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その子の手をとって


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ライウォリ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「わあっ! 前より上手に出来たじゃない」
 
土曜日の午後、まだ暑さも残る昼下がりみっちゃんは母親に誉められた。いつもより元気よく間違わずに踊れたのだ。人よりちょっと飲み込みが遅いので、母親はいつも心配そうにレッスンを眺めていた。
しかし今日のみっちゃんは一味違った。いつもは見えない集中力をみせ、私が踊ったダンスをちゃんと真似てみせたのだ。子供とは本当にわからないものだ、とつくづく私は思った。誉められた子供はちょっとはにかんで、嬉しいけど照れ臭い表情を浮かべ、母親の胸に顔をうずめた。
みっちゃんは、おっとりしているけどとても穏やかな子だった。母親もいつも優しい眼差しを子供に向けていた。
そんなある日、同じ教室にあんちゃんが入ることになった。あんちゃんは子供なのにレッスンの間中ずっときつい目をして踊っていた。一度もニコリともしないのだ。
あんちゃんの母親は、常に動画をとりこれまた無表情に我が子を見つめているのであった。
そんなある日、イベントのステージに出演することが決まりレッスンで振り付けの練習をすることになった。一週間に一回のレッスンのたびに、熱心に練習してきてみるみる上達した。
 
本番当日、みっちゃんもあんちゃんも大きく踊ることができた。二人の上達っぷりは誰の目から見ても明らかだった。しかし、決定的な違いがあった。
それは、スマイルだった。
みっちゃんは幸せそうにステージに立っていた。しかし、あんちゃんは義務感とでもいうか、しようがなくといった感じでたっていた。
 
数日後にレッスン前に、たまたまあんちゃんと二人になった。私はすかさずあんちゃんに
「ダンスは楽しい?」
 
と聞いた。
あんちゃんは「楽しい」と答えた。意外な答えに戸惑った。もしかして強制的にやらされているのでは? と思ったからだ。
なので安心したと同時にうれしかった。しばらくしてあんちゃんの母親が到着し第一声に
「先生、この子はなにやっても遅くてやる気がないんです」
と言ってきた。
私は始めたばかりでしかも子供の前でそんなことを言う親に憤りを感じた。あんちゃんは一点を見つめて黙ったままになった。
数分後にみっちゃんが母親と一緒に現れた。私を見たとたんに、足元に飛び込んできて、きゃきゃっと笑った。
とても楽しそうだったので、母親に”何かいいことでもあったんですか?” ときくと、どうやらステージがとても楽しかったらしく、ダンスが楽しみになったとのこと。
みっちゃんの母親は、
「初めてなのによく頑張っててとても感動しました」
と続けた。みっちゃんは横で笑い続けていた。
 
それから2年の月日が立ち、あんちゃんに
 
「ダンス頑張って続けれてるね」
と話しかけると、あんちゃんは
 
「おかあさんに怒られたくないから」
といった。
そうか、そういうことか! あんちゃんがダンスを頑張るのは自分が心から楽しいと思ってるのではなく、あ母さんがそれをやれば自分を叱らないからなんだ。なるほど……一杯練習をするのは嫌われないためなんだ。
胸が苦しくなった。いつもニコニコしているみっちゃんに同じ質問をしてみると、
「踊るの楽しい」
といった。
みっちゃんは自分が踊るのが好きで踊っている。ここに差があると思った。
思い返せば、あんちゃんのお母さんは常にレッスンでビデオをとって次の週には完璧にしてくるし、あんちゃんは常に母親の顔色をうかがいながらレッスンをうける。母親が誉めたのをみたことがない。スキンシップもあまりない。
比べてみっちゃんのあ母さんは最後に少しビデオを撮るだけで後はニコニコ我が子を見守り、間違ってもよく頑張ったねと誉め、目を合わせてスキンシップをよくとっていた。
 
どの子もきっと母親が好きだ。だから愛されたい。でもお人形じゃない。一人間だ。母親の理想像にはまることで愛情を得ようとする。でも限界がいつかくる。厳しさは必要だけどその子の個性を大切にした自立に繋がるような厳しさでなければならないはずなのに、いつの間にか母親のエゴの対象になってしまってはないか?
子供は大人が思っているより、よくわかっている。本当にそう思う。
あんちゃんはお母さんが好きだからお母さんの理想になるように答えた。裏を返せば、従わなければ愛されないと思っているのだ。
一方みっちゃんはいつでも愛されていることを知っていて安心しているから、自分らしくのびのび出来る。
愛情って本当にすごいなって思う。でも、愛情がエゴに変わるとミニチュア独裁になってしまう。かといって、私にはどうすることも出来ない。子供がほっしているのは、お母さんの愛情だから。
 
習い事は選んできてもらうもの。だからこそもっとその子の個性にあわせたものを取り入れ、何がベストなのか見極めて必要な時にフォローする。後はたっぷりの愛情を込めてちょっとずつの成長を誉めて、微笑む。案外子供は親がガシガシやらなくても勝手に成長してくれるもんである。
ただただ手を握って微笑んであげてほしいと心から思う。

 
 
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2018-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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