人生に「ハレの日」をつくる写真館/ハレノヒ柳町フォトスタジオ《僕は大きくなったらカメラマンになりたい「SONY α7RⅡ 超速勉強記」》
❏「ハレの日」をつくる写真館
その写真館は決して大きな都市にあるわけではない。
佐賀市は県庁所在地と言っても、その人口は約24万人でしかなく、佐賀県全体としても約83万人でしかない。
ちなみに、お隣、福岡市の人口は約155万人であり、福岡県全体では約510万人であって、それと比べると商圏としての佐賀がいかに小さいかがわかる。
その佐賀市柳町に、ハレノヒ柳町フォトスタジオがある。
「フォトスタジオ」と銘打ってあるが、有り様としては「写真館」に近い。
思い出してほしいんですけど、とオーナーで著名なフォトグラファーでもある笠原徹さんは言う。
「七五三や入学式のときに、写真館で写真を撮ることがあったと思うんですけど、そのときの印象ってどうでした?」
たしかに、僕も七五三や小学校の入学式の際になど、町の小さな写真館で写真を撮ってもらった覚えがある。実際に、実家のほうにはそのときの写真が残っているはずだ。
「緊張しましたよね、写真館で撮ってもらうことなんてあまりないですから」
そうですよね、と笠原さんは笑う。
「ハレノヒでは、無理に型にはめることをせずに、お客様の一番自然ないい笑顔を引き出して写真を残します。実は、僕とはじめとするカメラマンがシャッターを切らずに、お客様自身に切ってもらうこともあるんですよ」
「カメラマンが、シャッターを切らない?」
その言葉に僕は食らいつく。なぜなら、僕が究極的に目指すのは「シャッターを切らないカメラマン」だからだ。
福岡で大人気の福岡女子の解放区「天狼院裏フォト部」も、そこを目指して開催している。
「人は写真を見ると、撮られたときのことを思い出しますよね。写真はその瞬間を切り取りますが、それは映画のフィルムの1コマのようなものであって、前後に物語があるはずです。ハレノヒではその前後の物語まで演出したいと思っています」
たしかに、写真は一瞬を切り取るものだが、その前後のストーリーが見える写真は、とてもいい写真に思える。
「たとえば、娘を嫁に出すことを大反対しているお父さんがいたとして、ハレの日に、花嫁と新郎を前に、シャッターを切るのがそのお父さんだとしたら、そこに物語がありますよね。その瞬間を見ると、お母さんが涙をするんです」
笠原さんの言っていることが、すっと僕の心に入ってくる。
「いつか、そのときの写真を見たときに、家族はその日の物語とその日の感動を同時に思い出すということですね」
そうです、とダンディな笠原さんは頷く。
僕は想像してみた。そんな写真館はあっただろうかと。
少なくとも、僕はそんな写真館に出合ったことがなかった。
もし、小さなときから、近くにそんな写真館があったらどうだろう。
家族のあり方が、すこし、変わったかも知れない。
鮮やかな思い出は、人と人を繋ぐ役割を果たす。
そして、写真は、そのためのとても有意な「媒体(メディア)」となりえる。
写真館は、町の人の「ハレの日」を写真として残すが本来の役割だが、もしかして、ハレノヒ柳町フォトスタジオは、ハレの日をつくる新しい写真館なのかもしれない。
❏ビジネスとしての写真館
ハレノヒ柳町フォトスタジオには、オーナーの笠原さんを含めて5名のスタッフがいる。
古民家を改装したスタジオの入口は、町の写真館のような入りにくさは一切なく、まるでおしゃれな雑貨屋のようで、佐賀市柳町という古い町並みが立ち並ぶ一角で、来る人も写真館だとは思わずに気軽に入ってくるという。
そこには、これまでの写真館とは一線を画したい笠原さんのこだわりがあった。
中に入ると、とても天井が高いスタジオになっていて、広く、居心地がとてもいい。
ロール式の背景紙が長く垂らされて、プロフォトのストロボ機材が並ぶ。
僕らが行ったときも奥のソファー席で、来店したお客様とスタッフの方が、楽しそうに写真を選んでいた。
僕らもプロフォトのストロボ機材を使わせて何枚か撮らせてもらった。一緒に行った天狼院のスタッフの山本海鈴を撮ってみた。
やはり、スタジオでのストロボを使った撮影は、楽しい!
