メディアグランプリ

父の奇行と私のメディア戦略


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記事 : 河内 直美(10/31大阪ライティング)
 
 
私の父は昭和13年生まれである。
80歳、傘寿となった。
おかげさまで内臓疾患が一つもなく、今でも毎日「食べ過ぎた」と言っている。
この歳で太ったなんて言えるってどうなんだろう?
というくらいの食欲が衰えない人だ。
 
父は昭和の高度成長期にバリバリの営業マンだったせいか話が上手いらしい。
「らしい」というのは娘の私から見るとただの「理屈屋」に見えているからだ。
身内はいつも一番厳しい審判だからこれは仕方ない。
 
チビでデブでハゲで。
ごめん。散々なこと書いてちゃう娘で。
どこにモテる要素があるのかよくわからないのだが男女問わず、人にモテるのである。
人付き合いは上手なのだ。
 
そんな身内から見て外ヅラのいい父は、家では非常にめんどくさい人である。
その奇行たるや、私に本気で「アホちゃうか!」と思わせるのだ。
 
フェイスブックを使っている私は、ある時その父の奇行ゆえの苛立ちを書き込んだ。
「もう!」
その思いをちょっと誰かに聞いてもらいたくなったのだ。
今となっては一番最初に何を書いたのかは忘れてしまったけれど。
なぜだかわからないけれど友達がたくさん「いいね」をくれた。
コメントもたくさんもらった。
一体どうなってるのだ。これは。
私は書くことで「大変だねぇ」とか「よしよし」とか共感して欲しかった。
ところがだ。
私の思うところとは逆に「ウケた」らしいのだ。
面白いって言われてしまったのだ。
 
例えば、こんな話を書いたことがある。
「思い立ったらやらずにいられなくて真夜中まで棚を作ってた話」
「行きつけのスナックのママやお姉さん達のウケ狙いで、ヘッドホンで歌を聞きながら徳永英明の歌を練習している話」
「PCを触っていて、半角と全角が切り替えられなくなって真夜中に私をこき使った話」
「後期高齢者なのに行きつけのスナックへわざわざ電車に乗って行き、毎度終電で帰って来る話」
などなど、詳細を書けば書くほどウケるのだ。
 
途中から私は父の話を書くときにタイトルを書き加えた。
「どうかしてるぜー! 父上様!」
お笑い芸人のブラックマヨネーズの吉田くんのネタからパクってみた。
私はどうせならみんなに笑ってもらおうと思うようになった。
最初は同情や共感をしてもらおうと思っていたんだけれど。
面白いと思ってくれる人がいるなら、笑ってくれるなら、いっそ笑い話にしてしまえ。
そして「娘の私がいまいましく苦笑している姿を想像してくれ!」と思うようになった。
 
もう、今となっては本当に娘から見る父の奇行は笑い話のネタでしかないのだ。
オモシロおかしく書くことが私のイライラを発散する手段になっていたりする。
 
しかし、しかしだ。
ただの笑い話のつもりがこんなコメントをもらうようになった。
「その父上様と飲みに行ってみたいわ!」
 
おいおい。
大丈夫か?マイフレンズ。
うちの父上様は80歳だよ?後期高齢者だよ?
ホントに本当にそう思ってる?
と思いながらもらったコメントにひとりでツッコミ入れていた。
 
でも、リアル友でもありフェイスブックでも繋がっている友達と飲んでいると言われるのだ。
「面白いよねー。父上様。マジで逢ってみたいわ。」
マジか。マジだ。コイツら本気で言ってたんだ。
苦笑を通り越してビックリしてしまう。
 
私というメディアが発信した父という人の話は、どうやら父を人気者にしてしまったらしい。
人を笑わそうという目論見は、成功を上回ってしまった。
しばらくこのシリーズを書かないでいると、「最近父上様はどうしてるの?」なんて聞かれてしまうほどになってしまった。
私、なんだかアイドルを売り出すために戦略を練る事務所の人みたいになってる。
 
娘にとってめんどくさくて困ったちゃんな父。
しかし私は、外ヅラが良くて人にモテる父のさらなるブランディングをしてしまったらしい。
 
実際に面白いかどうかは私にはわからない。
なにせ手厳しい身内であり、いつも迷惑こうむっているのだから。
面倒見切れん。
そう思いながらついうっかり相手してしまう私ってなんなんだろう。
まさに苦笑モノなのだけれど。
 
でも、思うのだ。
この奇行の数々は父が元気でいてくれるからこそ語れるのである。
足が痛い、腰が痛い、肩が痛い。
時には1日で病院3軒ハシゴしたって自慢する父は元気だ。
80歳なら要介護状態であってもちっとも不思議じゃない。
なのに今でも父は私の心配をしまくっている。
自分は終電で帰ってくるくせに、私がそれをすると「いい加減にしぃや。」と言うのだ。
アラフィフの娘に向かって。
これが笑わずにいられるかって話だ。
 
こんな父ですが、他にも飲みに行きたいって方はいますかね?
良かったらこの愛すべきアンポンタンな父を紹介しますから一緒に飲んでやってください。
私は苦笑しまくりですが、あなたは爆笑出来るかもしれません。
 
そんな父は昨夜も真夜中まで新しい棚を作っていた。
ドライバー使う時に力を入れ過ぎたらしく、今日は指に力が入らないらしい。
「アホちゃうか!」と私はまた苦笑したのである。
 
父上様。
どうか元気でいてください。
私のネタでいてください。
そして娘は「ピンピンコロリ」を希望します。
どうぞよろしく。
 
***

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2018-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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