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「ごはん食べた?」に思う日韓関係


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:天草野 黒猫(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ある日のことだった。
「ごはん食べた?」
「?」
なぜ、そんな事を聞くんだろう。私は思った。
 
なぜなら、聞かれた時間は午後の3時。
ごはんどころか、おやつの時間だったからだ。
 
「お昼に軽く食べたよ」
そう答えながら、私の中で小さな疑問が残った。
 
ここは交差点の角にある韓国料理のお店。
キムチやキンパプなど、手軽でおいしい韓国料理がいただける。
 
ちょっと大きめの力のある声。短めのパーマ。時々みせる芯の通った豪快な笑顔。
いかにも韓国のお母さんという感じのママさんが1人で経営していた。
 
「ごはん食べた?」この問いに、もし「食べていない」という返事をしたら……
 
ママさんは色んな理由を取り出して、ごはんを食べさせようとする。
「私もお昼食べてないから、一緒にたべよう」
「注文の間違いがあったから、これ食べなさい」
 
こっそりダイエットなんて、このお店に立ち寄ったらできはしないのだった。
少しおせっかいなまでの、押しの強い優しさがこのママさんにはあった。
 
特に「ごはん食べた?」は口癖のようだった。
 
そんなに食べていないように見えるのかな。
あ! 料理していないと思われている?
とさえと思い始めていた。
 
そんな時だ。
答えをみつけた。なぜ韓国人のママさんが「ごはん食べた?」としきりに聞くのか。
 
それは、とある食品会社の広告がきっかけだった。
ポスターのキャッチコピーに書かれていたのは
 
「ごはん食べた? が挨拶になる国」だった。
 
「あ! あのママさんの、ごはん食べた? はこういう事だったのかも」
 
謎解きの手がかりを見つけたような気がして、家に帰ってパソコンに向かう。
まるで、ミステリーに出てくる探偵のような心境だ。
どこかワクワクしながら、検索をした。
 
すると、あった! それもたくさん。
韓国語で「ごはん食べた?」は「元気ですか?」と同じような意味合があるそうだ。
これは韓国が貧しかった時代に、生まれた言葉であり習慣だった。
 
そういえば、私にも「ごはん食べた?」と毎日お皿を確認していた経験がある。
それは一緒に暮らしていた、猫が病気になった時だ。
 
その黒猫とは、彼がやっと自力でお皿のミルクを飲み始めた頃からの付き合いだった。
いたずらっ子で、食いしん坊。とにかくよく走り回っていた。
 
ある日、購入してきたばかりのカリカリの袋を放置していたら、いつの間にか袋に顔をつっこんで食べている。胃袋はパンパン。横からみると、不自然なほどぽっこりとまん丸だった。
 
とっさに名前を呼んだら、脱兎のごとく飛び上がって逃げた。
その姿がおかしくて、おかしくて、大笑いをした思い出がある。
 
そんな、食いしん坊の彼が病気でどんどん食が細くなっていった。
猫エイズだった。
 
大好きなマグロ入りカリカリ。
ちょっと瞼をあげて、私とカリカリをみる。
……食べない。
 
ここは奮発して、コマーシャルの高級缶詰モンプチでどうだ!
目を開けて臭いをかぐ。ちょっとなめてくれた。
けれど……食べない。
 
手をかえ品をかえ、なんとか食べてほしかった。
 
「お願い! 食べて。食べないと元気がでないから」
「食べて! いたずらしてもいいから元気になって」
 
何度、猫に向かって言っただろうか。
元気な時には、「なんてガツガツ食べるんだ」と思っていたのに、その姿が心底なつかしい。
 
身近にいる大切な命が弱って行く時、一番願ったことは「食べて!」だったのだ。
 
その時に思った。「ごはんを食べること」は「生きること」「命をつなぐこと」
一緒に暮らしていた猫を通じて、私は痛感した。人も動物もごはんを食べなきゃ元気になれない。
 
インターネット検索の記事を読みながら、そんなことを思い出していた。
 
ああ、そうだ。
私が実家から離れて1人暮らしをした時。
母に電話をすると最初に聞かれたのも「ごはんは食べた?」だった。
韓国だから日本だからということではない。
「ごはん食べた?」それはきっと大切な人への気遣いなのだ。
親しい人に、元気でいてほしいと願ってかける言葉なのだ。
 
それからは、韓国語の習慣「ごはん食べた?」の言葉をとても優しく感じた。
 
改めて、食品会社の広告を探してみると「ごはん食べた?」の言葉が挨拶のように使われているのは韓国だけではなかった。タイ、ベトナム、マレーシア。アジアの国では、かなりよく挨拶がわりに使われている言葉だそうだ。
 
アジアのどの国も貧しさを経験した時代があったからだろう。
日本にもそんな時代があった。
それが、すっかり食べるものがあふれて、そんな言葉をかけあうことも少なくなった。
 
今日もテレビからは、日韓の政治的悪化の話題が流れてくる。
 
今では、ちょっと押しの強い優しいママさんの韓国料理のお店はない。
あれほど韓流ブームで歓迎ムードだった、日韓の関係も雲行きがあやしい。
 
それでも信じたいのだ。
きっと国という塊で関係が悪くなっても、個人レベルでは良好な関係を願う人も多いはずだと。
 
なぜなら、1人1人は「ごはん食べた?」と気遣う、情け深き隣人なのだから。
 
 
 
 

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2019-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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