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記事:下田洋平(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
ホラー映画、怖いのはわかってても無性に見たくなる時がある。
 
ホラーが苦手な人は、視聴中よく手で目を隠す。大げさだと思う人もいるかもしれないが、僕はがっつり隠しちゃう派だ。トイレの花子さんを見ていた子供の頃から今でも変わらずホラーは指の隙間越し。音量のボリュームも絞る。部屋も明るくして、テレビからは離れる。それでも怖い。怖いけど見たい。
 
ホラー映画に限らず、心臓に悪いとされているものが全般的に苦手だ。ジェットコースターも乗らないに越したことはないし、お化け屋敷も入らずに済むならその方がいい。遊園地はお土産コーナーがあればそれだけで満足。なんてことを常日頃から言いながら、気づけばジェットコースターの安全バーをおろしているし、お化け屋敷の中にいる。
 
適度なスリルを味わって、ドキドキしたい。
 
わざわざ裏腹なことをする理由はもうこれ以外に考えられない。嫌よ嫌よも好きのうち。とはいえ、ジェットコースターは一定時間拘束される。お化け屋敷に至ってはその上自分の足で進まないといけない。ホラー映画は数時間もストレスをかけられ続ける。とてもじゃないが心臓がもたない。もっと気軽に、そして瞬間的にドキドキを味わえる場面はないだろうか。
 
と色々探して、見つけた。
 
自己紹介だ。
 
長くても1分、短ければ数十秒。初対面の視線を集める。これよりも短く、これよりも手軽に体験できるドキドキを僕は知らない。
 
自己紹介も苦手だ。ホラー映画より苦手かもしれない。これまで何年、何十年と自分のことを紹介し続けてきたけど、未だにうまくいった試しがない。
 
10人の知らない人が集まる場での自己紹介。仮に自分の番が最後、10人目だったら、9人目までの話はまず頭に入っていない。右耳から左耳へそのまま抜けていくか、そうでなければ左耳から右耳にそのまま抜けていくだけ。頭の中は事前打ち合わせでてんやわんや。「インパクトを残せ」、「無難に乗りきれ」、「ウケを狙っていけ」、「冒険はするな」と、四方八方から声が飛び、そうこうしてる間に自分の番が回ってくる。
 
この脳内会議のメンバーは保守派と過激派に大きく分かれている。保守派の意見が通ったときの自己紹介はもう無難。自分でも言ったそばから何を言ったか忘れている。場はなんとも言えない空気に包まれる。
 
過激派が勝った場合は悲惨。そもそもドキドキ感を得ることが目的なので、こっちが勝つことが多い。だけど、狙ってウケるならそもそも自己紹介が苦手だなんて言ってない。つかの間のドキドキと引き換えにしばらく引きずる傷を負う。そして場はなんとも言えない空気に包まれる。
 
同じ10人で自己紹介する場面で、仮に自分の番が最初、1人目だったら。2人目以降の紹介は頭に入らない。脳内は反省会でそれどころじゃないのだ。「なぜあんなことを口にした」、「他にもっと喋ることあっただろう」と、自己紹介前の脳内会議とは立場が完全に逆転する。この一連の流れを数えきれないほど繰り返しながら、保守派も過激派も一向に学習できていないのが残念だ。あと本当に今更にはなるが、自己紹介している他の参加者に対して失礼極まりない。
 
この先も何度あるかわからない自己紹介。そのたびに反省会を開くわけにもいかないので、過去の数多い失敗体験から一つの作戦を導き出した。
 
《自分の紹介は一切せずに、他人の紹介を聞く》
 
これが最も他人の紹介に集中できる方法。とはいえこんなことをして許されるのは殿様ぐらいだろう。そして残念ながら僕は殿様ではない。なので、ここまで割り切りはしないものの、自分の紹介はできる限り最低限にしようと心がけた。名前を噛まなければ合格点。もともと噛むような名前じゃないので、ほとんど合格は約束されたようなもの。そしてそれ以外の時間は他人の紹介に集中する。聞く。見る。脳内会議は解散。
 
そうすると自己紹介が前ほど苦じゃなくなった。
 
他人の紹介に目を向けてみてわかったが、ハキハキと話している人でも手が小刻みに震えている。余裕そうに待っている人もいざ自分の番になると急に背筋が伸びる。終わった後はホッとしている人もいれば、浮かない顔をしている人もいる。みんなドキドキしている。一緒だった。
 
初対面相手にして喋っているのは自分だけじゃない。頭の中で何を話そうかなって脳内会議も開くだろう。思ったようなリアクションが返ってこなければ反省会も開くだろう。当たり前のことだ。当たり前だけど、見てなかったから何十年も気づかなかった。
 
他人に意識が向くようになったので、次は《他の人に反省会を開かせない》ことを目標にした。反省会を開く痛みは反省会を開いた人間にしかわからない。そしてその回避方法も、自分にならわかる。反応しよう。リアクションを取ろう。
 
そうすると、自分の紹介に力を入れたわけじゃないのに会話が弾むようになった。限られた時間で自分のことをできるだけ知ってもらおうと四苦八苦してた自分がバカみたい。そのくらいあっさりと、でもしっかりと仲良くなれる機会が増えた。
 
相変わらず自分の番が回ってくると緊張するけど、苦手意識が薄れた分、心地よいドキドキを感じている。この調子でいけばそのうちホラー映画も楽しめる強い心臓になるかもしれない。

 
 
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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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