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姉弟はまるでワインのようだ


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記事:鹿内智治(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「早く夕食を食べなさい!」
「うるさいな~、食べるって言ってんじゃん!」
「なんだその態度は!」
 
これは、私が中学1年のとき、家の夕食の席で毎日あった、父と姉のやりとりだ。
 
私には2歳上の姉がいる。
私が中学1年になったころ、姉の反抗期が始まりに両親に対する態度が急にひどくなった。
父は姉の反抗的な態度は許さない。夕食中はたいがい父が姉に注意する時間だった。
「そういう言葉遣いはやめろ!」注意する父に、姉は無視。
「そういえば、部屋はきれいにしたのか!」と言う父に、姉は無視。
「今から部屋に入って確認するぞ!」と父は姉の部屋に夕食中でも入っていった。
部屋の中に入った途端、「なんだこれは! 全然片付いてないじゃないか! ちょっと来い!」とヒートアップする父。
面倒くさいという顔をする姉も部屋に入って、父の怒りはさらに高まる。
「服も脱ぎっぱなし、マンガも読みっぱなし、本も出しっぱなし、どうなってるんだ! 今すぐ片付けろ!」
怒られた姉はしぶしぶ部屋を片付けるということを毎日のように繰り返していた。
 
横で見ていた私はいつもイライラしていた。
「姉は本当にバカだ。どうして父親が怒るようなことするのさ?」
「お前のせいで、家の雰囲気がめちゃめちゃだ! ふざけんな!」
反抗的な姉を反面教師にすることを誓った。
このころから私は、姉が嫌いになっていった。
 
そんな姉も、私たちがまだ小学校のころは自慢の姉だった。
勉強やスポーツや芸術ができたわけではないのだが、いつも人気者で、姉は人を引き付ける魅力を持っていた。
 
たとえば、小学校の通学路にある家のおじいちゃんと、いつのまにか仲良くなり、帰りがけに、お菓子をもらったり、おしゃべりをしたりして、孫のように可愛がってもらっていた。
不器用な私からすると「いつのまに?どうやって仲良くなるの?」と不思議に思ったものだ。
 
ほかにも、姉弟で近所のピアノ教室に通っていたころ、私は真面目に練習していたが、姉はどうやら練習そっちのけで、ピアノの先生とおしゃべりしていたらしい。
いつの間にか先生とも仲良くなり、先生が着なくなった服をもらうようになったり、先生の自宅に招かれてお茶を飲んだりするほど仲良くなっていた。
 
さらに、毎年お正月に親戚一同が集まる場所でも、姉はずけずけと大人の会話に入り込み、親戚のおじさんおばさんを盛り上げたり笑かせたりして、ひとり見せ場を作るような小学生だった。
 
人と仲よくなる力がある姉を誇らしく思っていた。
 
でも私が中学生になったころから、姉の子供じみた反抗をする態度を見るたびに、姉のことが嫌いになっていった。
 
姉が高校に入ると、家にいても私は姉と会話することはほぼなくなっていた。
その後、姉は高校卒業と同時に看護専門学校に入って独り暮らしを始めて、家を出て行った。
家を出て、やっと羽を伸ばせると姉は思っただろうが、看護学校はかなりきついと母経由で聞いていた。
 
病院での実習が相当きつかったらしい。数か月間看護あたっていた人が亡くなるところに立ち会ったり、まだ小学生くらいの子が長期入院するのに立ち会ったり、夜勤も大変だったり、精神的にも体力的にもつらかったらしい。そのせいで5キロほど体重が落ちたという。「だらしなかった姉も頑張っているんだ」と思った。
 
私も姉に数年遅れて社会人になった。第一希望の会社に入る事できて、「さあ、頑張るぞ!」と意気揚々と会社に通い始めたが、現実は厳しかった。マニュアルのない仕事をやらされて意味不明に怒られたり、新人でも仕事の立ち上げから実行までをやらされたりして「これが仕事か?」とヒイヒイ言うことがあった。「仕事はこんなに辛いものか」と悩んだ時期もあった。でもその悩みも時間とともに解決していった。
 
私は姉よりも1年早く結婚して、子どもができて、小さな家庭を持つことができるようになっていった。
 
姉も結婚して子どもができて、仕事に育児に家事に奮闘している。これが不思議なのだが、一番実家を嫌っていた姉が、姉弟なかで一番実家のそばに住んでいるのだ。
 
最近では、実家に集まって近況を話したり、子育ての事、家庭の事などを相談し合ったりするようになっている。いつのまにか仲のよい姉弟の関係になっていた。
 
学生のころは、全く話さない時期があったが、今では、そんな時期はウソのように、ずっと仲の良かった姉弟のように、互いの意見や本音を言いあえるようになっている。それがとても嬉しいのだ。
 
姉弟はまるでワインのようだと思う。
ワインは時間をおいた方がおいしくなるかなぜかご存じだろうか?
それは、良いワインほど、出来立てのころは渋みや酸味が強くてとても飲みにくいのだが、時間をおいて、熟成していくにつれて、強烈な味は丸みが出てきて、芳醇な味になっていくそうだ。ものによっては10年から30年おいた方が良い味を出すと聞く。
 
まさに姉弟の関係と似ていると思う。
学生のころは、互いに棘があり、個性が強く、とても人に見せらるものではなかったが、時間が経つにつれて、経験を積み重ね、人間的に丸みが出てきて、良い味が出せるようになったのかもしれない。これからも、それぞれがもっと良い味を出しながら、人生を全うしたいものである。

 
 
 
 
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2019-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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