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メディアグランプリ

時速500kmの不協和音


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高橋 弘旭(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
先日、買い物を終え、駅に向かって通りを歩いていたとき、一人の男性が視界に入った。同時に、素敵な歌声とギターの音色が聞こえてきた。彼はマイクをアンプにつなげ、ギター一本の引き語りスタイルで、その歌声を披露していた。譜面台やキャリーカートには、名前や自己紹介、目標が書かれたスケッチブックが立てかけられていた。自主制作のCDはギターケースの中に広げられ、何枚か売れたのか、お金がギターケースに入っていた。
 
彼は路上ミュージシャンだ。
 
自作した歌詞と曲を、自らの声とギターの音色にのせて、行きかう人々に向けて演奏している。しかし、人々はその歌声を気にもせずに歩いていく。それでも彼は歌い続ける。それが路上ミュージシャンだ。
 
わたしはかつて、路上ミュージシャンにあまりいい印象をもっていなかった。音は大きいし、興味のないビラを渡されるし、魅力的とは思えない演奏が勝手に耳に入ってくる。「どうしてここで歌っているんだろう」そんな気持ちを抱く日もあった。
 
しかし、あることがきっかけで、路上ミュージシャンに対する印象が変わった。
 
それをどこで知ったのか今はもう覚えていない。ネット記事か、ラジオか、SNSだったかも。しかし、その内容は確かに覚えている。路上ミュージシャンを見るたびに、その内容を思い出す。
 

 
ある夜、デート帰りの二人が歩いていたとき、歌っている路上ミュージシャンが目に留まった。彼女が「路上ミュージシャンってダサいよね」と言った。すると彼氏は「そうだね。早く行こう」とは言わず、「かっこいいと思う」と言った。「自分の夢に向かって進んでいる。その姿を否定することは誰にもできないんじゃないかな」そう彼氏が言ったのだ。
 

 
私はそれを読んだとき、たぶん彼氏は、夢をあきらめたことがあるか、あっても叶えられずに毎日を過ごしているのだろうと感じた。夢に向かって進み続ける路上ミュージシャンと、夢に向かって進むのをやめたか、進めていない彼氏。彼は、そんな自分を路上ミュージシャンに重ね合わせて、「かっこいいと思う」と言ったのだろう。
 
それからは、路上ミュージシャンを見るたびに、「夢に向かって進んでいるんだ」と思うようになった。すると、今まで雑音に聞こえていた歌声や音色が、心のこもった歌に聞こえてきた。「応援しています。いつかきっと、たくさんの人の心に響くミュージシャンになりますよ」そう心の中で思うようになった。
 
路上ミュージシャンはそのほとんどが歌声を聞かれることなく、素通りされる。ときには暴言を吐かれたり、警察を呼ばれて注意されたりもする。聞き手にとって不愉快な存在であることが多い。聞きたくないのに、勝手に耳に歌声が入ってくる。寝耳に水ならぬ、寝耳に歌だ。
 
一方、路上ミュージシャンは、たくさんの人に歌を届けたい、心に残ってほしいと願って歌っている。さみしさや孤独に襲われながらも。そしていつか、満席で武道館ライブを成功させるという夢のために、今日も明日も、路上で歌う。その道のりはとても長く、日の当たらない、いつまで続くかわからない暗いトンネルを進み続けているようだ。
 
暗く、長いトンネルを進むのは路上ミュージシャンだけではない。あの時速500kmで走る乗り物だってそうだ。たくさんの人々の期待、楽しみを背負って、開業に向けて建設中の、あのリニアも暗く、長いトンネルを進むことになる。
 
リニアは品川~名古屋を40分で結ぶ。その距離は286km。そのうち地上区間は約38km。全体の約13%で、残りの87%、248kmは地下、つまりトンネルだ。騒音問題、土地買収、建設費用など、様々な要因のため、地下を走ることになった。きっと将来、暗いトンネルを走るリニアには、家族、サラリーマン、若者など、さまざまな人々が乗るだろう。それはつまり、リニアには、人々の「楽しみ」や「不安」といった気持ちや、経済、夢、希望などがたくさんつまっているということ。
期待や不安を持ちながら、暗いトンネルの中を走行し、やがて地上へ出る。そこは、あふれるほどの太陽の光がさし、何もなかった風景から高層ビルや住宅街、田園などの景色へと変わる。暗いトンネルからは想像もつかない世界が広がっているだろう。
 
私が見た路上ミュージシャンは、今も暗いトンネルを進み続けていると思う。不安や、やるせない気持ち、こんなはずじゃない、……。気持ちに押しつぶされそうになるときもたくさんあると思う。それでも、歌い続ける。いつか暗いトンネルを抜け、光が差し込む地上へ出るその日が来るまで。
 
 
 
 
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2019-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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