ハレノヒ柳町フォトスタジオでは、基本的には、1時間3万円で撮影をする。
たとえば、天狼院書店では月に何度もフォト部やフォトゼミのイベントがあるが、スタジオを借りる場合は、かなりの金額を貸スタジオ側にお支払しているし、さらに照明機材を借りるとなると、やはり、その分だけお支払している。
スタジオを借りて、プロのカメラマンに写真をとってもらい、プロの機材も使うとなると、妥当な額だろうと思う。
ちなみに、安売りを自称する写真館もあるが、入り口として、5,000円からなぞと言って、結局はお支払いとなると4,5万を平気で請求するところがざらである。
もちろん、1時間3万円は基本で、デザイナーがデザインした写真集やアルバムなど、出力の形式によって、加算されることになる。
ただし、「ハレの日」をそのストーリーごと残すと考えると、決して高くはない。
「写真館は、経営が成り立たないところが多くて、後継者がいなく、全国からなくなりつつあるんですよ」
と、笠原さんは言う。
まさに、書店業界と同じような状況が、写真館の業界にも起きている。
いや、それ以上かもしれない。
技術革新が進み、機材さえ持てば、誰もがプロに近い写真を撮れるようになり、カメラマンの需要と撮影単価はものすごい勢いで、下降しているという。
けれども、人生に「ハレの日」をつくるという新しい価値を提供するハレノヒならば、人に必要とされるのではないか。
全国に、ハレノヒがあれば、面白いことになる。
佐賀市にあることもポイントである。
最初に書いたように、佐賀市の商圏人口は決して多くはない。
そこで、ハレノヒというビジネスモデルが成立しているのであれば、全国いたるところで、ハレノヒができるということだ。
僕は、ここに希望があると考えている。
たとえば、僕が経営する「天狼院書店」という新しい業態は、人口100人以上を商圏の想定人口と考えて設計されている。
たとえば、佐賀市に「天狼院書店」を作って、黒字で運営する自信は、正直言ってない。
もっとも、コラボレーションなど、様々な可能性はあるだろうが、設立してそれを軌道に乗せるのは容易ではない。
けれども、ハレノヒは違う。
たとえば、岩手県盛岡市にあっても、このモデルは成立するだろう。
しかも、カメラマンは笠原さんでなくてもいい。
現に、僕らが行ったときには別のカメラマンの方が対応していた。
これは、このビジネスモデルが笠原さんの工数を考えることなく、増える可能性があることを意味する。
もし、自分の住む街の近くに、ハレノヒがあればどうだろう。
その写真館は、思い出を紡ぐポイントとなって、人々のストーリーの保管場所となるだろう。
家族や愛する人との絆が、もしかして、ハレノヒがあることによって、見直されるかもしれない。
❏僕がカメラマンになれる理由
実は、写真館についてすぐに、この連載のことを知っている笠原さんは笑顔で僕にこう言った。
「三浦さんはカメラマンになれますよ」
長年写真で食べているプロのカメラマンにしてみれば、この企画は片腹痛いのではないかと正直危惧していたが、僕を知るプロのカメラマンの方々は、そう言ってくれることが多い。
しかも、その理由がそれぞれ違うから面白い。
「どうして、そう思うんですか?」
「三浦さんはコミュニケーション能力が高いからです」
「コミュニケーション能力?」
はい、と笠原さんは頷く。
「お客様とコミュニケーションをとることは、カメラマンにとって非常に重要です。特に人を対象とする場合はそうです。笑ってください、ではやはり、笑顔はぎこちなくなります」
なるほど、と僕は思う。
「言葉によって、自分が撮りたい画を被写体から引き出す、ということですね」
そうです、と笠原さんは言う。
「会話をしているうちに、徐々に、一番いい笑顔を引き出す。ポーズを引き出す。たとえば、撮りたい最高の笑顔をしたときに、シャッターを切ったのでは1テンポ遅くなるんです」
「どういうことですか?」
「被写体が、次にこういう表情になるだろうなと予測しながら会話し、その表情が出た瞬間にはすでにシャッターを押していなければ、チャンスを失うことになります」
なるほど、と僕は思う。
「あ、今の表情は良かったです、もう一度っていうわけにはいきませんもんね。もう一度って言われて作った表情は、やはり、自然じゃなくなりますもんね」
「そのとおりです」
最後に、笠原さんの写真を撮らせてもらうことになった。
プロのカメラマンにカメラを向けるというのは、さすがに緊張する。
被写体は最高にいいのだが、なかなか、うまく撮れない。
それで、僕が一緒に写ることになった。
カメラマンは一緒に行っていた海鈴に変わった。
僕と笠原さんは、あれこれ話していたので、シャッターを切られていることを意識しなかった。
「海鈴さんが撮った写真のほうが、自然な表情をしていたと思いますよ」
と、笠原さんが言っていたとおりだった。
話しながら海鈴に撮られていたほうが、笠原さんも僕も表情が自然だった。
これが、コミュニケーションかと、とても納得だった。
ハレノヒ柳町フォトスタジオ
〒840-0823 佐賀市柳町4-16(旧久富家住宅102)
TEL 0952-20-0747 FAX 0952-20-0748
営業時間10時~18時(定休日:月曜+不定休)
これからも笠原さんとハレノヒ柳町フォトスタジオさんと、様々コラボしていくと思いますので、お楽しみに。
笠原さん、スタッフの皆さん、ありがとうございました。
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