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プロフェッショナル・ゼミ

いい意味でのしつこさがデート成功の秘訣だった《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中村 英里(プロフェッショナル・ゼミ)
 
「『いい意味で』って言えば、何言ってもいいと思ってません?」
 
隣の女性がそう言葉を発したとき、かぶりつこうとしたハンバーガーから目を離し、思わず向かいの男性の顔を見てしまった。
 
打ち合わせで外出をした帰り。
 
帰る前に遅めのランチを取ろうと、ハンバーガーショップに行ったときのことだった。
 
原宿にあるお店で、食べログの点数は高くないが、そこのハンバーガーがめちゃくちゃ美味しい。
 
狭い店だが、わかりにくい場所にあるからか、いつも空いているのでゆっくりできる。
 
奥の席に案内され、席につくと、隣の隣に男女が座っていた。
 
ひと席離れているとはいえ、狭い店なので、耳をそばだてなくても、会話が聞こえてくるくらいの距離感。
 
20代半ばだろうか。女性のほうは敬語だ。
どうやら、付き合っているわけではなさそうな雰囲気……。
 
なんとなく気になって、ハンバーガーがくるまでの間、スマホをいじりながら、その男女の会話をそれとなく聞いていた。
 
「この間、◯◯さんの部署に電話かけたとき、電話出てくれたじゃない?」
「あぁ、私とりましたね」
「めちゃくちゃテンション低かったよね。機嫌悪かったの?」
「いや、違うんですよ(笑)! あのときは……」
 
ほぅ、つまり、二人は会社の同僚ということか。
会話の感じからして、新人っぽくはない。
ということは入社数年は経っているだろうから、20台半ばすぎ、というところか。
 
でも、今日は平日……お休みが土日じゃない仕事?
いや、でも話の感じからして普通の会社っぽいし、まだ敬語で付き合ってもいないこの距離感で、シフト制のお休みを二人で合わせて取る、なんてことは考えにくい……。
 
そこで、今世間はお盆休みなのだ、ということに気づいた。
 
そうか、もしかしたら、お盆で会社ごとお休みなのかもしれない。
 
二人とも実家が東京なのか。
いや、東京じゃないにせよ実家に帰る予定はないのだろう。
 
きっと会社でこんな会話をしたんだと思う。
 
「俺、今年は実家にも帰らないし、出かける予定もなくてさ」
「私も予定ないです。いつもどこか出かけよう、って思いながらも、ついダラダラしてるうちにお休み終わっちゃうんですよね」
「そしたら、どこか出かけない?」
「え? いいですけど……(ん? 二人で?)」
「ほんと? じゃあ出かけよう(他の人も誘いましょう、なんて言いださないでくれよ……)」
「わかりました、じゃあどこ行きます?(他の人も誘うのかな?)」
「神宮のナイターとかどう? 夏に外でビール飲みながら野球観るの、楽しいよ。花火も上がるし」
「花火、いいですね〜、じゃあそうしましょう」
「(よかった)じゃあ、行く前に軽く飯でも食おう。原宿に、美味しいハンバーガーのお店あるから、そこでもいい?」
「はい、大丈夫です(あ、これ二人っぽいな)」
 
……そして、今二人はここにいるのだ、きっと。
(この会話の内容はすべて妄想です)
あぁ〜〜きっと会社の休憩室で人が来ないかどうかチラチラ気にしながら、勇気を振り絞ってこんな会話をしたんだぁぁ〜〜甘酸っぱいなぁ〜〜〜〜フゥ〜〜!
 
と、妄想を爆発させているところにハンバーガーが到着したので、いったん食べるのに集中することにした。
 
ボリュームたっぷりで、ぎゅっ! と潰してからバーガー袋に入れて、くずれないように手でおさえながら、ほおばる。
 
この手のハンバーガーは、一度持つと食べきるまでは手を離せないのだ。
置くとバーガーとパテが分解してしまって、途端に食べにくくなるから。
 
その間も男女は会話をしていて、なんとなく聞こえてきてはいたが、男性がやたらと「いい意味で」という言葉を連発していて、そこでまた気になって、会話に耳を傾けてみた。
 
「◯◯さんて、いい意味で同い年くらいに感じるんだよね、いい意味で」
「……え?! どういうことですか?」
 
反応からして、おそらく女性のほうが年下だけど、男性のほうが同い年くらいに見える、と言っている、という状況だろう。
 
同い年のあの人よりも落ち着いてるとかなんとか、いろいろと説明をしていたが、要約すると「君と話すのが楽しいんだ」ということを、とっても遠回しに伝えているようだった。
 
そのあとも、「いい意味で〜〜だよね」というように、「いい意味で」を連発して、自分が相手を好ましく思っている、ということを、ものすごく遠回しに伝え続けていた。
 
こりゃ、男性の方は女性のことが好きなんだな。
 
でも「いい意味で」ってつけてるけど、女性に実年齢より上に見えるって言うのはちょっとリスキーだし、褒めてるけど言い方が遠回しすぎるから、これで褒めてるってこと伝わってるのかな……。
 
そう思っていたら、女性のほうが、
「『いい意味で』って言えば、何言ってもいいと思ってません?」
と、言い出したのだ。
 
思わず男性のほうを見ると、「いやいや、エヘヘェ」なんて笑っていた。
 
女性の方は、並びの席だったので顔は見られなかったが、笑いながら言っている感じはあったものの、声のトーンが若干「ちょっとイラついてる?」と思えなくもない感じだった。
 
