週刊READING LIFE vol.76

ゆとり世代の本気の働き方《週刊READING LIFE vol.76「私の働き方改革~「働く」のその先へ~」》


記事:中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「死ぬ気で働いたことある?」と相手は僕の顔を見て言った。
この言葉が僕の頭から消えてくれない、一人に言われた訳ではない、社会人になって何人にも言われた。
 
どうして、言われるのだろう、僕には理解できない。
僕の顔が童顔だからだろうか、ラクして生きているように
見えるからだろうか。
 
その言葉を浴びた時、必ず心の中で叫んでいる事がある。
「あなたに、僕の何がわかるんだ」って。
 
でも、一度もこの言葉を口に出した事がない。弱い人間で、臆病者だから。
 
「死ぬ気で働いたことある?」と聞いてくる人の多くは、僕よりも立場が上の人、その言葉を僕に浴びせる人は、僕以上に苦労をしてきて、誰よりも自分は一生懸命に働いてきたという自負があるのかもしれない。
 
でも、その自負って、自分だけの価値観で、自己満足の世界じゃないの? と臆病な僕は心の中で思ってしまう。誰にも、死ぬ気で働くなんて無理だし、本当に死んだ場合、誰も責任を取ってはくれない。
 
その事を僕は、祖父と父親を病気で亡くして知った。
その苦しみを知っている人なら、絶対に「死ぬ気で働いたことある?」なんて言葉を
使えるはずがない。
 
人の言葉は、鋭利な刃物になるし、人を傷つける。
その鋭利な刃物で切りつけられた心の傷をどのように処理したら良いか、僕は社会人になってから、ずっと考えてきた。
 
ただ、自分が人間として未熟なだけなんじゃないかと……。
 
大学時代は体育会系の部活で朝から晩まで練習したし、大学を卒業して研究がしたくて、
大学院に行った時は、仮眠をとって研究した日々を今でも忘れた事はない。
 
それでも、僕はゆとり世代である。
ゆとり世代である事は事実だし、変えることはできない。
 
ゆとり世代として見られるなら、逆にゆとり世代に見えないような働きをすれば良いんだと、社会人になって、僕は思った。
 
休みの日もPCを開いて、仕事をこなし、雑用も率先して引き受けた。
すると、ゆとり世代と見下していた人達から、少しずつ掛けられる言葉が変わってきた。
 
「いつも頑張ってるね、しっかり休めよ」なんて、優しい言葉を掛けてくれるようになる。
そこで、感じた事は誰よりも長く仕事をするだけで、認めてもらえるんだ、なんてラクなんだって。
 
結果ではない、長い時間仕事をするだけで、褒められるのであれば、誰にだってできる。
少し早く起きて仕事をし、少し遅くまで仕事をすれば良いんだから。

 

 

 

誰よりも長く仕事をするスタイルを続けている内に、僕は自分を見失ってしまっていた。
体よりも心が先に壊れてしまった。
 
「何の為に、仕事をしているんだって? 生活の為?」と自分の心に聞いても返って来なくなった。
 
何も楽しくない、何で仕事をしているのか、わからない。
気がついたら、会社の為に働く社畜になっていた。
 
ただ、仕事が残っている限り、仕事を黙々とこなした。
むしろ、仕事が無い日が怖くて、仕事を求めるようになって、仕事を生み出してしまっていた。
 
次第に、僕の体に異変が起きるようになった。
父親が亡くなって1年後あたりから、車で得意先に向かう途中に自然と涙があふれるようになった。
 
もう、限界だった。誰よりも負けないように長い時間、仕事の為に自分の貴重な人生の時間を使ってきた。
 
すべては、ゆとり世代だと馬鹿にしている世代を見返したくて、見栄を張っているだけだったらしい、自分は違うのだと信じたくて。
 
その頃、すでに仕事をしている意味を見いだせなくなっていた。
ただ、結婚し、子供もいる自分が仕事をする意味がわからないから辞めますだけでは、あまりにも無責任だし、やっぱりゆとり世代だからと言われるのが、怖かった。
 
それでも、僕は会社を辞めることにした。
 
家に帰って、妻の顔を見るなり、大人になったはずの僕は、涙を流しながら謝っていた。
「ごめんな、もう無理だ、会社を辞めさせて欲しい」と。
 
妻から、「十分頑張ったんじゃない、なんとかなるわよ、辞めたら良い」と言ってくれた。
その言葉を聞いて、僕は体が軽くなるのを感じた。
 
ずっと、誰かに認めてもらいたくて、一生懸命仕事をしていた僕を一番近くで見てくれていたのは、妻なんだと、その妻から発せられた言葉は、傷ついた僕の心を癒やしてくれた。
 
何より、生きている価値を教えてくれているようだった。

 

 

 

