メディアグランプリ

「いつか」というおとぎ話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【6月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:丸山ゆり(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「むか~し、むかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に……」
 
という語りではじまる、おなじみの昔話。
遠い昔、周りの大人がよく読んでくれたものだ。
私は、物語の入り口に、一歩足を踏み入れると、途端にワクワクし始めたものだ。
 
そして、耳に届く語りの声とは別のところで、こんなことを考えていた。
 
「むかしって、どれくらい前のことなんだろう」
「どんなおじいさん、おばあさんだったんだろう」
 
こうやって、頭の中で、さまざまなイメージを膨らませて、どんどんストーリーに引き込まれていったものだ。
 
「電気もないくらいのむかしのことなのかな?」
「おじいさん、おばあさんの髪の毛は真っ白かな?」
 
子どもの想像力は、とどまるところを知らない。
 
それと同じように、特定されていない時間で、未来を表すことばに、「いつか」がある。
この言葉は、私たちは日常どれだけ無意識に使っているかしれない。
 
私自身のかつての口癖がこうだった。
 
「いつか時間ができたら、またバレエをやりたいのよね」
 
どうやら、何度もこの言葉を言っていたようだった。
学生時代に習っていたバレエ。
別に上達したいわけでもなかったが、そのお稽古が楽しくてしょうがなかったのだ。
ところが、就職、結婚、子育てと目まぐるしい日々に、いつしか遠のいていたお稽古ごとだった。
 
何度もこの言葉を聞かされていた親友は、ある時、こう言った。
 
「いつかやりたいって、それ、ずっと言ってるね、あんた。私、何度も聞いているよ。それでもまだやっていないってことは、本当にバレエをまたやりたいの?」
 
私はその言葉で、頭を打たれたほどの衝撃を受けた。
 
まずは、そんなに同じ話を繰り返し言っていたんだ、という驚いた。
何度も発していた言葉だったのに、私自身が自覚していなかったのだ。
 
そして、バレエが本当にやりたいのか?
そう言われて、あらためてその時の自分に問い直してみた。
すると、すぐさま、「やりたい」と心が叫んだ。
親友の言葉が強く心に響いたこともあって、そこから私はバレエのお稽古を再開した。
もう20年ほど前の話だが、今でも鮮明に覚えている。
 
実はこの「いつか」という言葉ほど、便利なものはない。
なぜならば、その瞬間に時期を特定しなくていいからだ。
 
さらには、その「いつか」という時期は、いくらでも更新できるのだ。
例えば、「3ヵ月後」と特定したら、必ずその日はやってくる。
仮に今日が6月1日だったら、9月1日だ。
 
けれども、「いつか」と言っていて、3ヵ月が過ぎたころに、また「いつか」と言えば、その時期はまた未来へと走っていってしまうのだ。
 
「いつか」は、永遠にやってこないのだ。
 
つまり、時期をずっと先送りできる、とても便利な言葉でもある。
 
「いつか、英語をしっかりと勉強して、しゃべれるようになりたい」
「いつか、ジムに通ってダイエットしたい」
 
私は「いつか」と言って、何かを宣言した人で、それを達成した人を知らない。
もちろん、それをやりたいという思いに、ウソはないのだということはよくわかる。
ところが、なんとなく、ぼんやり夢や希望を語るかのように言うものだから、そんな未来はやってこないのだ。
 
「いつか」という言葉が出たときは、ある意味チャンスでもある。
 
本当に、それがやりたいことなのか。
そして、いつ、やり始めるのか。
それを自分に問い直すことで、動きだせるはずだ。
 
もちろん、やりたいことでないとわかれば、妄想だったんだと思えばいいだけである。
そこから先は、「いつかやりたいこと」リストから、そのカテゴリーは削除されるであろう。
 
そして、やりたいと思うことであったなら、いつから始めるかをその時に決めることをおススメする。
「いつか」という特定されない未来ほど、あてにならないものはない。
本当にやりたいことであるならば、できれば「今」、スタートすることをさらにおススメする。
 
私たちが、自分で扱うことができる時間は、今だけだから。
残念ながら、未来のことは誰にもわからないから。
 
そう、「いつか」というのは、まるでおとぎ話の世界の時間のようなもの。
それが本当にあるのか、ないのか、それさえもわからない。
あまりにもフワフワしていて、つかみどころのない世界。
どこまでも、頭の中だけで描く想像だけのものだ。
 
「いつか、神戸牛の美味いステーキを食べたい……」
「いつか、世界一周旅行に行ってみたい……」
 
あなたは、無意識にそう言っていないだろうか?
以前の私のように。
あの親友の言葉に衝撃を受けて以来、私は物事には期限をつけて考えるようになった。
 
そう、私は紛れもなく、「今」という時間を生きているのだから。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/zemi/82065
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事