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猫バカが語る「猫のススメ」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ひらいさおり(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
広いホールに、四角いゲージが6個、並んでいた。
ゲージの隙間から、毛むくじゃらの手が出たり、入ったり。
 
「ニャー! ニャーニャー! ギャー!」
 
ゲージに近づき、上から中を覗き込むと、「シャーッ!!!!」
中にいる半分は、爪をたて、牙をむき威嚇してくる子猫達だった。
 
「コワっ!! 何かシャーシャー言ってるし」
犬好きで、猫がまだ苦手だったパートナーのY氏は、どん引きして、後ずさり。
 
60cm角くらいのゲージの中は、それぞれに、6匹くらいの子猫が入っている。
「激しいタイプのコが多いのかな……」
ゲージの中で動き回る彼らに、余裕のスペースはない。
 
初めて訪れた「猫の譲渡会」。
会場には、25人ほどの人が集まっていた。
ここにいる猫達は、生まれてまもなく保健所に回収され、そのまま殺されてしまうはずだった。
ボランティアの人達が、命を守ろうと、保健所から助けてきたほんの一部の子達なのだ。
 
気づけば、幼いころから、私の身近にはいつも猫がいた。
家にうさぎが数年いたあとは、歴代全て猫だった。
しかも、最初の猫が白猫だった以外は、なぜか皆、雑種の「キジ柄」だ。
 
一番長く生きた猫は「チョコ」と名づけた。口の横にチョコレートをつけたような模様があった。チョコは、人に触られるのが嫌いで。なでると、「やめろー」と猫手で私の手を払いのける。
高飛車なのに、納豆が好きで。納豆のパックを開けると、すぐに「クレ! クレ!」と私の手を叩いてきた。糸をひきながら、納豆を食べる不思議な猫だった。
チョコは、私が高校1年から31歳までの間。16年間生きた。
部活に疲れ果てて眠る日も、失恋して泣いた日も、両親のケンカに嫌気がする日々も、受験勉強の日々も、社会人になった時も、私のそばにはいつもチョコがいた。
私が涙を流している時には、そばに寄り添い、手を舐めてくれたり。
楽しく音楽を聴いている時には、側に座り、しっぽでリズムをとっていた。
私はチョコに、沢山話をした。
失恋した気持ちも、受験勉強の悩みも、両親のストレスも、チョコはいつも静かに聴いてくれた。
「チョコは私の青春時代を全て知っている」そう言っても過言ではない。
 
最愛のチョコが亡くなって、約半年後。
 
猫の禁断症状になっていた私は、フサフサしたものが触りたくて仕方なかった。
洋服売り場で、コートのふちについている「フワフワした毛」をなでてみたり。
猫の毛みたいにモサモサしたクッションを触ってみたり。
動物園で、ヤギや羊も触ってみたが、毛の感触や、質感が違った。
 
「あー。猫触りたい。フワフワしたあの感触が欲しい」
そう言って、日々、いろいろな布をなでまくる私に、ある日Y氏が提案してきたのだ。
「お店にポスターが貼ってあってさ。猫の譲渡会、っていうのがあるみたいだけど。見に行ってみる? まぁ、今は飼えないけど」
 
会場にいた子猫は、全部で約35匹。
「気に入った子がいれば、すでに処置されている避妊手術料22000円をお支払いいただき、この場で子猫を譲渡できますよ」
生後3ヶ月ほどの子猫達は、皆避妊手術をされていた。
 
子猫達は爪を立てながら「シャーッ!!シャーッ!!」威嚇している。
見知らぬ場所に連れて来られ、大勢の人間に囲まれて、怯えているのだろう。
「なんか、みんな激しいねぇ……」
 
ふと、1つのゲージに目が止まった。
ゲージ内に設置された小さなトイレに、1匹の子猫が小さくうずくまっている。
他の5匹の子猫達は、ゲージから手を出し威嚇したり、よじ昇ったり。
「キミはなぜトイレの中にうずくまっているの?」
しばらく見ていると、トイレの中で小さく丸まっていた子猫が、そーっと控えめに動き出した。
どうやら、ゲージの反対側に、水を飲みに行くらしい。
子猫はそーっと、スローに。ゆっくり歩き。嵐のように騒いでいる他の子猫達の邪魔にならないよう、静かに歩いた。
途中、他の子猫の足に当たると、その足をペロペロと舐め、どけてもらった。
水を飲み終わると、そーっと、スローに。またこちらへ帰ってくる。
今度は別の子猫をペロペロと舐めて、道を譲ってもらった。
「なんだ? この気遣いができる子は……」
周りの子猫達とのあまりの差に、私は関心して心を奪われた。
「しかし、今は飼えない……」
偶然にも、雑種の「キジ柄」だった。
 
あれから、11年。
あの日、出会った子猫は、11歳になった。
お姫様のように気品高く、美しい顔をしたキジ柄の猫は「ヒメ」と名づけられた。
毎朝、目覚めて「おはよう」と言うと、「オハニョー」と挨拶する。
出かけるときには、玄関の前で見送りし、帰宅すると玄関にお迎えにやって来る。
人をよく観察し、私の手が空いたタイミングを狙って、ごはんをリクエストしたり、抱きついてくる。
いつもどこからか、静かに私を見守り、優しく包んでくれるのだ。
私にとって、猫はまるで、縁側のように暖かく、優しい「恋人」だ。
 
「もしかしたら、ヒメも。保健所で殺されていたかもしないのか」
そう思うと、出会えたこと全てが、奇跡のような気分にもなる。
 
猫のいる日常に、きっと、あなたも恋をする。
どんな命も、優しく、輝く。
もし、これから猫を飼いたい人がいたら、小さな命を救う「譲渡会」に行ってみてほしい。

 
 
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2018-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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