辞める事を決めてから、自分は何がしたいのか、を考えながら過ごしていたら、ある一冊の本に出会った。「複業の教科書」(ディスカバー 西村創一朗著)である。
 
今までの自分とは違う働き方が書かれていた。
 
ずっと、僕は最初に入社した会社に骨を埋めるつもりでいた。
だから、何を言われてもなんとか、やり過ごすことができていたんだと思う。
 
その考え方は、どうやら古かった。ゆとり世代のはずが、バブル世代の考え方に囚われていた。
 
2018年、働き方が大きく変わろうとしていた。まさに、複業解禁元年である。
 
今までのように、最初に入社した会社で一生勤めるのは難しい時代への突入をある意味示している。自分の寿命より会社の寿命の方が短いかもしれない。
 
無事に、縁があって次の就職先が決まった。
その時、僕は決心していた、その仕事以外に二つの事を始めると。
 
一つはライティング、もう一つはコーチングである。
この二つは、何も無いところから自分という人間を通して何かを生み出し、価値を届けることができるのではないかと思い、始めることにした。
もちろん、どちらも妥協せずに、プロになる意識で取り組む為に、お金を払って学ぶ事にした。
 
同時に3つの事を始めるのは、まさに未知なる働き方への挑戦、ワクワクが止まらない。
何か、今までの時間が嘘だったかのように、1日1日の流れていくスピードが加速していった。
 
仕事が終わった後は、その他の二つの事に時間を掛けて取り組む。
そんな日々を送っていた。
 
すると、仕事がどんどん忙しくなっていく。
仕事をどんなにしてもしても終わらない、気がついたら新たに始めた二つの事に割ける時間がどんどん減っていってしまった。
 
何も変わっていない、自然とバブル時代の働き方に戻ってしまっていた。
これは、まずいと思い、仕事をする時間を何時までと決めた。
 
はじめの頃は、応急処置として良かったが、次第に仕事の時間がどうしても長くなっていく。
どうして、こうなるのか、僕にもわからない。
 
やっぱり、今までに染み付いてしまった習慣が抜けきれないんだ……、と自分の不甲斐なさに、自分の弱さが浮き上がってきていた。
 
お金をもらう以上は、時間を掛けてでも一生懸命に仕事をしないといけないという感覚はどうやら、そう簡単には抜けきれないらしい。
 
同時に、この仕事をクビになる訳にはいかない、家族を養わないといけないんだという責任感が僕を苦しめていた。
 
悩んだ僕は、本屋に行き一冊の本を手にした「なぜ、あなたの仕事は終わらないのか、スピードは最強の武器である」(文響者 中島聡著)である。
 
この本を読んで、今の仕事をどうやったら終わらせる事ができるのか、学ぶ事にした。
前から何度も目にしていたが、何度も読んだハウツー本だろうと思っていたのだが、
FaceBookで書かれていた記事を読んで、違うかもしれないと思い、買う事にした。
 
まさに、目からウロコのことばかり、書かれていた。
今では、当たり前のように、右クリックを使っているが、この右クリックを作った著者からのメッセージは今の僕には痛みを伴うほど、心に刺さってきた。
 
その伝わってきたメッセージは、頑張るとかやらなければならないと思わないとできない仕事はするなという事であると思う。
 
その仕事をしているうちは、自分の時間を浪費しているだけで、決して仕事は終わらない、本来持っている力を発揮する事ができないから。
 
そうだったのかと気付かされたことがある、火事場の馬鹿力というのは、出そうと思って出るモノではないという事。だから、自分の中にある気がついていない力を出す為にも、出そうと思って出るモノではない、自然と出ているモノなんだって。
 
この本には、仕事を終わらせる為の方法論、仕事を15分毎に区切って考えるなどが書かれているだけじゃない、仕事をする上での考え方まで書かれているのである。
 
今の僕は、この本に書かれている仕事の仕方を実践している、すべてを実践出来ている訳ではないが、1日を15分単位で区切って、チェックして振り返る事で間違いなく仕事を終えるスピードが早くなっている。
 
これだけを実践しても、大きくは変わらないかもしれない。
その中でも、自分が何をしたくて、何がしたくないのか理解するようにしている。
 
今までのように長く働くことが評価される時代は終わる違いない、いや、もうとっくに終わっているのかもしれない。
 
時間内にいかに早く仕事を終わらせる事ができるのか、頑張るのではなく、スピードと結果が求められる時代になっている。
 
そんな中でも、自分の人生という限りある時間をどのように使うのか、その事を一生懸命考えて実践していく事が、ゆとり世代に求められている今の働き方なのかもしれない。
 
生活する為に働く、誰かに認められる為に働くのではなく、なりたい自分を実現する為の手段として働くという選択していると言えるようになりたい。
 
これがゆとり世代の本気の働き方である。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

島根県生まれ、東京都在住、会社員、妻と子供の3人暮らし、奈良先端科学技術大学院大学卒業、バイオサイエンス修士。現在は、理想の働き方と生活を実現すべく、コーアクティブ・コーチングを実践しながら、ライティングを勉強中。ライティングを始めたきっかけは、天狼院書店の「フルスロットル仕事術」を受講した事。書くことの楽しみを知り、今に至る

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2020-04-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.76

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