プロフェッショナル・ゼミ

全ては10歳のときに受けた言葉から始まった《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:島田弘(プロフェッショナル・ゼミ)
 
 
「なぜ自分はこの仕事を選んだんだろう」
 
 
小5、6のときの担任が発した2つの言葉が、これまでの私の人生に大きな影響を及ぼしている。
 
1つ目は「おい、ブー。ちょっとそれ取ってくれ」。
 
小学5年の図工の時間のことだ。
 
鎌倉彫用の彫刻刀を使って、百合の花を彫っている時に篠田先生にそう言われた。
 
私は小児喘息もち。
 
運動は得意ではない。
 
とても太っている。
 
だから確かにブーだ。
 
 
以前の学校ではブッチャーというあだ名が付いていた。
 
小学4年で引っ越してきたのだが、もちろんブッチャーというあだ名がつくのだと思っていた。
 
ところが、その予想が外れた。
 
すでに同じクラスにブッチャーが存在していたのだ。
 
しかも自分よりデカイ。
 
私は、こう呼ばれるようになった。
 
小ブッチャー。
 
年齢が年齢だったからか、ダイエットという選択肢は私の中になく、
確かに太っていたので、そう呼ばれることに納得しているところがあった。
 
 
小5に上がるときに担任が変わった。
 
篠田先生は私のことを小ブッチャーではなく、「こう」と呼んでくれた。
 
学級委員なども任せてくれた。おそらく、信頼をしてくれていたのだろう。
 
身長が2メートル近くあり、声も大きく、厳しい先生であったが、先生のことが大好きだった。
 
 
そんなある日。
 
篠田先生から
 
「おい、ブー。ちょっとそれとってくれ」
 
と言われたのだ。
 
 
それ以前、それ以降、篠田先生が私を「ブー」と呼んだのは、その1回だけである。
おそらく本音というか、思っていたことが口を衝いて出てしまったのだと思う。
きっと篠田先生ご本人が、言ったことを認識していないと思う。
 
 
ショックだった。
 
その瞬間、私の頭の中にはある映像が流れ、ある音楽がなり始めた。
 
 
チャラーラー♫ 
チャラーラー♫
 
 
ロッキーのテーマだ。
 
 
前日たまたま、私はおばあちゃんと映画『ロッキー』をテレビで観ていたのだった。
 
観ようと思っていたわけではない。
 
プロレスなどの格闘技好きだったおばあちゃんが、『ロッキー』を観ていたのを横に座って観ていたというだけだ。
 
 
ロッキーのトレーニングのシーンを思い出し、
 
「自分もやる!」
 
と決意をしたのだった。
 
 
小学校から帰ると、たまたま仕事が休みだった父に
 
「筋トレをしたい」
 
と伝えると、車でアイワールドというホームセンターに連れて行ってくれた。
 
 
そして、3キロの鉄アレイを2つ買ってくれたのだ。
 
人生初の筋トレグッズである。
 
なぜ鉄アレイだったのかは覚えていない。
父にとってはひょっとすると「筋トレ=鉄アレイ」だったのかもしれない。
濃紺カラーでグリップ部分に真っ赤な赤いビニルテープが巻かれていた。
 
その日から、私の1日の時間割の中にある変化が起きた。
 
 
「こうちゃん、あそぼー」
 
と友達が来ると、
 
「筋トレしてからねー」
 
と。
 
 
小学校から帰ると、
家の駐車場で筋トレをしてから遊びに行くという時間割になったのだ。
 
筋肉は嘘をつかない。
 
10歳の私の体は、みるみる変化して行った。
 
筋肉がついて、脂肪が減ってきているのだ。
 
見た目が変わっただけじゃない。
 
できなかった逆上がりができるようになったり、
スターティングブロックを使った短距離走の見本になったり、
ソフトボール投げで学年1位になったり。
 
体を動かすことが苦手、体育の成績はいつも2だった私が
変化し始めたのだ。
 
「こうちゃんは転がった方が速い」と言われるほど、
体育が苦手で、運動が苦手だった自分がこんなに変われるなんて。
 
 
筋トレの習慣は中学に入っても続いた。
 
その結果は、バレーボール部では中1の夏からずっとレギュラー。
 
腕相撲負けなし。
 
体力測定で背筋力全校1位。
 
体育の成績、3年間ずっと5。
 
 
まさか肥満児だった自分が、「おい、ブー」という一言をきっかけに、こんなことになるなんて。
 
 
2つ目の言葉は「こうは教えるのが上手いな」だ。
 
それまで人に教えるのが上手いとか、下手とかなんて考えたこともなかった。
 
あるテストの時間。
 
「全員が合格したら、校庭で遊ぼう」
 
という篠田先生の提案に、みんな大喜び。
 
テストが終わった人が、終わっていない人に教えてあげるということをしている中で、言われた言葉だ。
 
自分で言うのもなんだが、私は褒めらると伸びるタイプなんだと思う。
 
その一言で「自分は教えるのが上手いんだ」と思うようになった。
 
中学の数学の時間にも同じようなことがあった。
 
「こう、お前教えるのが上手いから俺の代わりに授業をやってくれ」と。
 
確かに、同じクラスの仲間からは「こうちゃん、これ教えて」と言われることが多かった。
 
そんなことが何度もあり、
 
「やっぱり自分は教えるのが上手い。教えるのが好き」
 
という考えが強くなっていった。
 
大学生の時にやったアルバイトの中には、
 
予備校のチューター
塾講師
家庭教師
小学生のサマーキャンプのリーダー
 
などがある。
 
 
教えるのが好きだったのか、
それとも教えるのが上手いと言われてその気になっただけなのかは
わからない。
 
ただ事実として、アルバイトを含めると
 
勉強を教えることを12年
筋トレを教えることを18年
ビジネスを教えることを10年
 
経験している。
 
「教える」ことばかりやっている。
 
就職活動を意識するようになると、周囲からは「教師が合ってる」と言われていた。
 
当時はそう言われて教師になるのが嫌で、全く別の道を選んだ。
もしそれで教師になっていたら、「やっぱり教師になったんだ」と
言われるのがなぜか悔しいと感じてしまい、その道を選択肢の中から外していた。
 
選んだのはコンピューターを使って設計をする仕事だ。
 
しかし、3ヶ月しか続かなかった。
 
 
自分の強みはやっぱり「教える」こと。
私は「教える」ことを通じて、社会に貢献しようとしているみたいだ。
 
 
10歳の時に篠田先生に言われたたった2つの言葉によって、
45歳の私の人生は今、とても充実したものになっている。
 
天国にいる篠田先生、ありがとうございます。
 
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