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不妊治療卒業で得たものは?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:縞隈 千代子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
2018年1月。
私はどん底だった。
過労により休職せざるを得なかった会社は、前年末で解雇。
そして、同時に不妊治療終了のサイン。
 

もう、自分にはこどもを生むことはできない。
もう、夫が望んでいた家族を作ることができない。
 

広告代理店での激務の中で始めた不妊治療は、妊娠に向けて身体を整えるではなく、死にかけることも起きた。不妊治療の外科手術で大量出血が起き意識不明。さらには、術後に腸閉塞が起きて再手術など。自分が想像していたものとまったく異なる状況に「こんなことまでやってるんだから、こどもができなかったらおかしい」とさえ思うようになった。
 

それでも、努力の結果は身を結ばない。言葉ではわかる当たり前のことを、自分が今体験していることが信じられなかった。
 

「人生、詰んだ、なんだこれ!」と、はじめて口にしてしまった。
 

—–
 
不妊治療への不安は子持ちの友達のみならず、姉や親にも吐くことができなかった。「他にもいいことあるよ」「夫婦が仲いいからいいじゃない」「次があるよ」そういうなぐさめが返ってくることが想像でき、なぐさめられるのもいやでいえなかった。はたからみたら、いつも顔はニコニコ穏やか。でも心の中では、黒い魔女がアヤシイ鍋をいつも煮ていた。
 

わたしのこころの中の黒い魔女は、しごと上「穏やかで優しいわたし」の裏でうごめいていた。子持ちの上司が「こどもの遠足があるから会議の時間を遅くして」とこどもを理由にして会議時間を変更、早退、部下への仕事を丸投げするたびに「がんばってくださいー、おだいじにー」とニコニコと返事。でも、黒い魔女は「ひーひっひっひ。あんたもそういうことをしたいんだろ?」と、ねたましい気持ちを刺激していた。
 

「いやいや、あたしそういう人間になりたいんじゃないんだから」
昔の上司が、「仕事がほんとにデキる人は自分のどす黒い気持ちを表にださない」タイプだったので、自分も「人のことを羨ましいと思うことははずかしい」と思っていた。だから、妬ましい気持ちを表には出さないようにはしていたが、どうしてもこどもを持つことに関してはどす黒い気持ちが拭えなかった。
 

しかし、クビになり。こどもができないことがわかり。
もう魔女をしまっておく必要はない。
わたしはこれから見た目から黒い魔女のようになってもいいのだ。
 

と、思っていたのだ、が。
 

それから早8ヶ月たったいま。わたしの中には魔女はいない。
なぜか。
 

それはわたしが不妊治療に固執した理由と関係がある。
 

わたしが不妊治療にとりくんだのは、夫がこどもを欲しがったこともあるが、それだけではなく、わたしが失ったものを取り戻したいと願っていたから。
 

不妊治療前にわたしは自然流産した。こどもを持つことを強く意識していなかったのだが、「ありゃ、できた」という感じでこどもができ、「あ、いなくなってしまった」とわずか数週間で消えてしまった。でもそのときの「失ったことの悲しみ」をずっと引きずってしまい、そのときのこどもを取り戻すんだという気持ちで不妊治療にいどんでいたのだ。
 

それまで、私は人生は千歳飴のように長いものだと思っていた。
千歳飴はすこしずつすこしずつゆっくりたべていく。でもその味はみんな同じだ。だから、わたしもその味を他の人と同じようにたべられるようなものだと思っていた。
 

一方で、千歳飴はもろい。ぐしゃぐしゃに壊れてしまいやすい。
子供のころは、ぐしゃぐしゃになった千歳飴を食べたくないといってダダをこねていた。そんな自分は流産によって壊れてしまった、食べたくない千歳飴状態。わたしはそれを不妊治療で直したかった。
 

でも、壊れてしまった千歳飴が直らないことがわかり、失ったこどもに対して「数週間だけでも来てくれてありがとう」という気持ちがはじめてふっとあがってきた。ほんのわずかなときだったけれども、「これからどうなるんだろう」という期待と不安のごちゃまぜ感を楽しめたのだ。その記憶は消えるものではない。壊れた千歳飴だって、美味しい記憶は消えないのだ。
 

ところが、千歳飴が壊れやすいのには意味があるということを今年になって知った。
千歳飴はみんなでたべるものためにぐしゃぐしゃに壊れるようになっているのだとか。ならば、「わたしの人生詰んだー」なんて一人勝手に嘆いていたのは勝手な思い込みだ。
 

壊れたならば、壊れたなりに楽しめる方法はある。
「だったら、今までできなかったことやろうっと」と、ライティングの講座をとり、チェロも習い始めた。
壊れてからあたらしく始めたものは、今までみたいに「なんとなく周りに追い立てられて」作った目標ではなく、自分が心から「やりたい」と思うものばかりだ。
それらのことで毎日をバタバタしつつも楽しく過ごしていたら、黒い魔女はいつのまにか消えていた。
 

先日、久々に鍼治療を受けにいったら「あれ? なんか顔つきがかわった」と鍼灸師が言った。自分が思っている以上に黒い魔女が消えた効果はあるみたいだ。
 

これからもバタバタと毎日を楽しんで生きていこう。もしかしたら、黒い魔女は、私の卒業記念として思いつめた表情も連れ去ったのかもしれない。
***

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2018-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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