、「ありがとう」を熱心に言うようにされたせいか、Eさんの血痰の量は2-3週間で当初の1-2割に減り、頻度も、それまでは毎日だったのが、週に一回程度に、つまり以前に戻りました。
その後は、血痰も出なくなり順調かなと思っていたところ、一ヶ月後、一番ひどいときの九割程度、すなわち血痰の最盛期とほぼ同程度の血痰が出現しました。
怒鳴る上司が退職し、血痰は出なくなったと安心していた矢先のことでした。
Eさんによれば、血痰が出なくなって安心し、安心が油断となって、「ありがとう」を怠ったせいで、また血痰が出たのかも知れないとのことでした。
出たら熱心に言い始めて、そのせいか一旦治まる、しかし治まると安心して言うのを止めてしまい、そうすると、また増えるみたいだというのです。
会社で、忙しくてたまんないな、と思うと血痰が出る、あるいは言うのが減ったり、止めたりすると出るようで、言えばまた減るとのことでした。
もはやEさんは自分で自由自在に血痰を出したり消したり出来るかのようです。
Eさんには、自分と同じく血痰が出る後輩がおられました。
「ありがとう」の血痰抑止効果を実感されたEさんは、血痰が出る後輩に、この「ありがとう」を教えたところ、後輩の方は、素直に実践、一ヶ月以上続いていた血痰が数日で完全に止まったそうです。
しかしこの後輩の方も、止まったと思って、言うのがご無沙汰になると血痰が再び現れる方のようで、血痰が数日で消えた後、また血痰が出始めたのだそうです。
「ありがとう」を言わないと血痰が出るということを、この後輩の方も分かったようで、少しでも怪しいときは、つまりプレッシャーがかかったなと思ったら、予防的に「ありがとう」を言っているのだそうです。
Eさんによると後輩の方は、その結果、血痰は、その後は全く出なくなり、
「予防的に車の中など場所を問わず、やっているようだ、毎日プレッシャーなので、毎日、この後輩はやっているのであろう」とのことでした。
Eさんよりも上手く血痰を押さえ込んだこの後輩の方は、まるで青は藍より出でて藍より青し、を地で行くかのようです。
Eさんも、もはや血痰は自分でコントロール出来ることから、私の外来においでになる必要はないのですが、初心、忘るべからずと思われたのか、定期的においでになっています。
その後、後輩の方の近況をお聞きしたところ、
「ある年の年末に仕事が増えて死んじゃうかも、というくらい彼も大変だったようで、また久しぶりに血痰が出たといって携帯で写真を送ってきました。こんなもん、送らなくていいよと言いました」
とEさんは笑っておられました。
後輩の方は、日頃されていたはずの、「ありがとう」を、この時さらに念入りになさり、血痰は止まったそうです。
Eさんは後輩の指導までなさる方ですから、今更、私が言うまでもないとは思いつつ、ダメ押しで、その後輩の方を見習って「ありがとう」を予防的に常時言ってはどうかとお話ししました。
果たしてEさんは実行され、加えてバットを会社の食堂で振り回したら、出没していた血痰は止まったそうです。
Eさんは、
「今や、「ありがとう」を言えば血痰は治ると知ってから、腹が立ったらすぐに言うようにしていて近頃は出ません。出るとまたすぐ言い、言えばすぐに消えます。腹が立って、やばいと思うと車の中、営業中を問わず、一日千回は言っています。言えば血痰は出なくなると確信してからは、少しでも出たらすぐに言うようにしているし、バットの素振りも効くようで、ありがとうと併用しています。そのうちに「ありがとう」をさぼっても血痰は出なくなりました。しかし出ないと思って油断をしていたら突然出る。出て我が身を振り返ると、そういえばストレスがあったなと思い当たる。一ヶ月言うのをさぼると出るようです。後輩はさぼるとすぐに血痰が出るようだけれども自分は予防的に1日100回言うと大丈夫のようで、バットは不要になりました。その後、血痰は二ヶ月で3-4回に減りました。減った理由は「ありがとう」を増やしたせいかも知れません。今は、血痰が出る前にストレスがかかるなと思ったら予防的に言うようにしています。後輩も予防法をやっているようで、彼も今は、血痰は全く出ないようです。私も今ではストレスがあったと思った時はもちろんのこと、普段も自然と通勤中、営業車の中では声に出して「ありがとう」を何度も繰り返し言い、声に出せない場所では心の中で何度も唱えており、たまに言い忘れた時しか血痰は出ません。初めは「ありがとう」だけで血痰が出なくなるなど怪しいと思っていましたが、今では「ありがとう」の絶大な効果を実感しています。本当にありがたい」と言って下さいました。
もしあなたが血痰で医者にかかり気管支鏡までやって、特に薬は不要です、と言われてもなお症状が続くなら、その原因はストレスかも知れません。
そして、そのストレスの原因は、怒り、悲しみなどの精神的ショックかも知れません。
ありがとうございます、という言葉は、このショックを和らげる効果を持つのかも知れません。
それは、ありがとうございますという言葉を言い続けることで生まれる感謝の気持ちが、その効果を持つのかも知れません。
なぜ、ありがとうございます、と言い続けると、感謝の気持ちが生まれるのか。
存在は意識を決定する、という法則があるからです。
どういうことか。
悲しいときに人は泣くし、楽しい時は笑いますが、逆もまた真なりで、心理学の実験で、泣くと悲しくなり、笑うと楽しくなることが分かっています。
これが存在は意識を決定する典型例です。
泣くという存在で悲しいという気持ち(意識)が生まれ、笑うという存在が、楽しいという意識を生みます。
しかし泣いたり笑ったりするのが短時間では、そうはなりません。
悲しい気持ちに、あるいは楽しい気持ちになるためには、ひたすら泣いたり笑ったりする必要があります。
同様に、感謝の気持ちを持つと、人はありがとうございますと言いますが、逆に、ありがとうございます、と唱えると、感謝の気持ちを持つ理由が頭に浮かび、感謝の気持ちが生まれます。
そして、悲しみ、楽しさと同様、長いこと、ありがとうございます、と言い続けないと、感謝の気持ちが生まれないのです。
回数が大事な理由はこれです。
ただ、感謝の気持ちを持ってほしいのが本音ですが、人を見て法を説け、の教えに従い、これは衣の下の鎧ではありませんが、普通は隠しています。
これを言った途端に多くの患者さんにとってはハードルが高くなり、とても言えません、と断られてしまうからです。
ある80過ぎのご夫人は、頭痛がひどいというので、話を聞くと、どうも夫に対する怒りが原因のようでした。
頭にくるから、(頭痛という)症状が頭にくるようです。
原則に従い、感謝の気持ちは持たなくていいですから、本人には面と向かって言わなくていいですから、と前置きをしたのですが、このおばあさんは、夫にありがとうなどとは心の中であろうとも、口が裂けても言えない、あんな人に、そんなことを言うくらいなら、頭痛が続いた方がマシ、というわけでした。
驚いたことに、その方のご主人は、もう何年も前から療養型病院に入院中だ、というのです。
つまりお二人は、既に長いこと、病院と自宅との別居状態。
それでも怒りは続くのかと勉強になりました。
毎日、怒りの炎に薪をくべておいでだったのでしょうか。
ひろちさや先生が教えてくれました。
怒りは、水をかけて消そうとしてはいけない。
灰神楽が立って、灰が立ち上って、収拾が付かなくなる。
怒りの炎に薪を継ぎ足さず、自然に消えるのを待て、というのです。
ありがとうございます、は、水をかけて消すのとは違い、薪を少しずつ、取り除く効果があるのかも知れません。
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