歌舞伎町で探偵ごっこをしていたら本当の事件を目撃した話
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記事:木野 トマト(ライティング・ゼミ木曜コース)
眠らない街、歌舞伎町。
この歌舞伎町に知らない人はいない凄腕の探偵事務所がある。その名も、セブン探偵事務所。私はそこの見習い探偵として、歌舞伎町で先輩探偵たちと依頼された事件を調査している。今日は整形ネタで恐喝されているアイドルからの依頼で、闇医者からカルテを回収するべく情報を探し求めて捜査していた……。
歌舞伎町の東京ミステリーサーカスで行われている、街歩き型謎解きゲーム。これが「歌舞伎町 探偵セブン」である。東京ミステリーサーカスでゲームの申し込みをした後は専用のファイルを持って、実際に歌舞伎町の街を歩き、所定のバーやキャバクラなどを訪ねては聞き込みを行い、事件を捜査するというものだ。事件は全部で7つ(18歳未満が入れないお店も捜査対象にあるため、18歳未満がプレイできる事件は2つのみ)あり、その日は友人Wと「整形アイドル恐喝事件」をプレイしていた。
夜になると、にぎやかで人通りも多くなるため、私たちは昼過ぎから捜査を開始した。平日の昼間はさすがの歌舞伎町といえど人も少なく、花屋さんが派手なフラワーアレンジメント作りの真っ最中であったり、飲食店が夜の開店に向けて準備を行うなど、普段と違う側面を見ることが出来た。
最初の捜査手がかりを手に入れ(=謎を解いて)指定されたお店に向かって歩いている途中、ラフな格好の出勤前ホストと思しき2人組が、警察官3人となにやら話をしていた。職務質問程の緊迫した雰囲気ではないが、少し不穏ではない空気に「さすが、歌舞伎町」と思いながらも通り過ぎて、指定されたビルに入り、階段を上り始めたその時だった。
ドンッ
鈍くて大きな音が聞こえた。
私は友人Wと顔を見合わせた。少しの間のあと、友人Wは言った。「銃……にしては音が鈍すぎるよね。なんだろう?」私は「ここで待ってて。ちょっと見てくる」と返事をしてビルを出た。
人が倒れていた。
靴は履いていない。うつぶせで倒れていて、血は見えなかった。
ふと見ると、さっきホストと話していた警察官のうちの一人もすぐ横に立っていた。どうやら私たちと同じ音を聞いたらしく駆け付けたのだ。私と同じ光景を見て、すぐにトランシーバーで応援を呼んでいた。私は近くに警察官がいたのであれば、特に証言などをする必要もないだろうと判断し、友人Wのもとに戻った。友人は不安そうな顔で私を見てきたので一言、「見ない方が良い。男の人が倒れてる。多分飛び降り。そんなに血の海にはなっていないからそんなに高いところからではないと思うけど、さっき見た警察の人も来てくれたみたいだし、私たちに出来ることはないよ。とにかくお店に行こう」と告げた。
事件を目撃したショックもあって、階段を一気に登ったせいか、ひどい息切れをしながらお店に着くと、店の従業員役のスタッフが「ずいぶん、息切れしているねぇ? 大丈夫?」と声をかけてくれた。本当はここで、店の従業員に聞き込みをすべく、決まったセリフを言わなくてはいけないのだが、思ったよりさっき見た光景が頭から離れず、つい「いや、今、すぐそこで、大きい音がして、見たら、人が倒れてて、警察が、来て」
とたどたどしく今見たことを伝えた。途中までは探偵セブンの世界観に入り込んで演技をしていると勘違いしていたスタッフも、事が本当の事だとわかると、表情を一変。「ごめんね。ちょっと見てくる」と言って、私たちに次のヒントを渡して下に降りて行った。
その間、謎を眺めていたが呆然としてしまいしばらく座っていると、血相を変えたスタッフが戻ってきた。そして「ごめんね。ちょっとこれから少しの間、この店の従業員じゃなくてスタッフに戻るけど、気にしないで進めてていいからね」と話した。東京ミステリーサーカスにいる担当者とお客様が通る道に影響があるかどうか、誘導したほうが良いかなど協議をし始めたようだった。
かわいそうなことにたまたま私たちより先に来て謎を解いていた女の子二人組も、地声の大きい私の話が聞こえてしまったらしく、不安そうな表情をしていて「どうしよう。謎が全く頭に入って来ない」と、私と同じ状況になってしまい、その場にいる全員が脱力してしまっていた。
ようやく気持ちも落ち着き、謎も解けて、ビルを後にした。
さっき目撃した男性はすでにおらず、その代わり、テレビでよく見る黄色いテープが貼られ、何人もの警察官が立っていて、野次馬たちが覗いているというよく見る光景に変わっていた。
黒いバックを持った人が警察官に連れられてテープの中に入っていく。「管理会社の人が来たから! 通してあげて!」叫ぶ声が聞こえる。
ここまで来ると現実味は薄れていた。幻だったら良かったのにという気持ちはあったが、警察の方の行動が、それを否定していることは嫌でもわかった。それでも少し落ち着いた。
私たちが捜査していた「整形アイドル恐喝事件」はその後無事に捜査完了したが、私たちが帰ろうとする時間になっても、そのテープが解除されることは無かった。
歌舞伎町……わかっていたつもりだったが、ディープな街である。
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