ちょっとエヘヘじゃないでしょ、どうする男子……せっかく勇気を振り絞って誘ったのに! 神宮で花火見ていい雰囲気になって、また次のデートの約束を取り付ける計画だったんじゃないの?!
(※妄想です、どっちから誘ったのか神宮に行くのかどうかも知りません)
 
と思いながら、とりあえずハンバーガーを完食した。
 
このあとどんな会話するのかな、と思いつつ、まぁあんまりがっつり聞き耳立てるのもなぁと思い(今更)、残ったポテトを食べながら、スマホをいじっていたが、その後また聞こえてきた彼の言葉に、耳を疑った。
 
「いやぁ、いい意味で◯◯さんて、大人だよね、ほんといい意味で!」
 
「いい意味で」って言うのやめるのかな、と思いきや、彼はそこからたたみかけるように「いい意味で」を連発し始めたのだ。
 
そんなに注意して聞いていたわけではないので、会話の内容までは覚えていないが、「いい意味で〜〜だ」という旨の会話を、5ラリーほどは繰り返していたように思う。
 
え……これ大丈夫……? 彼女大丈夫……?
 
と思ったけど、横並びの席でがっつり顔を見るわけにもいかず、「そうですかぁ」「へぇ〜」なんていう、テンションの良し悪しがわかりにくいあいづちが聞こえてくるばかりだった。
 
「……だからさ、たぶん◯◯さんのこと嫌いになる人って、いないと思うよ」
 
「いい意味で〜」連発の遠回し褒めまくりラリーの果てに、男性が女性に対して、そう言った。
 
そしたら、女性が「えー! ほんとですか、うれしい!!」と、お世辞とかその場の雰囲気に合わせてではなく、本当に喜んでいる様子だった。
 
そのあと何となく雰囲気が変わって、男性のほうが「◯◯さんてこうだと思うよ」と言うと、女性が「え、いい意味で?(笑)」なんて返したりしていて、「いい意味で」が二人の共通のワードとして使われるようになっていった。
 
あれ、なんかいい感じにまとまったな、と思いながら、その後仕事のメールを返そうとスマホに集中している間に、その男女は気づいたら店を出ていた。
 
二人が出ていったあと、「『いい意味で』って言えば、何言ってもいいと思ってません?」のあとに、男性が「いい意味で」を使わなくなったらどうなっていただろう、とふと考えた。
 
わざとかどうかはわからないが、女性のほうがムッとした(かもしれない)あとも「いい意味で」をしつこく続けたことで、その言葉が二人の中で「定番化」して、いい雰囲気になったのかもしれない、と思う。
 
「定番のヤツ来た〜! 現象」とでも呼ぼうか。
 
たとえば、漫才コンビの大木こだまひびきさんの「チッチキチー」。
「それはチッチキチーやで」と言いながら親指を出すと、そこに「チ」という文字が貼ってあって、ドッと爆笑が起こるやつ。
 
正直、「チッチキチー」という言葉だけを切り取ってみたら、それ単体に意味はなく、面白い言葉というわけではない。
 
でもお客さんがそれを見て喜んだり、笑ったりするのは、「定番のヤツ来た〜!」という感覚があるからなんじゃないか、と思うのだ。
 
歌舞伎の「睨み」も似ているかもしれない。
市川海老蔵さんの家系である「成田屋」でしか行われない技で、目をギョロっと見開いて、グーーーっと睨みをきかせる、というもの。
 
成田屋のお家芸として代々継がれてきているものが披露され、ワーッと歓声があがるのも、歌舞伎ファンの中に「これこれ、定番のやつ!」という感覚があるからだと思う。
 
隣の男女が、会話の最後のほうで「いい意味で」をお互い言い合っていい雰囲気になっていたのは、男性がしつこく使い続けたことで、ランチの短い時間の中で、二人の中の「定番のやつ」になったのだ。
 
デートの中で生まれた、二人だけの共通ワード。
 
きっとこのあとも神宮の花火を見ながら
 
「綺麗ですね、花火!」
「そうだね。しかも、思ったより人少ないよね」
「いい意味で、ですか?(笑)」
「そうそう、いい意味で(笑)。お盆だからかな、ゆっくりできていいよね」
 
とか会話するのかもなぁ(※何度も書きますが神宮行くだろうというのは妄想です)。
 
そして休み明けの会社でも、ほかの同僚と3〜4人で話してるときにもあえて男性の方が「いい意味で〜〜ですよね」なんて、他の同僚と話す会話の中にチラっと入れてみて、二人で目くばせしつつ、女性が咳払いしながらニヤつく口元おさえる、みたいな。
ほかの人にはわからない二人の共通ワードで生まれる、ちょっとした共犯感。
 
はぁ〜〜妄想が進むわぁ〜〜〜しかしカフェで15分ほど聞いた男女の会話ひとつでこんなに妄想を膨らませて一人でニヤニヤしてる私病気なのかな。大丈夫かな。
 
と思いながら、店をあとにした。
 
「デートの場で共通ワードを生む」というのは、なかなかハードルが高いかもしれないが、気になる人をこの夏デートに誘おうと思っている人は、ぜひチャレンジしてみてほしい。
 
ただし、隣の人に会話が聞こえると、エッセイのネタにされたりする可能性があるので、そこは気をつけて。
 
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